本物の“劇場”型のイタリア料理店がオープン 最初の一品では7つの音色を味わえる!?
劇場型のレストラン
カウンターガストロノミーが隆盛を誇って久しいです。様々なコンセプトをもつ劇場型のレストランがありますが、本物の“劇場”型レストランが2023年9月1日に参宮橋でオープンしました。
そのレストランとは「Orchestra(オルケストラ)」です。Orchestra=オーケストラという店名通り、劇場で楽曲を楽しむように食事を楽しめます。
8席のカウンター
店内にあるのは、わずか8席だけのカウンター。ここではシェフの小川慎二氏による“今、日本にいる自分にしかつくれない料理”が味わえます。
小川氏はイタリアで7年間研鑽を積み、トラットリアの素朴な郷土料理からリストランテのイノベーティブな料理までを幅広く習得しました。日本各地の優れた旬の食材の魅力を引き出し、その食材が生まれた風土や取り巻くストーリーも含めて表現しています。
支配人を務めるソムリエの矢島聡氏は、フランス料理とイタリア料理の名店で研鑽を積んできました。豊富な経験ときめ細やかなサービスから多くのゲストに信頼されており、その知見から小川氏の料理にぴったりなワインをセレクトします。
ディナーコースのみ
「Orchestra」で体験できるのは小川氏が自信をもつディナーコース(16,500 円)のみ。アミューズ、前菜3品と、パスタ2品、口直し、メインディッシュ、デザート、カフェの10品という構成です。
ワインペアリング(9,900円)に加えてティーペアリング(6,600円)も用意されています。
では、コースで提供された全ての料理を紹介しましょう。
お楽しみ7種
アミューズは7種類で、ピアノの鍵盤をモチーフにした黒と白の配色。店名にぴったりな最初の一品です。旬の素材を用いており、食味と食感が異なる7つの音色を楽しめます。左から順番に紹介するので、この通りに食べるとよいでしょう。
「イワシのソットアチェート(ビネガー漬け) 酢漬け」はイワシの脂とビネガーの酸味が心地よいバランス。上には緑が映えるミントの葉。「甘エビ(南蛮エビ)ビーツのビネグレット 花穂紫蘇」は甘海老のとろっとした甘味と花穂紫蘇の香りが印象的です。「ブルーチーズとキャビアのブルスケッタ ブリオッシュ」は、ブリオッシュ生地がチーズやキャビアと抜群の相性。
「ピアディーナ」はくるりと巻かれており、ピンで止めてピンチョス風に。「トルテッリーニ」はカラっと揚げられていてスナック感覚です。「うずらのコロッケ 秋トリュフ」はとろっとした卵黄とトリュフの幽香が絶妙な組み合わせ。「白レバーのペースト ピスタチオ かぼちゃのマカロン」は様々な風味が交差するマカロンです。
アミューズを食べ終えると、これから提供される料理に用いられる食材のプレゼンテーションが行われます。
トルテッリーニ イン ブロード 鶏節 焼きあご パルミジャーノ
小川氏のスペシャリテで、日本の出汁文化とイタリアのパスタ文化を融合させた一皿。五島列島の焼きあごと鶏節、パルミジャーノ・レッジャーノ、生ハムからとる出汁から構成されています。浮き実には、鶏肉を詰めたトルテッリーニを添えて、イタリアンらしく仕上げました。
五島 林さん ハガツオ 紫大根 キウイ 発酵プラム
歯鰹は鰆と鰹の中間的な味わい。歯鰹とキウイを紫大根で包み、キウイソースに発酵プラムを合わせました。オレンジ風味で爽やかにし、あしらわれたナスタチウムの葉が美しいです。
五島 林さん 九絵 ポルチーニ茸 蔓紫
