ブラックホールが太陽に寄生中!?独自の進化を遂げる「ホーキング星」の仮説
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ブラックホールを内包する特殊な恒星の性質」というテーマで動画をお送りします。
宇宙誕生直後から存在する非常に小さいブラックホールが、恒星の内部に捕獲される可能性があります。
内部に非常に小さいブラックホールが潜む仮説上の恒星を、最初にアイデアを提案したスティーブン・ホーキング博士の名前にちなんで「ホーキング星」と呼ぶことがあります。
マックス・プランク天体物理学研究所などの国際研究チームは、ホーキング星の特徴と進化などについて分析しました。
本記事では、最新の研究で判明したホーキング星の性質について触れていきます。
●仮説上の「ホーキング星」
一般的に、非常に低確率ながら恒星は宇宙空間を漂う極めて小さいブラックホールを捕獲し、長期にわたって安定的に内在させる可能性があると考えられています。
内部に非常に小さいブラックホールを携えた恒星は「ホーキング星」と呼ぶことがあります。
○ホーキング星に内在する特殊なBH
一般的にブラックホールは、太陽の30倍以上重い超大質量の恒星が一生を終える際に、大質量星が自身の強大な重力で極限まで圧縮されることで形成される超高密度の天体です。
このような一般的な形成シナリオでは、ブラックホールの質量には太陽の2~3倍程度に相当する下限値が存在し、その下限値を下回るとブラックホールではなく中性子星が形成されると考えられています。
そのため一般的なブラックホールは太陽よりも重く、恒星に与える重力的な影響は非常に強大であり、恒星内部で長期間安定して存在するようなことは起こり得ません。
しかし原始ブラックホール(Primordial Black Hole, PBH)という特殊な分類のブラックホールには、太陽より遥かに小さい質量を持つものも存在する可能性があります。
一定質量未満のPBHであれば、影響が顕在化しないまま恒星の内部で安定的に存在できるはずです。
「ホーキング星」に内在するブラックホールは、一般的なブラックホールではなく、小柄なPBHなのです。
○原始ブラックホール(PBH)
もう少しPBHについて掘り下げてみます。
PBHは大質量星の最期の瞬間に誕生するのではなく、宇宙誕生直後の「インフレーション」の瞬間に誕生したと考えられています。
このPBHは、ダークマターの候補の一つでもあるほど宇宙に大量に存在している可能性があり、中には非常に低確率ながら恒星と衝突するものがあってもおかしくはありません。
原始ブラックホールには、それが形成される瞬間の質量の下限値が理論上存在しません。
とはいえブラックホールは「ホーキング放射」と呼ばれる現象により蒸発するため、誕生時の質量が1億トンに満たないPBHは、現在までの138億年の間で消滅してしまっているはずです。
しかし理論的には、一般的なブラックホールの質量の下限値を大きく下回る極めて小さいPBHも存在し、それが現在も太陽の内部に存在する可能性すらあり得ます。
●太陽がホーキング星だったらどうなる?
では太陽質量の「ホーキング星」があったとき、その恒星はどのように進化するのでしょうか?
