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長寿命化時代に問われる人生100年の生き方 働きながら地域に関わるミドル世代のライフ・シフトはいかに

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」
(写真:イメージマート)

かつて、地域の参加の窓口として町内会(自治会)が、住民の交流や災害の助け合いを目的に活動していた。お祭り、運動会、餅つき等の様々な地域でのイベント。それだけではない。防犯パトロールや清掃等のボランティア活動も行ってきた。顔を合わせ言葉を交わすうちに、親しくなり、人と人との繋がりが生まれ、交流が始まる。その町内会(自治会)が、総務省「自治会・町内会の活動の持続可能性について」によれば、平成22年から令和2年にかけて、加入率は減少し続けており、その役割が見直されている。一方で、ミドル世代のライフ・シフトが問われる。

人生100年時代を見据えた自治体の模索

住民が地域の活動に参加する窓口として、生涯現役促進連携事業を活用し、生涯現役応援窓口事業を開始した西東京市。その事業は、東京都の社会参加マッチング事業の一環として、西東京市生涯現役応援サイト「Meets」という現在の姿に変わってきた。西東京市「フレイル予防で進めるまちづくり」によれば、事業の対象はミドル世代以上としている。自分の趣味、仕事で培ったスキルを活かしながら、地域に関わりながら生活したいと希望する50歳以上の方と、西東京市にお住いの50歳以上の方を仕事やボランティアの担い手として求めている企業等のマッチング。出会いを繋げていくのが事業の目的。だが、決して、一筋縄で行かないのが事業の難しさだ。

高齢期の地域参加 現実は、言うは易く行うは難し

西東京市の進めるMeetsのきっかけは、フレイル予防。厳しさを増す社会保障財政。なかでも、介護保険制度は2000年創設当初から、急ピッチで進む高齢化を背景に、増加の一途を辿る介護給付費と、跳ね返る介護保険料の上昇に悩まされてきた。団塊世代に加え団塊ジュニアも高齢期に突入する将来、上昇幅は一層高まるであろう危惧から、その一助として期待されるのがフレイル予防である。東京大学高齢社会総合研究機構が千葉県柏市の大規模調査で構築したフレイル予防プログラムを進めるなかで明らかになってきたのが、地域との関わりの機会が少ない高齢期の男性の一日だった。関わりを持たないのか、もしくは、持てないのか。それ次第で対応も、変わってくるであろう。調査から垣間見られる被験者の意識。一つ一つの社会活動に、どうしても、意味や肩書を求めがちな男性の高齢者。行動変容を促すきっかけとして、「東大の研究の協力者」という肩書を付けることで、地域に出ていくきっかけを作るのもプログラムの一環。半年間事業に参加しつつ過ごす日常生活。その前後に行われるフレイルチェック。COVID-19禍で自粛生活が続くなかで、主観的な健康観の一つである社会性に赤信号。社会性の低下がフレイルの最初の入口という結果が示され、その対策として人との繋がりが課題となる。

国が進める生涯現役促進地域連携事業 

今のMeetsの礎となったのが、厚生労働省が走らせた生涯現役促進地域連携事業。団塊世代が前期高齢者に突入し、退職という節目のなか、企業から地域に活躍の場を移すことが求められた。一方で、少子高齢化によって労働力不足が社会問題に発展するなかで、働く意欲のある高齢者のスキルと経験を活かしたい現実。そこから生まれた生涯現役社会。令和2年には、働き方改革実行計画やニッポン一億活躍プランを踏まえて進められてきた連携推進コースと地域協働コースを柱とする生涯現役促進地域連携事業。地域の実情に応じて高年齢者の多様な就業機会を確保するための協議会が設置され、高年齢者への情報提供や関係機関の紹介をはじめ、高年齢者への職業生活設計等に関するセミナーや企業への生涯現役促進セミナーの開催等の支援が行われた。連携推進コースでは、自治体を中心とする協議会からの提案に基づいて、地域のなかで高齢者の就労促進を図っていく。地域協働コースでは、協議会の仕組みを活用し、連携推進コースで構築した取り組みと自治体が自主的に行う仕組みを、双方が協働して事業を進めることを支援する事業である。

生涯現役促進地域連携事業をきっかけに進めてきた事業。大規模な調査を介して、明らかになっていく男性の高齢者の社会参加。この間口をさらに検討するために、次なるステップとして、東京都が進める社会参加マッチング事業へと発展していく。その内容は、オンラインプラットフォームを利用し、概ね50歳以上を対象とするシニア・プレシニアの地域への社会参加。地域の活動の様子を提供しつつ、紹介とマッチング。そして新たな仲間との出会い。

あの手この手と模索をしながら進める地域参加への糸口

高齢者の地域への参加を促す事業は多種多様だ。例えば、健康eスポーツ事業もその一つだ。家庭用ゲームを用いたeスポーツ講座を開き、その運営者に健康デジタル指導士を要請し、出張講座を実施していく。高齢者同士の交流、若年世代との交流、そこには、新たな社会参加の広がりに繋がる事業の検討が求められている。かつて、人とのしがらみのなかで、町内会(自治会)がしてきた住民同士の交流。今は、公が戦略を講じて進めている。だが、果たして、公がやるべきことなのだろうか。人生100年という長寿命化のなかで、私たちは、自分の60歳代、70歳代、80歳代の将来を、自分事のように考えたならば、今住む地域の日常が、一日の大半を過ごす場になるならば、地域の繋がりも重要になってくるのではないだろうか。

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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