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安全神話が崩れつつある医療体制 今まさに求められる将来を見据えた病院再編

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」
(写真:イメージマート)

少子高齢化を背景に、急ピッチで進む人口減少。このような需要の動向を踏まえ、行政サービスの提供体制は何度も検討がなされ、法改正も繰り返し行われている。その一つに、医療がある。医療を取り巻く動向は、厳しさを増すばかりだ。高まる医療給付費に、困難をきたす財源確保。この先も安全な医療を提供し続けていくために、いかに医療サービスを運用していくかが問われている。平成26(2014)年に成立した医療介護総合確保推進法によって、制度化された地域医療構想。その目的は、中長期の人口構造や地域の医療ニーズを見据え、医療機関の機能分化・連携を進めることで、効率的な医療提供体制の構築を目的としている。そこには、限りある医療資源の効率的な運用と、年々増え続ける医療費の抑制がある。

医療資源をより効率的に運用するための地域医療構想

厚生労働省(2022)「地域医療構想の推進について」(令和4年11月28日 第93回社会保障審議会医療部会 資料3-3)によると、医療法が改正され、医療介護総合確保推進法によって地域医療構想は制度化された。平成26(2014)年には、地域医療構想の基本的枠組みが策定されると共に、病床機能報告制度が創設された。それによって、過剰な医療機能への転換時の対応、地域医療構想調整会議の協議が整わなかったときの対応、非稼働病床の削減にむけた対応等のガイドラインも示された。地域医療構想を実現させるために、財政支援として、地域医療介護総合確保基金が創設され、地域医療構想の達成にむけた医療機関の施設・設備の整備に関する事業への支援や、地域医療構想に係る優遇融資が定められた。

変わりゆく地域医療構想、検討が繰り返されるなかで見えてきた現実

地域医療構想は、先んじて、公立・公的医療機関等が対応方針を策定し、翌年の平成27(2015)年から、各都道府県は、毎年度、地域医療構想の策定を行うこととなった。具体的には、令和7(2025)年を見据えた医療機関の役割と持つべき病床数を、医療機関ごとに検討することが求められた。病床機能には、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つに区分されており、令和7(2025)年の人口分布や医療需要の推計をもとに、必要とされた病床数を算出し、地域医療構想調整会議を介して、各病床を調整することとしてる。平成30(2018)年には、再び医療法が改正され、地域の実情に応じた定量的な基準が設けられた。加えて、新たな医療機関の開設等の許可申請において、知事の権限が追加された。令和元(2019)年には、公立・公的医療機関等の対応方針の再検証がなされた。令和3(2021)年には、医療機関の対応方針の策定や検証・見直しが、令和4(2022)年には、地域医療構想の進捗状況の検証がなされた。それによって、病床機能報告制度の改善が必要であること、病床機能の分化・連携を行うにあたっては制度からのアプローチも求められること、さらには、30万人と見込まれる慢性期入院患者の新たな受け皿の確保が課題であることが、明らかとなった。

構想を構想で終わらせることなく、現実化するための財政支援

地域医療構想を夢物語で終わらせることなく、実現を目指して、自主的な病床削減や、病院統合による病床廃止に対して、財政支援が行われている。病床を削減した病院には、削減病床1床あたり病床稼働率に応じた額が交付されることになっている。病院統合(廃止病院あり)を伴う病床削減を行う場合にもコストがかかる。そのコストを充当するために、関係病院全体で、廃止病床1床あたりの病床稼働率に応じた額を、関係病院全体に交付することで統合を支援する仕組みを作り上げた。このとき、廃止される病院には残債があろう。その残債も統合後に残る病院に承継させる場合には、引継債務に発生する利子に対して一定の上限を設けたうえで、統合後の病院に交付することとしている。

地域医療構想による病院再編 重点支援区域の事例からみる効果検証

全国平均よりも県内平均よりも、広島県尾三構想区域は、人口減少と高齢化が急速に進む。一方で、医師の確保は困難をきたしている。需要と供給の動向を見据え、総合病院三原赤十字病院と三菱三原病院の統合に踏み切った。当該区域の需要を考えた場合に、明らかに、今ある医療機関の病院数と病床数は多い。一方で、医師が充足できていない。このような状況が続くようであれば、いずれは二次救急の体制維持は難しくなる恐れがあるであろう。いくつも懸案事項がでてくるなかで、統合したならば、この問題は解決されるのか。DPC(1日当たりの包括評価制度)の症例数の推移を計算し、救急受入件数と割合を検討し、人員の確保を確認していく。統合後の効果を様々な視点から検証したうえで、踏み切った病院の統合。地域医療介護総合確保基金による財政的支援を用い、かつて、総合病院三原赤十字病院では197床を、三菱三原病院は81床を提供してきた医療体制を、令和4(2022)年に三原赤十字病院を新設し232床を稼働させた。それだけではない。診断と治療を強化し消化器疾患全般をカバーできるように、新たに消化器センターを設けた。統合後1年目にして、三原赤十字病院の対応患者の割合の伸びが確認できた。さらに、医師や看護師等の医療スタッフが充実し、救急対応能力の強化にも繋がった。実際に、三原市内の救命救急センターとしての中継機能の強化が図られ、救急搬送事例における医療圏内の完結率は95%という高い割合で維持している。全国で、今まさに、限られた医療資源を集約化することで、効率的で持続可能な医療提供体制の検討が進められている。

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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