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川遊びでライフジャケットしていれば安心? 安全な川遊びの深さを確認しよう

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
川遊びでライフジャケットしてれば安心?安全な川遊びの深さは?(筆者撮影)

 今年は、県境をまたがずに家の近くの川で遊び、夏休みの思い出作りをしようと計画している方が多いと思います。家族連れであまり経験したことがない川での遊び、どれくらいの水の深さだと安全に楽しめるでしょうか。

ずばり、膝下までの深さ

 大人の膝下までの水深であれば、不測の事態があったとしても対処できます。ただし、お子さん連れの場合には大人がお子さんに寄り添いながら一緒に遊ぶことが条件となります。

川の水難事故の多くは深みにはまって溺れる

 川でも海でもなんでもそうですが、溺れた原因の多くは深みにはまって水中に沈み呼吸ができなくなったことによります。その深みに向けて身体が流されて持っていかれたとか、浅いと思って深みに飛び込んでしまったとか、これらは事故のきっかけにしかすぎません。

 救命胴衣(ライフジャケット)を着れば安心と思われがちです。それでも川で遊ぶのはせいぜい膝下の深さまで。腰以上の深さの川で遊んでいると、時には救命胴衣の浮力によって足が川底から離れてしまい、川に流されることがあります。

 救命胴衣は救命具ですから、これを着たまま流されるということは立派な水難事故です。流された人は要救助者、つまり救助対象となります。ですから水難救助は消防などの専門の救助隊に任せることになります。川に流されている子供を追いかけた父・母が途中で力尽き溺死する、気の毒な事故が毎年のように発生しています。

【参考】落水した子供からのお願い 飛び込まないでねパパ/ママ ライフジャケット編

安全な川遊びの深さを確認

 「安全な川遊びの深さは膝下まで」とは言っても、川の規模や場面が変わればやはり危険だったりもします。本稿では「こういう川や場面だったら比較的安全、危険」を動画を見ながら確認したいと思います。

 動画を撮影した場所は、流れが比較的速く全体に浅い川・全体に深い川です。準備もそこそこに軽い気持ちで川に入った人を想定しています。そのため、足にはかかとのないサンダルを履き、救命胴衣の代わりに型式承認を受けていないレジャー品を着装しています。川遊びをしっかりやるための装備とは異なりますので、動画の装備を川遊びのための参考になされないようにしてください。

【参考】ライフジャケットは、十分な性能、正しい着用方法、想定される使用方法であなたの命を守ります

膝下の深さ

 川遊びをする時には大人の膝下の水深までにします。膝を超えるとバランスを崩して座ってしまった時に救命胴衣の浮力で身体が少し浮いてしまいます。

 川の水深が膝より下だと、毎秒1メートルほどの強い流れの中でもしっかりと立っていることができます。動画1のように、もし足元がぐらついて座り込んでしまったとしても救命胴衣は川にほぼ浸かることがありません。救命胴衣の浮力で身体が浮き上がることがないので、座ったまま流されずにいることができます。

 膝よりも少し上の水深だと、川の流れに身体が流されそうになります。座り込んでしまったら救命胴衣の浮力を感じます。身体が水に浮くほどではありませんが、浮力を感じてきたら黄色信号だと言えます。

動画1 川遊びは、膝下水深までで安全に遊べる(筆者撮影、1分13秒)

腰下の深さ

 救命胴衣を着ていれば安全というものではありません。腰下の水深での川遊びは黄色信号です。救命胴衣が川の水に浸ることはありませんが、水の流れが毎秒1メートルほどの強い流れにさらされると身体のバランスを崩します。そのままなすすべもなく川底に座り込むと、動画2に示したように救命胴衣の浮力で身体が浮き上がり、流されます。流れ始めると自力で立ちあがって岸に戻るのが難しくなります。

動画2 腰下の水深での川遊びは危険信号(筆者撮影、0分37秒)

川を渡るのは危険

 川は突然深くなります。透明度が高いと川底が浮き上がって見えて、目で見て深く感じません。錯覚を起こしているからです。動画3では2度にわたって、人の身長ほどの川の深みにカメラを向けていますが、カメラ越しでもその深さは全くわかりません。

 川を渡っているとそのような深みにはまります。救命胴衣を着装していても、すぐに流されてしまいます。動画3では深みに身体が完全に沈む様子が映し出されています。一度流されるとなかなか立ち上がることができません。立ち上がれなければそのまま下流に流れていくことになります。陸の人の助けがないと元に戻れません。だから、救命胴衣は救命具、流れている人は要救助者なのです。

動画3 川を渡るのが危険な理由(筆者撮影、1分36秒)

深い川で流されてしまったら

 救命胴衣を着装しながら流されてしまったら。そのようなシーンを空想すると「安全、安全」と思いそうですが、現実は異なります。突然流されることにより、「どうしてそうする?」的な訳の分からない行動に走ります。たいていはまず上流に向かって泳ごうとします。もとに戻る習性でしょうか。あるいはそれ以上流されないように岩などにつかまったりしようとします。でも動画4で示すように、あちこちに手をのばしても滑って岩につかまることなど不可能です。流れの弱いところに逃げ込み、自力で上がろうともしますが、動画4に示すように上がれるところなどそうそうありません。そう、救命胴衣は救命具です。流されたら、救助対象です。緊急事態だと考えてください。

動画4 川遊びで流されたら 救命胴衣編(筆者撮影、1分36秒)

救命胴衣を着装していなかったら

 川遊び中に不意に流されたら、最終手段は背浮きによるういてまてです。流されながら救助を待ちます。

 川遊びで万が一深みにはまったら、川底を蹴るか、両腕を羽ばたくようにして水面に浮きあがります。動画5のように、そのまま靴やサンダルを脱がずに背浮きになります。両腕と両足はきもち開き気味にします。息を吸って胸にためます。呼吸は素早く行います。そのままの姿勢で救助隊の救助を待ちます。あるいは下流で浅瀬につっかえて流れなくなったら立ち上がります。

 でもこれは最終手段です。生還のチャンスを広げることはできますが、助かるという保証は残念ながらありません。

動画5 川に流されたら、最終手段は背浮きによるういてまて編(筆者撮影、1分18秒)

マスクをしたまま流されると最悪の結末が

 コロナ禍で、飛沫を防ぐためのマスクをしていることと思います。マスクをたとえ自然の屋外でも絶対に外したくない方は、川などの水辺に近づかないようにしましょう。

 動画6ではマスクをしたまま川に流される様子を示しています。不織布などの素材でできているマスクは水に濡れた瞬間に呼吸を妨げます。動画6では浮力を得ているので溺れるのには至ってませんが、途中で何度も呼吸ができずに苦しい思いをしている様子が写っています。最後にはマスクを外して激しくせき込んでいます。

 この動画からおわかりのように、救命胴衣未着用で川に入れば致命的な結果に終わることでしょう。

動画6 マスクをしたまま川に入ってはいけない(筆者撮影、1分24秒)

さいごに

 救命胴衣を着装すれば安全というものではないことがおわかりいただけたでしょうか。救命胴衣は、陸で活動する釣りや水に落ちるかもしれないボート遊び、そしてせいぜい膝下くらいの水深で遊ぶ時に着装して万が一の水難事故に備えるものです。

 救命胴衣を着装したまま深いところには絶対に入らないようにします。そのまま流されて、もしかしたら助けにきた人を溺れさせてしまうかもしれません。そのような悲しい結末を迎えることのないように気を付けて遊びたいところです。

 わが国に安全に泳げる川はほぼありません。

【参考】東京から2時間で到着 越後湯沢で安全な川遊び 楽しみ方と注意点

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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