トレーサビリティの次はコスト明示。適正価格求めるエガリム2法
物価の高騰が問題になっている。たしかに消費する側にとって値上げはきつい。
一方で生産するコストは上がったのに、値上げが行いにくい分野では生産者が苦しめられている。
なかでも問題になっているのが、食料品だろう。肥料や飼料を始めとして燃料費、電気代……などコストがどんどん上がったのに、なかなか最終商品に反映できない。生産者の多くが小規模であるうえに、食料の値上げは消費者の死活問題だからという面もあるのだろう。
そんな中、注目を集めているのが、フランスで施行され始めたエガリム2法だ。ここでは生産コストによって価格を決めるよう義務づけられたのである。
エガリム法の正式名称は「農業及び食料分野における商業関係の均衡並びに健康で持続可能で誰もがアクセスできる食料のための法律」。
2018年に交付されたエガリム法は、農業者と取引相手との適正な取引関係の促進、有機食材の公共調達、地産地消の推進、フードロスの削減、動物福祉の強化、農薬やプラスチック使用の削減などを掲げていたが、21年交付の改定版(エガリム2法)になると、流通業者による「買い叩き」防止が盛り込まれている。
具体的には農業者と購入者の間で価格決定の計算式や期間を書面による契約に入れることを義務づけた。つまり農産物の生産コストに基づいて適正な価格を決めるよう促しているのだ。
価格を決める際にコストを考えるのは当たり前のはずだが、現在の市場経済では必ずしもそうなっていない。需給バランスや生産者と小売り業者の力関係が大きく影響している。それだけにコストを考えて価格を決めるよう法律が促すのは画期的だろう。
農水省でも調査し始めたようだが、野村哲郎農相の記者会見の答弁では、日本では難しいとしている。たしかに、品目が多く産地が分散し、品質に差があるうえに取引形態の多様さなどを考えると、なかなか難しいのはわかる。
フランスは6つの巨大小売りスーパーが食品流通の9割を支配している構造があるから比較的行いやすいが、それでも現在実施しているのは畜産物だけで、それも試行錯誤している最中だ。
ただ原材料費や生産費用を表に出し、売買の力関係で無理な価格にできないようにして、生産者の収入の確保を促すのは、画期的と感じる。まさに「新しい資本主義」になりうるのではないか。
ことは食料品だけではない。たとえば木材もウッドショックで価格が2倍3倍に跳ね上がるかと思えば、たった数か月で半値以下に落ちる現象があった。
また林野庁の補助金などの算定では、伐採や搬出コストしか考えない。50年60年と木を植えて育てるまでにかかったコストを無視している。結果的に森づくりを担った森林所有者に利益はもたらされず、伐採業者だけが補助金で潤う。
問題はコストをいかに示し、価格に反映させるかだろう。難しいことは想像つくが、不可能ではないと思う。
たとえば食品や木材のトレーサビリティ(産地から流通経路の明示)も、当初は無理と思われていた。原材料の産地を正確に突き止めるなんて大変すぎると業者から悲鳴が上がったのに、今では当たり前になってきた。さらに、単なる産地特定だけではなく現地で環境破壊をしていないかまでチェックして確認(デューデリジェンス)することが求められるようになった。
EUでは、EUDR(EU森林デューデリジェンス規則)ができた。そこでは牛肉、コーヒー、カカオ、大豆、天然ゴム、パームオイル、木材製品などを輸入し流通させるためには、原産地で森林破壊をしていないことや、生産国の労働・人権などのリスクがないことを確認しなければならない。そこでは現地の法律に適合するかしないかだけではなく、現実の森林状態を確認することを求めている。
たとえば森林を切り開いてつくった農園で栽培されたものは輸入を規制される。児童労働の有無なども問われる。
ここまでの規則をつくったのだから、そこにコストを見込んだ適正な取引状態を加えることも可能ではないか。
もちろん、政府が市場に介入することの是非など考えなくてはならない点は多数あるが、求めるのは適正な価格の決定である。それが適正な市場経済、適正な資本主義をつくるはずだ。