給食空白地帯。子どもの食生活を支える学校給食が直面する食格差。
我が国が直面する食の貧困
2017年7月に国立社会保障・人口問題研究所は「生活と支え合いに関する調査(旧:社会保障実態調査)」を実施した。そこには日本が抱える食の貧困の実態が綴られている。ひとり親世帯の3人に1人(36.1%)が、毎日の食事が満足にとれていない。たとえ、2人親世帯であったとしても7人に1人(14.7%)が食事をとることに不自由を抱いていると回答している。言い換えれば、子どもがいる世帯の1割以上において、過去1年間に経済的な理由で家族が必要とする食料を買えなかった経験をもつことを意味する。それが当該調査から示された。これが日本における子どもたちを取り巻く食の実態である。
学校給食が抱える地域格差
思えば家族で食卓を囲む。そのような姿が、日常生活のなかで消えつつあるのではないだろうか。成長期の子どもが、満足に食事がとれない、一人でコンビニ弁当をとる。そのような生活のなかで、学校で友人たちと一緒に食べる給食が果たす役割は大きいだろう。そもそも学校給食とは、学校教育法第25条に基づいて、学校管理下にある児童・生徒に提供する食事をさし、すべての児童生徒を対象に、年間を通じ毎週5日の授業日の昼食時に、文部科学省の基準に基づく栄養内容の食事が提供される(学校給食実施基準)。にもかかわらず、学校給食の実施率は、必ずしも全地域で100%というわけではない。そこには、学校給食を実施している地域もあれば、実施していない地域がある。公立学校における都道府県別学校給食実施率(学校数あたり)をみると、小学校における学校給食実施率は99.2%を示し、1万9,510校で給食を実施するものの、残りの0.8%相当の学校は実施していない。たしかに多くの小学校で給食を提供している。それは正しい。ただ100.0%学校給食を実施していると回答した都道府県は、16府県に留まっている。これも一つ事実である。
公立中学校で100%実施している都道府県はさらに8府県と低い。しかも実施率の示す値から、地域格差が生じていることが解る。たとえば、神奈川県では63.7%、兵庫県が89.5%、滋賀県が70.4%、京都府が76.1%という回答が得られており、9割を下回る値を示す地域の多くが関西圏に集中している(文部科学省「平成30年度学校給食実施状況等調査」)。この値から何を我々は読み取ったらいいのだろうか。たとえば、中学生の学校給食の実施率が公立でも63.7%である神奈川県では、残り36.3%の生徒は、家からお弁当を持ってくるか、お店でパンなどを買うかして、昼食をとっている。果たしてそれは正しいのだろうか。満足に家でも食事をとることができない生徒は、毎日のお昼をどうやりくりしているのだろう。
ごはんとおかずがつかない学校給食
学校給食の問題は、実施の有無だけで話は終わらない。給食と言われたら、私たちの多くは何を頭に思い浮かべるだろう。牛乳に主食と副食。だが、学校給食は必ずしもごはんとおかずがそろっているわけではない。学校給食法施行規則には、ごはんやパン、ミルク、おかずで構成されている完全給食以外に、主食(ごはんやパン)は家から持参し、ミルク及びおかず等が給食として提供される補食給食や牛乳のみを提供するミルク給食がある。たしかに、公立小学校1万9,194校(99.3%)が完全給食を実施している。だが、完全給食を100%実施している地域は11府県。完全給食においても、地域に片寄りが生じている。8道府県は学校給食を実施していると回答するものの、その一部には牛乳のみとするミルク給食を学校給食の実施数にカウントしている。その数値から、学校給食の目指している姿とは何だろうかと問う。一方で、中学校では8,965校(96.0%)で学校給食を実施しており、完全給食と回答した中学校が93.2%(8,702校)にのぼる。だが、完全給食実施率が100.0%と回答する地域は、千葉県と福島県の2県のみである。完全給食率が44.5%である神奈川県については、中学校で完全給食を実施していない市町村のほうが多い。さらに、39校(0.4%)の公立中学校では主食がないミルクおよびおかずの補食給食であり、224校(2.4%)が牛乳のみのミルク給食である。
学校給食が踏んできた変遷
このような小学校のなかでも、また中学校のなかでも、そして小学校と中学校の間でも地域格差が生じてしまう背景には歴史的要因も関係しているであろう。学校給食とは1889年、山形県の日本海沿岸の南部に位置する鶴岡町(現・鶴岡市)の忠愛小学校で、貧困児童を対象に無償で行われたことに端を発する。1932年の文部省訓令第18号「学校給食臨時施設方法」の発令よって、国庫補助による貧困児童救済のための学校給食が実施されたが、小学校のみである。第二次世界大戦中は学童疎開によって学校給食は休止状態となったが、戦後に再び都市部の小学校を中心にパン・脱脂粉乳などの援助物資が行われた。1954年の学校給食法では小学校における学校給食の普及を目指して制定され、中学校で学校給食が始まったのは1956年の改正により中学校まで義務教育の範囲に拡大されたという経緯がある。このとき、既に建設されてた小学校は全国的に学校給食実施の流れに沿うことができたものの、中学校においては急激な人口増による学校そのものの建設が優先され、給食実施にまで至らなかった地域が多い。
次の時代の子どもたちへ
子どもの貧困に加え、子育てしながら仕事を持つ女性が増えるなか、より多くの学校への給食導入への要望は強まるばかりだ。しかしながら、学校給食の要望の多くが学校側の提案に留まっている。その要因として学校給食施設の建設に要する莫大な経費だ。これは教育委員会だけでは動かしがたい部分である。インフラの整備といった公共事業分野では、1998年度以降、費用便益分析を含めた事業評価が導入されてきた。学校給食施設においても例外ではない。EBPM(Evidence Based Policy Making)の観点から、事業効果を客観的に把握し、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act cycle)による事業展開の向上を目指すべく、貨幣換算で評価する費用便益分析による概算は必要だ。そこには、公共投資の生産性効果を高めるべく、費用便益の高い事業を厳選し、全体水準の維持・向上が期待される。学校給食においても、提供方法や調理場所によってかかる経費に加え事業効果が異なってくる。学校に給食調理施設を建設し調理した給食を当該学校の児童・生徒が喫食する自校調理方式を採用するのか、複数校の給食を一括して調理できる大規模な給食調理施設を建設し、調理した給食を各校に配送するセンター(共同調理場)方式を選択するのか、もしくは自校内に給食の調理施設を持つ学校が、自校の給食に加えて調理施設のない学校の給食を調理して各校に配送する親子方式にするのか。その方法次第で費用は変わってくる。さらには給食の提供方法においても、調理したおかず等を種類ごとに一定量をまとめて容器(食缶)に入れて喫食直前に配膳して提供する食缶方式を選択するのか、調理したおかず等を調理施設で「弁当箱(ご飯とおかずが分かれた容器)」に盛り付けで提供する弁当箱方式にするのか。学校給食施設に限らず大規模な費用を要する公共インフラ整備への警鐘は鳴りやまない。事業の広域化・共同化やPFIの導入による経営の効率化を図り、成果を出した地方公共団体などの事例をも参照して横展開が求められるだろう。