最新の分析を行った国際研究チームによると、その恒星の進化のシナリオは内在するPBHの質量に大きく依存するようです。
前提として、PBHの質量が太陽の100万分の1以下の時は影響が非常に小さく、外からの恒星の観測で異変を検出できません。
つまり現在の太陽にも、太陽質量の100万分の1未満のPBHが内在している可能性があります。
それ以上の質量のPBHが吸収されたり、PBHが恒星内部で成長してそれ以上の質量を獲得すると、恒星の性質に異常が観測され始めます。
では具体的なシナリオとして、太陽質量の恒星が誕生した当初から、その1000億分の1の質量を持つPBHを内包している場合のシミュレーション結果を紹介します。
左右どちらも太陽質量の恒星ですが、右は太陽の1000億分の1の質量を持つブラックホールが内在しています。
そして横軸が恒星の年齢、縦軸が半径を示し、46億年の辺りにある縦の点線が現在の太陽の年齢を示します。
シミュレーションの結果、PBHが内在していても、現在の太陽年齢時点では恒星の大きさに変化が見られないことがわかりました。
しかしブラックホールは恒星内部の物質を少しずつ飲み込むことで徐々に影響力を増し、恒星が60~70億歳になったあたりで、ブラックホールを内包する方が早急に肥大化します。
PBHの強大な重力に捉えられた周囲の物質は、PBHを取り巻く円盤状の超高温構造を形成します。
PBHを内包するホーキング星では、核融合に代わってブラックホールの周囲の超高温構造が星のエネルギー源となる場合があります。
PBHの周囲の超高温構造による光度(放出エネルギーの強さ)を、以下単に「PBHの光度」とします。
その上で、PBHを内包する恒星の進化過程における光度変化を見ていきましょう。
左はPBHを持たない通常の太陽質量の恒星の、右は太陽質量の1000億分の1のPBHを内在する太陽質量の恒星の進化に伴う光度変化を示しています。
横軸は年齢、縦軸は光度を表しています。
縦の点線が、現在の太陽の年齢(46億歳)を示します。
また赤い曲線が核融合による光度を、黒い曲線が「PBHの光度」を示しています。
太陽質量の恒星の形成初期からその1000億分の1の質量を持つPBHを内包する場合、恒星は中心部の物質を徐々に吸収され、今から10~20億年以内で核融合が衰え始め、やがて停止する代わりに「PBHの光度」が増大していきます。
恒星が70億歳になる頃には、PBHの質量は太陽の1000分の1にまで成長します。
PBHを含む恒星は、通常より遥かに速いペースで恒星全体が膨張し、全体の光度も急速に増大します。
しかし最終的には通常の恒星の末期段階の赤色巨星ほどは膨張せず、光度も大きくなりません。
また、太陽質量の恒星の形成当初からその100億分の1の質量を持つPBHが内在する場合、PBHはより急速に成長します。
この場合誕生から46億年の時点でも、太陽の数倍の光度を持つと予想されるため、このシナリオは現実の太陽とは明らかに矛盾します。
今回の話をまとめると、まず小さいPBHの影響は小さく、現在の太陽にも、太陽質量の100万分の1未満のPBHが内在している可能性が否定できません。
また、太陽形成初期からPBHを内包した場合、そのPBHの初期質量は太陽の1000億分の1を超えません。
そして仮に太陽の中にPBHが存在していても、その事実がわかるのは何億年以上も後かもしれません。
今回のシミュレーションで得られたPBHを内包する恒星の特徴と合致する特殊な恒星を見つけることで、それを「ホーキング星」であると特定でき、さらには仮説上の天体であるPBHの存在も間接的に示せると期待されています。
現在より空間が小さく、物質も高密度に分布していた初期宇宙には、現在の宇宙にある大質量星とは比較にならないほど、超巨大な恒星が存在していました。
そんな初期の超巨大恒星は外層が分厚すぎて、が尽きて星の内部でブラックホールが生成され、超新星爆発の衝撃波が発生しても、その衝撃波が星の外層を吹き飛ばせない可能性があります。
そんな死を迎えた星は外から見ると普通の恒星ですが、内部にはブラックホールが存在しており、核融合の代わりにブラックホールの周囲の構造のエネルギーで輝くという特殊な状態になると考えられています。
このように初期宇宙にのみ存在していた可能性のある、ブラックホールを内包する仮説上の天体は「Quasi-star」と呼ばれています。
Quasi-starに内在するブラックホールは、ホーキング星に内在するPBHとは異なり、星の一生の最期の瞬間に形成された一般的なブラックホールであり、最低でも太陽の何倍もの質量を持ちます。
そんな初期宇宙特有の魅力的な天体「Quasi-star」についても以下の動画であわせて解説しています。