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岩手競馬が禁止薬物問題でやっと刑事告発

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

もはや遅きに失したとしか言い様が有りません。以下、産経新聞より転載。

岩手競馬が刑事告発 禁止薬物問題

https://www.sankei.com/region/news/190124/rgn1901240004-n1.html

岩手競馬の競走馬から相次いで禁止薬物のボルデノン(筋肉増強剤)が検出された問題で、県競馬組合(管理者・達増拓也知事)は23日、容疑者不詳のまま、競馬法違反罪で県警に告発状を提出した。

昨年の7月から始まり9月、10月、12月と計4回もの禁止薬物使用が判明していた岩手競馬が、やっと一連の事件を刑事告発したというこの問題。本件に関しては、日刊SPA!にて連載中の対談シリーズにて昨年末の時点で以下の様にコメントさせて頂いておりました。

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https://nikkan-spa.jp/1540149

木曽崇:じゃあ僕は地方競馬の話で。年の瀬の岩手競馬のドーピング問題は、「やっぱりな」という印象です。4頭のドーピング発覚後、11月にレース再開したけれど、12月25日に5頭目のドーピングが発覚して1月7日までレース休止になったんですよ。

POKKA吉田:またかいな。確か前回は、「外部のしわざや!」ってことで、厩舎に監視カメラを付けたんよね。

木曽崇:そう。犯人も目的も原因も解明されないまま、監視カメラを付ける対応をとって再開されて、再び不正薬物が検出された。岩手競馬の場合は岩手県が主催者・事業者の立場なので、何か問題が起こっても自分でやめられないんですよね。岩手県知事自身が言っているんですが、競馬で収益を出すこと・赤字化しないことが最大の命題になってしまっていて。ファンにとって公正なルールのもとでの競争ができていないっていうのは、決して健全な状況ではないですよね。残念ながら、公営競技の業界構造上の問題が出ているのかなぁと思います。

競馬における禁止薬物使用、すなわちドーピング行為というのは競馬法第31条第2項によって禁止された、懲役刑までもを含む明確な違法行為です。

第三十一条 次の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

[…]

二 出走すべき馬につき、その馬の競走能力を一時的にたかめ又は減ずる薬品又は薬剤を使用した者

岩手競馬は今回の刑事告発にあたって「悪意の第三者による犯行の可能性が高まった」などとコメントしていますが、上記規定は競馬競走の運営主体を守る為に定められているものではなく、賭け事の対象となっている競馬競走そのものの公正性の保持、ひいては顧客となる競馬ファン達の保護の為に定められている規定なのであって、本来はそれが第三者による犯行だろうが、身内による犯行だろうが一切関係ないのです。正直申し上げて岩手競馬の方々は、上記競馬法による薬物使用禁止の規定の「意味」を全く理解していないのだな、と思った次第であります。

また、この様な問題が起こった場合、例えば民業であるパチンコ業界ではそれを監督する立場にある警察(公安委員会)から営業停止を含む厳しい行政上の措置を受けるのが通例であり、またこれから日本でも運営が始まるカジノ業においても同様な措置が行われるワケですが、競馬も含む公営競技業界では国側の監督官庁がその運営主体である地方自治体等に厳しい措置を講ずる例は殆どありません。その様にして生まれた「なあなあ」体質が、結果として問題が4度起り、それが「第三者の犯行の可能性が高い」と判断されるまで刑事告発をしないという、今回の岩手競馬のスタンスに集約されてしまっているわけです。

競馬法第24条の2には、競馬競技の監督官庁である農水省の長たる農水大臣は、競馬法に違反して競走を行った主体に対して運営停止までもを含む強力な監督権限が定められているわけですから、この条項を形骸化させぬよう、本問題にあたって農水省は厳しいスタンスで臨んで頂きたいと個人的には思う所です。繰り返しになりますが守るべきは競馬競走の公正性そのものであって、岩手競馬ではありません。

第二十四条の二 農林水産大臣は、日本中央競馬会、都道府県又は指定市町村が、この法律若しくはこの法律に基づいて発する命令に違反して競馬を行つたとき、又は第四条若しくは第二十一条の規定により競馬の実施に関する事務の委託を受けた場合において当該委託に係る事務の執行としてこの法律若しくはこの法律に基づいて発する命令に違反して競馬の実施に関する事務を行つたときは、日本中央競馬会、当該都道府県又は当該指定市町村に対し、競馬の停止若しくは委託に係る競馬の実施に関する事務の執行の停止を命じ、又は必要によりこれらの事項を併せて命ずることができる。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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