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東京から2時間で到着 越後湯沢で安全な川遊び 楽しみ方と注意点

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
新潟県湯沢町魚野川東橋上流に広がる川遊びスポット「鱒どまり」(本日、筆者撮影)

 東京から高速道路で2時間。越後湯沢には比較的安全に川遊びできるスポットがあります。その名は「鱒どまり」です。ここでの水遊びの楽しみ方と川に入る際の注意点について、地元在住の筆者が4連休の初日の本日、取材に出かけました。

【動画】楽しい水遊びができる鱒どまり 2021年夏バージョン

(4分51秒)

鱒どまりでの水遊びの楽しみ方

1.水がきれい

 とても透き通っていて川底が見通せます。夏場でも水温が25度以下で冷たくて気持ちがいいのです。なぜかと言うと、鱒どまりは下流にて信濃川と合流する魚野川の上流域にあるからです。ただでさえ美味しい水が飲める(水道水ですら美味しい)この地域に流れる川ですから、泳ぐのがもったいないくらい、水に関しては申し分ありません。

2.河原と水面との間に高低差がある

 水の透明度がきわめて高く、そしてきれいだと目で見た時に「川が浅い」と錯覚してしまいます。でもそれは自分が立っている河原と見ている水面の高さががほぼ同じ場合です。鱒どまりでは河原が水面からかなり高い位置にあって、その上に立つと上から川を覗き込むようになります。そうすると、どの場所が深くて、どの場所が浅いか目で見て一目瞭然です。

3.川底の深浅にメリハリがある

 図1のように、遊泳エリアでも深い場所では水深3 m以上あります。そういうところでは潜水が楽しめます。また図2のように高い崖を利用して崖の上から飛込みを楽しむこともできます。崖の上に上がるための綱も準備されています。かなり野性的な雰囲気が漂っています。浅い場所ではウエイディング(水底歩き)が楽しめます。下流に従って川底がさらに浅くなっているので、浅い場所と深い場所との区別がつけやすくなっています。

図1 深浅のメリハリ。写真右側は比較的浅く、中央より左側は深い。水深3 m以上ある。高い場所から見ると浅い場所と深い場所との区別がつくのがいい(本日、筆者撮影)
図1 深浅のメリハリ。写真右側は比較的浅く、中央より左側は深い。水深3 m以上ある。高い場所から見ると浅い場所と深い場所との区別がつくのがいい(本日、筆者撮影)

図2 崖からの飛込みポイント。右側からロープ伝いに崖に上り、左の端から川に飛び込む。高さは3 m以上ある(本日、筆者撮影)
図2 崖からの飛込みポイント。右側からロープ伝いに崖に上り、左の端から川に飛び込む。高さは3 m以上ある(本日、筆者撮影)

4.万が一流されてもイグジットポイントがある

 イグジットポイントとは歩いて川から陸に上がる場所です。カバー写真は鱒どまりの上流から下流方向に向かって撮影しました。下流では川底が浅くて岩が露出している様子がうかがえます。ここで岩伝いに河原に上がることができます。ですから、万が一のことがあり浮いて川の流れに流される事態になっても、このイグジットポイントで身体が岩に引っ掛かり、それをきっかけに立ち上がることができます。

川に入る際の注意点

 たくさんの親子連れが遊んでいます。一見するととても安全そうに見えますが、そんなことはありません。一歩間違えば重大事故を引き起こす川でもあります。

 わが国には安全に遊べる川はほぼありません。なぜここがそれでも比較的安全かというと、流れがきわめて穏やかで河原の高さが高くて、目線で深い場所がすぐに区別つけられるからです。そして下流にイグジットポイントがあるからです。

 川に入る時には次のことには十分注意してください。

1.救命胴衣(ライフジャケット)を着装する

 本来、深い川では救命胴衣を着装しても遊んではいけません。ただし、ここ鱒どまりでは川の流れがきわめて緩慢、そして下流に明確なイグジットポイントがあるので救命胴衣を着装した状態で流されても最後は自力で陸に上がることができます。

 図3は取材の日に川に遊びに来ていた親子の写真です。親子全員が救命胴衣を着装して遊んでいました。全員が着る。これが最も重要なことです。

図3 家族全員で救命胴衣(ライフジャケット)着装で鱒どまりに遊びに来た親子。完全装備で自然を満喫した(本日、筆者撮影)
図3 家族全員で救命胴衣(ライフジャケット)着装で鱒どまりに遊びに来た親子。完全装備で自然を満喫した(本日、筆者撮影)

