メディアが伝えない「改正出入国管理法の問題点」
地方では外国人受け入れが期待されている
日本の総人口が1億2622万人(2019年3月1日の概算値)と減少数が増加しているのに対して、在留外国人の数は273万人(2018年12月末の確定値)と増加する傾向にあり、全人口に占める割合が2%を超えてきています。
国籍別でみてみると、中国が76万人、韓国が45万人、ベトナムが33万人、フィリピン27万人、ブラジル20万人となっていますが、4月1日に施行された「改正出入国管理法」によって、在留外国人の数はその割合とともに今後もいっそう高まっていくことになりそうです。
政府は人手不足が深刻な14の特定産業分野(農業、漁業、介護、外食、宿泊、ビルクリーニング、飲食料品製造、建設、産業機械製造、素材加工、電気・電子情報関連産業、造船・舶用工業、自動車整備、航空)において、今後5年間で外国人労働者(特定技能を有する)を34万5000人受け入れることを見込んでいます。
とりわけ地方の介護の分野では、外国人労働者の受け入れへの期待が大きいといわれています。受け入れ人数34万5000人のうち、介護の分野では6万人と最大の就労者数が見込まれているからです。
東京圏への一極集中がいっそう進むという問題点
今回の新しい法制度については、「低賃金労働の蔓延」や「失踪者への対応」「法的支援の欠如」など様々な問題点が指摘されていますが、私が経済的視点から懸念しているのは、外国人労働者の東京圏への一極集中がこれまで以上に進むことになるだろうということです。
なぜなら、以前からある「技能実習生」の制度では、外国人労働者は一回決まった勤め先から移動することができなかったのに対して、今回の新しい「特定技能」の制度では、「業種の変更はできないが、勤め先は自由に選ぶことができる」という仕組みが組み込まれているからです。
先進国で働いている外国人労働者の多くは、初めから永住や国籍取得を目的としてやってくる移民ではありません。将来のための貯蓄や母国への仕送りのためにやってきているので、一生懸命働くことによってできるだけ多額のお金を稼いでから帰国しようと考えているのです。
都道府県の最低賃金を上位からみていくと、東京985円、神奈川983円、大阪936円、埼玉・愛知898円、千葉895円と並んでいます。その一方で下位からみていくと、鹿児島761円、青森・岩手・秋田・鳥取・高知・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・沖縄762円、山形763円、島根・愛媛764円と続いています。
外国人労働者の立場から判断すると、地域によって最低賃金が約15%~25%も異なるというのは、働く場所を決めるうえで非常に大きな要素となります。ただでさえ外国人労働者の30%が東京都に集中している現状にあるというのに、外国人労働者が賃金水準の高い東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)に今まで以上に集中していく一方で、地方(とくに東北、四国、山陰、九州など)では人手不足がますます深刻化していくという事態が予想されるのです。
大企業の地方の工場が多い製造業の分野ならまだしも、地方に雇用が集中する農業・漁業といった分野では、外国人労働者が賃金の高い埼玉・千葉に集まる傾向は強まっていくことになるでしょう。また、全国いたるところで人手不足にある介護の分野でも、外国人労働者が希望する介護施設は、東京圏の施設に偏るという傾向に拍車がかかっていくことになるでしょう。
今回の改正法には疑問がある
今回の改正出入国管理法について疑問に思っているのは、国会で法案が審議されていた段階で、その内容がよく詰められていなかったり、法務省のデータが不適切だったことが判明したりと、普通では考えられないドタバタがあったということです。なぜ拙速といわれながらも、あれだけ改正法の成立を急いだのでしょうか。
今回の改正法は表向きには人手不足の解消という大義名分があるものの、その背後には東京圏の大規模な介護施設が地方の介護施設を買収・合併しやすくなるような仕掛けが隠れているような気がしてなりません。というのも、地方の介護施設ではこのまま人手不足が解消しなければ、経営が成り立たなくなるところが相次いでくるのはわかりきっているからです。
そういった意味では、地方で生き残ることができる介護施設は、省人化・省力化のための設備投資が可能な施設だけになっていくのではないでしょうか。