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地域医療の存続をかけた病院運営 果たして、誰が、その中心的役割を担うのか

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」
(写真:アフロ)

COVID-19禍で中心的な役割を担ってきた公立病院。確かに、地域医療において公立病院の果たす役割は大きい。だが、政府からのCOVID-19対応による各種支援が打ち切られた今、かねて問題とされてきた赤字体質が再燃。病院を運営するにあたって、一般会計の繰入に依存せざるをえない事業運営は、どうしても持続可能性が問われる。果たして、社会医療法人は、公立病院の代替になるのか。

病院の多くが中小規模 そのプレーヤーは国、自治体、法人と多岐にわたる

厚生労働省「令和4(2022)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況 」によると、かつて、平成12(2000)年には9,000以上あった病院が、令和4(2022)年10月時点で8,156施設と報告されている。令和4(2022)年と令和3(2021)年の医療施設数を比較しただけでも、49病院が閉鎖された。病院の1/4(1,998 施設)は、50~99 床の中小規模の病院が占める。そして、そのプレーヤーは、国、公的医療機関、社会保険関係、医療法人ならびに個人等と病院の開設者は多岐にわたる。なかでも、医療法人が 5,658 施設(病院総数 69.4%)と最も多く、次いで多いのが1,195 施設(同 14.7%)の公的医療機関である。

医療の高度化を図りながらも、医師不足を解消する一手段に経営統合 

高齢化の進展と高度な医療の普及を背景に、医療費の増加が見込まれるなかで、病床の機能分化・連携による効率的な医療提供体制の構築とともに、医療法人間の経営統合を進めるべく、制度の規制の見直しが繰り返し行われてきた。合併・譲渡に至る事例は増えつつあるものの、その道のりは決して平坦なものではない。そもそも経営統合をする場合には、業務提携、グループ化、合併、譲渡等のいくつかの方法がある。業務提携であれば、医療機関間の医師派遣や共同購買がある。グループ化であれば、系列傘下の複数法人をグループとして経営していく方法をいう。これらの場合であれば、経営は一法人となるが、元の法人は存続したままである。合併の場合、医療法人同士が一法人となる対等合併か、医療機関を譲り受けて一法人下で経営する吸収合併がある。さらに譲渡となると、独立行政法人機構や国公立病院が民間移譲するケースがみられる。そして、医療法人の資金調達の多くが、独立行政法人福祉医療機構や金融機関からの融資によるところが大きい。そこには、法人による出資及び配当に制約がある。資金融資を得たうえで、統合先病院の土地・建物等を購入していくのが主流だ。

医療法人、そもそものその定めはどうなっているのか

医療法人とは、非営利性を担保しながらも、医療の継続性を確保することを目的とした特別法人として定められている。医療法(昭和23年法律第205号)第39条、法第44条第5項、ならびに第54条では、医療法人の非営利性が規定されている。医療法人は、その営利性について剰余金の配当が禁止されており、この点で、株式会社等の商法上の会社と区別される。その医療法人は、社団医療法人と財団医療法人に大別される。社団医療法人とは、複数の個人又は法人が集まって設立された法人であり、法人の設立にあたって、現金、預金、不動産、備品等を拠出して設立する法人をいい、その規定は定款で定められている。財団医療法人とは、寄付行為の定めのもと、個人又は法人が無償で寄附した財産に基づいて設立される法人をいう。

非営利を追求しつつも収益性が問われる医療法人改革

平成18(2006)年に、医療法人改革が行われた。当時、解散時の残余財産が問題となった。定款及び寄付行為の定めでは、残余財産は帰属するものに帰属されることとし、出資者の残余財産分配請求権が保障されてた。だが、国民皆保険を原資とする医療資源の非営利性を、営利法人と同様の取り扱いをしていいのか。この点が論点となった。それ故、非営利性をより徹底化させるために、医療法が改正された。その改正内容は、解散時の残余財産の帰属先の制限だ。具体的には、国、地方公共団体、公的医療機関の開設者、財団又は持分の定めのない社団の医療法人、都道府県医師会又は郡市区医師会のいずれかに帰属することとした。これによって、社団医療法人と財団医療法人は、特別医療法人、特定医療法人、その他の医療法人に区分され、そこに、特別医療法人が廃止となり、社会医療法人が加わった。さらに、社団医療法人は、出資に関して持分を持つことが可能とする持分あり医療法人と、出資持分の払い戻し請求時に出資額しか払い出すことができない出資額限度法人、そして持分なし医療法人に区分される。

民間の活力を生かすべく社会医療法人のミッションとは

医療の普及、向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営される特定医療法人は、国税庁長官に承認される必要がある。それによって、税制優遇が受けられる。だがそれ以上に、優遇措置の厚い社会医療法人を目指す医療機関が増えている。

社会医療法人とは、民間の高い活力を活かしながら、地域住民にとって不可欠な救急医療やへき地医療等(救急医療等確保事業)を担う公益性の高い医療法人として制度化された法人である。言い換えれば、公的医療機関が担ってきた公益性の高い医療サービスを、民間非営利部門の医療法人も担うことが認められた。へき地医療や小児救急医療など、地域で特に必要な医療の提供を担う医療法人を、新たに社会医療法人として認定することにしたのだ。社会医療法人の認定を受けた医療法人は、収益を病院等の経営に充てることを目的とする収益業務を行うことができる。

社会医療法人は、税制上、いくつかの優遇が認められている。例えば、医療保健業については法人税が非課税となり、医療保健業以外の業務においても法人税率は軽減税率が適用される。それだけではない。救急医療等確保事業を行う医療機関の固定資産税・都市計画税・不動産取得税も非課税となる。さらには、本来の医療業務に充当する収益業務の収益をみなし寄付金として、所得の50%を限度に、非課税となる。だが、社会医療法人となる要件は厳しいのも事実だ。医療法で定める地域医療計画の救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児救急医療の5事業において実績を示す一定の基準をクリアするのも認定要件の一つだ。それだけではない。役員等についての同族性の排除をはじめ、理事等への報酬の支給基準の定め等々ある。

COVID-19禍では中心的な役割を担った公立病院が果たした役割は大きい。だが、政府からのCOVID-19対応による各種支援が打ち切られた現在、再び、各地方公共団体の一般会計の繰入に依存せざるをえない状況に陥っている。公益性が求められるゆえに、税の優遇を受けながら、収益性のある事業運営が認められ、そこに社会医療法人債の活用も可能となる社会医療法人。地域医療を支えてきた公立病院は、間違いなく重要な役割を果たしている。だからと言って、根強く潜む赤字体質が許されるわけではない。そのようななかで、社会医療法人の役割も変わってきている。次年度の令和7(2025)年には、かつて議論されていた非営利ホールディングカンパニー型が息を吹き返しつつある。複数の医療法人及び社会福祉法人が束ねて一体的な経営が可能となる非営利ホールディングカンパニー型医療法人。今後益々、医療法人の経営の安定性と効率性が期待される。

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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