薪火と熾火が用意されており、九絵は熾火で調理されているので、水分が残っていて実にしっとり。ポルチーニのソースにツルムラサキとアーモンドのソテーといった新しい取り合わせです。ツルムラサキの花によって、色味が添えられています。
ラヴィオーロ リコッタ 法蓮草 卵黄 トリュフ
ラヴィオーロの生地は、華麗な手捌きによって、目の前でつくられます。ラヴィオーロの中には卵黄が包まれているので、割ってからだと、よりおいしく食べられるでしょう。
パン
自家製パンは高加水なので、もちもちしています。添えられているのは、福岡県のマスカルポーネチーズと生クリームのホイップバターです。
リゾット 北海道 坂井さん 毛蟹 玉葱 コーヒー
2時間炒めた玉葱とたっぷりの毛蟹は、リゾットの旨味に負けていません。色合いと香りのアクセントに、コーヒーパウダーを散りばめました。
グラニテ 和梨 エストラゴン ウォッカ
ウォッカをかけて、よりさっぱりと仕上げています。エストラゴンの心地よい香りが、口中に残った味わいをさらりと流してくれます。
阿蘇 赤牛 サーロイン or ふくどめ小牧場 サドルバック(豚) or 2種類の盛り合わせ
メインディッシュは数品から選ぶことができ、一番人気は「阿蘇 赤牛 サーロイン」。あか牛は褐毛和牛なので、赤身肉の肉々しい旨味がたっぷりです。熾火で鮮やかなロゼ色に仕上げられており、噛みしめると妙妙たる味わいが広がります。付け合わせは、石川県高農園のバナナピーマン、牛蒡、人参、香茸。
アーリオオーリオ エ ペペロンチーノ
パン粉で包んで炒ったニンニクが実に香ばしいです。スパゲッティは心地よいアルデンテで、噛めば噛むほどに小麦の香りが広がります。お腹の具合でポーションが調整できます。
黒無花果 塩キャラメル 焙じ茶
新潟県佐渡の黒無花果と塩キャラメルのムース。目の前でパウダーをかけて仕上げてもらえます。
食後のお飲み物と小菓子
ハーブティーはミント、パイナップル、レモングラス、レモンタイム、マリーゴールド。小菓子はカンノーリで、蝋燭の火で炙って食べるといいです。
幅広いワインのラインナップ
ワインは矢島氏が料理に最適な一本をセレクトしてくれます。ワインはイタリア産に固執せず、シャンパーニュやブルゴーニュなどのフランスワイン、自然派ワインから古酒まで幅広くラインナップ。
当日のペアリングの一部を紹介しましょう。
最初はシャンパーニュで、3年以上熟成された「シャルル・エドシック ブリュット・レゼルヴ」。複雑な味わいで、泡も持続性があるので、最初の一杯にはちょうどいいです。「光栄菊 SNOW CRESCENT」は佐賀県にある光栄菊酒造の無濾過生原酒。穏やかな香りとほのかな苦味が印象的で、トルテッリーニのスープの澄んだ味わいと調和します。
ラヴィオーロにペアリングされたのが、「ドラガ・ミクルス マルヴァジア・ミクルス 2018」。華やかなイタリアのオレンジワインで、ふくよかでフルーティーです。「ガヤ カ・マルカンダ マガーリ 2016」はイタリア・トスカーナ州の赤ワイン。たっぷりとした果実味があって、あか牛の旨味をやさしく包み込みます。
店名の由来
「Orchestra」という店名の由来は、小川氏がイタリア修業時代に「一皿をつくり上げるのに数人が同時に手を動かし、集中して仕上げていきます。まるで壮大な曲を演奏するオーケストラのようでした」と感じたからだといいます。
レストランの営業は、生産者、料理人、サービススタッフ、皿やカトラリーを造る職人など、どれかひとつが欠けても成り立ちません。そこにゲストというオーディエンスが加わり、一体化したカウンター8席の劇場が誕生します。
小川氏が今後どのような料理のハーモニーからコースを紡いでくれるのか、ますます楽しみです。