21年卒の迎え入れに3つの課題 「コロナ対応に不満」で退職リスクが急増も
この4月に入社する新入社員の中には、内定後も同期や先輩社員と顔を合わせる機会に乏しく、今後の社会人生活に不安を感じている人が多くいます。人事担当者や上司、育成担当者にはどのような対応が求められるのでしょうか。
2021年卒新入社員を迎えるにあたっての3つの課題
株式会社ディスコが全国の主要企業14,357社を対象に行なった調査によると、2021年度の新入社員研修について4割近くがオンラインの活用を予定し、12.5%が「未定」と回答しています。新型コロナの状況などを見て判断をしていくということなのでしょう。
入社後の歓迎会や懇親会なども、例年通り盛大にやるというわけにはいかないでしょう。感染対策をしながらの“ニューノーマルな働き方”は当面続いていきます。
そのような状況で新入社員を迎え入れる際、大きく分けて3つの課題があります。
(課題1)モチベーションやメンタルヘルスの維持
人と人との接触をなるべく減らす働き方では、先輩や上司と直接やり取りする機会が少なくなりがちです。そうなると、新入社員は「なかなか馴染めない」「質問したり助けを求めたりしづらい」「どう評価されているのか分からない」「組織に貢献できる自信が持てない」といった不安や不満を抱えがちです。同期や友人などとストレス発散する機会も限られ、孤独を感じる人もいるでしょう。
上司や育成担当者の側にも、「コンディションが把握しづらい」「指示を理解しているのかどうか分からない」「適切なタイミングで指導できない」「様子が見えず評価がしづらい」といった難しさが生じます。
双方が「うまくいかない」という感情を抱えたまま状況が改善されなければ、新入社員のモチベーションの低下、最悪の場合はメンタル不調や早期退職のリスクもあります。
(課題2)実務を学ぶ機会の創出
研修で学ぶことも大事ですが、それ以上に重要なのが職場で先輩や上司の振る舞いを見て学ぶことです。
出社するときの服装、社内外の関係者とのコミュニケーションの作法、資料作成にどんなソフトウェアを使うか、仕事に役立つ情報をどこから得るか……こういったことは、業界や企業によって異なる文化があり、周りの人から自然に学んでいくものです。
しかし、テレワークが多かったり、オフィスに行っても人がまばら、といった状況だと、なかなか「自然」には把握できません。
また、やりがいや向上心を育むには、小さなことでも実務を任せていく必要があります。そのためには、まずはお手本を見せ、本人にやってみさせ、その場でフィードバックをするというOJTが欠かせません。これも一緒に行動する機会がなければ実現しません。
結果として新入社員の戦力化が大幅に遅れれば、現場にとって痛手なだけでなく、本人のやる気や自信の喪失にもつながりかねません。
(課題3)コロナ対策が会社への満足度を左右
昨年、2020年卒の新入社員に対して行われたアンケート調査では、会社のコロナ対応に不満がある社員の50.8%が「今の会社を3年以内に退職する予定」と回答しました。コロナ対応に満足している場合に同様の回答をした率は18.6%ですから大きな差です。
コロナ対策に満足な理由としては、「研修中も在宅勤務が快適にできる環境であった」といったことのほか、「接客業としてお客さま向けの対策がマニュアル化されている」「業務上他者との接触は不可欠だが、軽減に向けた措置は早かった」など、テレワークができない場合でも、社員を守る姿勢が見えることをポジティブに評価する声が寄せられています。
一方、不満足な理由としては「もっと早く在宅勤務にしてほしかった」「マスクや消毒液を支給してほしかった」「社内で取り決めた内容が現場まで回ってこない」などが挙がり、「会社が社員を軽視している」という不満が感じられます。
コロナ対応に不満を持った人は、会社のイメージも悪化させています。パンデミックという不測の事態にどう対応するか。そこには個々の企業の体質や文化が大いに影響します。その文化に染まっていない新入社員は違和感や疑問を持ちやすく、それが会社への満足度や勤続意向の差につながりやすい可能性があります。
新入社員が安心できる職場にするためにすべきこと
不安や不満といった新入社員のメンタル面の課題に対しては、以下の2つの対策が有効です。
・新入社員の声を聞く機会をたくさん作る
例年とは違う状況で入社してきた新入社員ですから、人事担当者や上司、先輩が想像もつかないようなことで悩んだり困ったりしている可能性があります。
「困ったらいつでも相談してね」と言われても、忙しそうな上司や先輩に新人から話しかけるのは難しいし、「こんなことを相談していいのだろうか」と迷うものです。テレワークが増えて雑談の機会が減ったり、相手の状況が見えないときは、なおさらです。
このようなときは、日報や週報に「困っていること」などの項目を作る、上司や先輩などと面談(電話やオンラインでも可)の機会を定期的に作る、新入社員対象のアンケート調査をするなど、彼らの声を聞く機会をたくさん作ると良いでしょう。
上司には言いづらいけれど人事担当者になら言えたり、無記名のアンケートなら書いてみようと思えることもあるでしょう。なるべく言いづらいことも言える手段を作り、素直な声を聞くことで、必要なサポートを探っていきましょう。
・社内に様々なつながりを作る機会を提供
新人の不安は、「話を聞き、共感してくれる」存在がいるだけでスッキリすることもあります。
「この会社は合わない気がする。転職しようかと思ってる」など、相手になにかしてほしいわけではないけれど、誰かに聞いてほしい……ということもあるでしょう。