2.足にはかかとのある靴かサンダル

 図3の親子が靴を履いています。岩がごつごつしている上を素足で歩く必要はありません。足裏を怪我しないように保護しましょう。かかとのないサンダルは水中で脱げやすいばかりでなく、岩の上で滑って足がすっぽ抜けます。これで転ぶととても痛い。涙が出るくらい痛いです。

 水中ではたいていの靴が浮力をもって浮きます。つまり救命胴衣を着装していなかったとしても、最後のところで靴やサンダルの浮力が自分の背浮きを手伝ってくれます。万が一深みにはまって溺れそうになっても背浮きで浮いて救助を待ってください。

3.エントリーポイントを選ぶ

 エントリーポイントとは、入水する場所です。これはできるだけ水面に近い場所から水に静かに入ることのできる所が理想的です。いきなり高い所から飛び込むと、その拍子に着装がよくできてなかった救命胴衣が外れたり、あるいは体を通していた浮き輪から身体がすっぽり抜けたりして、溺れる原因となります。

 熱い体を早く冷やしたくて高い所から飛び込みたい気持ちはわかりますが、水難事故のほとんどは最初の入水の時に発生します。初めて川の水に身体を浸ける時には、慎重に足からゆっくりと入水するようにします。

4.子供が飛び込むときには慎重に慎重を重ねて

 崖の上から飛込みにチャレンジしたいのも子供。その時には崖の上と水面と、その両方にしっかりとした大人を配置します。崖の上の大人はひとつ前の水面にいる子供が安全な場所に移動したことを確かめてから、次の子供に飛び込むように指示します。水面の大人は万が一の救助要員です。立泳ぎができなければなりません。

 図4に写っている団体は、崖の上の大人と水面の大人のコンビネーションが最高でした。崖の大人が的確な指示を出して子供たちの交通整理をするとともに、水面の大人2人の立泳ぎは完璧でした。たぶん水難関係で筆者の同業者かもしれません。立泳ぎに関して、そして安全管理意識に関して、かなりの腕と見込みました。

図4 小さな子供たちが飛込みを体験。水面に待機している大人お2人の立泳ぎの腕は上級だ(本日、筆者撮影)
図4 小さな子供たちが飛込みを体験。水面に待機している大人お2人の立泳ぎの腕は上級だ(本日、筆者撮影)

5.天候の急変に敏感に

 この魚野川、すぐ上流には高い山が連なります。夏はほぼ毎日夕立に見舞われます。上流が夕立に見舞われると、この川はすぐに増水して、川全体が濁流と化します。鱒どまりあたりで雨が降っていなくても、この増水は起こります。

 動画1は晴天時の鱒どまりの様子と荒天時の様子とを比較した動画です。荒天時には無色透明な清流はいずこへ?というくらい泥の濁流となります。ですから、遠くで雷の音をきいたとか、清流に濁りが入り始めたとか、そういう異変が発生したら、直ちに遊泳を中止し上の道路まで避難しなければなりません。ほんとうに急いで行動することが求められます。

動画1 晴天時の鱒どまりの様子と荒天時の様子とを比較した動画(筆者撮影、1分09秒)

6.マスクはしない

 カバー写真をじっくりと見てお気づきの読者がいるかもしれませんが、取材の日の7月22日の時点では、入水者にマスクをしている人は誰もいません。このように深浅に富んだ川遊びスポットでは、濡れたマスクによって呼吸困難を起こせば、ただちに命にかかわります。子供だろうが大人だろうが、入水時のマスク着用は避けなければなりません。

 逆に言えば、川遊びの最中にはできるだけ大きな声は出さず、隣接する別グループとの距離を十分に保って楽しみましょう。さらに、マスクを外したくない方は、水に入らず河原で家族の川遊びを見守るという選択もあります。

【参考】 知ってますか? マスクをしたまま水に転落したら呼吸ができない

7.鱒どまりには更衣室がない

 鱒どまりには更衣室はありません。駐車場はかなり広くとってありますので、自家用車で出かけて、駐車場内で車内にて着替えをすることになります。逆を言えば、更衣室クラスターが発生しないという安心感はあります。

 駐車場に仮設トイレがありますが、込み合うとなかなか順番が回ってきません。また川遊び現場から駐車場までの距離がありますから、お子さんだとトイレに行く道中にて間に合わないことも。「川の中で」などと安易に考えず、泳ぐ前にしっかりとトイレを済ませていきましょう。

まとめ

 わが国に安全に泳げる川がほぼない中で、東京から2時間の距離で比較的安全に川遊びを楽しめる「鱒どまり」。ぜひご家族で遊びにいらしてください。ただ、このご時世ですから、体調がすぐれなかったら、あるいは感染の疑いがあったら、おうちでのんびりと過ごされて、お楽しみは後日に回してください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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