最近は、新入社員に「メンター」や「エルダー」と呼ばれる指導役、相談役の先輩社員を付ける会社が増えています。良い取り組みですが、相性の問題もあります。
それ以外にも様々なつながりができれば、「なんでも話せる社内の人」に出会えるチャンスが増えます。会社として、同期同士や部署や年次を超えた相手と交流や協働する機会を作ってあげ、社内での出会いを増やしてあげましょう。
飲み会などを開催するのは難しい状況かと思いますが、Zoomなどのオンライン会議なら、離れた場所にいる社員同士でもすぐに交流できます。例えば同じ出身地の社員のオンラインランチ、同じテーマに興味を持つ人たちの勉強会など、小さな企画をたくさんやってみるのはどうでしょう。テーマを新入社員に提案してもらうのも良いでしょう。
また、朝礼や社内報などで新入社員の活動や成果を積極的に紹介し、他の人たちに存在を認識してもらうことも重要です。周りの人から「この間、◯◯を頑張っていたね」、「最近は何やってるの」などと気にかけてもらえるようになると、新入社員にとって職場が安心できる場になっていくはずです。
新入社員のスキルアップのためにできること
在宅勤務などが増えていても新入社員の学習を停滞させないためには、以下のような工夫が考えられます。
・オンラインも活用して同席、同行の機会を増やす
仕事をしている姿をそばで見てもらうのが難しくても、会議や商談にオンラインで同席してもらうことはできます。
オンラインなら移動が不要ですから、上司Aと取引先Bの商談に同席した後、続けて先輩Cと取引先Dの商談に同席する、といったことも可能になります。顧客と対面しているときよりもメモが取りやすい、会議などは録画も残せばあとで見直せるなど、オンラインならではのメリットもあります。
ただし、画面の前で漫然と話を聞いているだけでは緊張感や集中力が続きませんし、学びになりません。同席したことを自分の経験として活かすには、振り返りが大事です。
会議や商談のすぐ後に(それが難しい場合は日報などを通じて)、
・同席した場で何が行われたのか
・そこから何を学んだのか
・分からなかったことは何か
といったことを上司や先輩と確認しあい、本人の中に落とし込む機会を作りましょう。
また、小さなことでも少しずつ役割を与え、見て聞いているだけの段階から、参加し貢献できる段階へ、少しずつステップアップさせましょう。それが「できた」「もっとやってみよう」という新入社員のモチベーションにつながるでしょう。
・情報収集の方法や学び方を教える
職場では、雑談の中で業界のニュースが話題に上ったりして、先輩や上司がどういうところにアンテナを張って情報収集しているかが分かってきたりします。しかし直接会う頻度が減ると、目の前の業務以外の学びがどうしても少なくなりがちです。
そこでおすすめしたいのは、チェックしておきたいニュースや書籍などを皆でシェアし合うことです。チャットや掲示板機能のあるグループウェアを使っているなら、そのような投稿をする場所を決めておくと良いでしょう。
また、最近はオンラインで参加できるセミナーやイベントが増えました。昼休み中に気軽に参加できるものも多くありますし、後で録画が見られるものもあります。
こういったものの中で仕事で役立ちそうなものを、新入社員にも教えてあげましょう。会社から参加費の補助などがあれば、なお良いですね。
「インターネットでたくさんの情報が手に入るんだから、自分で調べられるだろう」と思う方もいるかもしれません。しかし、SNSが大きな情報源である今の時代、年代や属しているコミュニティによって見えている情報は全く違うものです。
学生時代から社会人向けのセミナーや勉強会に積極的に参加している若者もいますが、そういうタイプでない新入社員は、あなたが「知っていて当然」と思うような情報に全く気づいていない可能性もあるのです。最初は丁寧に教えてあげ、徐々に勘所が分かってくれば、自分で情報収集して学んでいけるようになるはずです。
「背中を見せて学んでもらう」ということが難しい状況だからこそ、自律的に学んでいくスキルを早く身につけてもらうことが重要です。
コロナ対策の方針は明確に
会社のコロナ対策への不満から組織へのエンゲージメントが低下……という事態を防ぐには、自社の対応方針をできるだけ明確にし、社員に伝えることが必須です、
「感染が拡大してきたら」「社内や取引先に感染者が出たら」といったリスクを予め洗い出し、その状況になったら即座に対応できるように準備しておくことが重要です。事態が悪化してから「どうしよう」と右往左往したり、何も対策しないで様子見の姿勢でいると、「会社は社員の安全をないがしろにしている」と受け取られてしまいます。
例えば会場に集合して行う新入社員研修について、「緊急事態宣言が発令中の場合はオンライン研修に切り替えます」といったアナウンスをあらかじめできていれば、新入社員も安心できるでしょう。
また、「感染リスクを考えると、この業務のやり方は変えたほうがいいのでは」といった疑問を新入社員が持っている可能性もあります。彼らの意見にきちんと耳を傾け、変えるべきことは変えていくことが、会社への信頼を高めることになります。
こんなときだからこそ、せっかく入ってくれた新入社員たちを早く戦力にし、一緒に難局を切り開いていける仲間にしていきたいものです。そのために、ここで述べたことが参考になれば幸いです。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】