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【 解読『おちょやん』】なぜ「第2週」で一層面白くなったのか!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:grandspy_Images/イメージマート)

NHK連続テレビ小説『おちょやん』の第2週が放送されました。第1週では、幼い主人公の「過酷な境遇」を伝えようと、やや貧乏と乱暴を強調し過ぎたきらいがあったのですが、第2週はストレートな面白さで押してきました。

第1週(第1話~第5話)「河内編」のラストで、9歳の千代(毎田暖乃 まいだのの)は大阪へと奉公に出ました。

第2週(第6話~第10話)の時代は、前週と同じ大正5年(1916)。当時、「芝居の街」と呼ばれた、大阪の道頓堀が舞台です。

朝ドラらしい明るさとテンポの良さ

それにしても、この道頓堀の「屋外セット」の見事さ! 奥行のある街並み。並んでいる建物はもちろん、細かな飾りつけも本格的で、道行く人たちの喧噪と合せて、「元祖エンタメの街」といった雰囲気を醸し出しています。

やってきた千代。その賑やかさに目を見張り、いきなり「おとぎの国やんけ~」「道頓堀、ええとこや~」と満面の笑顔。その表情を見ただけで、見る側の期待も高まる、なんとも上手い導入でした。

奉公先は芝居茶屋の「岡安」。ここで登場した女将、岡田シズ(篠原涼子)が「なんだす?」のひと言だけで、もう見る側をグイっと掴みます。

「親孝行か」と聞かれた千代が、自分は孝行娘だと嘘のアピールをした途端、それだと里心がつきやすいから雇えないと突き放すシズ。

あわてた千代が弁明すると、1カ月の試用期間を設定。その上で「あんたは、つなぎや!」と甘やかしません。

いやあ、篠原さんが見せるビシバシ感が、『ハケンの品格』の大前春子を思わせて、いっそ気持ちいい。シズが千代を叱ろうとする時の、「ち~よお~!」という怒声が、もう快感になろうとしています。

第6話で見せた、ドラマとしての「明るさ」と「テンポの良さ」は、第2週全体を通じて変わりませんでした。

続々と登場「味のあるキャラクター」

岡田シズを筆頭に、第2週では味のあるキャラクターが続々と登場しました。のほほんとした夫の宗助(名倉潤)。シズの母親で先代女将のハナ(宮田圭子)は、厳しさと優しさを併せもっています。

シズ夫妻の娘、みつえ(岸田結光)も、小学校に弁当を持ってきた千代が、自分と同い年だと言うと、「うちとあんたは住む世界が違う。友だちにはなれへん!」とピシャリ。千代が河内を出たことで、ちょっと気を抜いていた視聴者側もハッとする場面でした。

そして第2週最大の出会いは、「天海天海(あまみてんかい)一座」でしょう。初代天海(茂山宗彦)の息子、一平(中須翔馬)は、やがて千代にとって「運命の人」となるはずですが、「跡継ぎ息子」にもかかわらず、芝居が嫌いで旅回りも苦痛という性格が面白い。

この一平が、「仮病」を使って舞台をサボった場面がありました。寝ている一平のところにハナが現れ、話しかけたのです。

「なんだすねん、あの芝居は」

「みんな、笑(わろ)てたやないか」

「あれは笑わしたんとちゃいます。笑われてましたんや。(病気のフリをしている)今のほうが、よっぽどいいお芝居してはる」(第8話)

貫禄の大女将ですが、こういうセリフが出てくるあたり、さすが八津弘幸さん(『半沢直樹』『下町ロケット』など)の脚本です。

そして、急死した天海の葬儀にやって来た、喜劇の帝王・須賀廼家万太郎(すがのや まんたろう/板尾創路)も、すごいセリフを口にしていました。

公演中に亡くなった天海。異例の「劇場葬」を取り行ったのは、鶴亀座の社長でした。万太郎は、「鶴亀座の名もまた一躍世に広まったな」と皮肉った上で・・・

「ほんに人の世は、笑えん喜劇と、笑える悲劇の、よじれ合いや」(第9話)

名言です。

「芝居の街」で

千代は、お使いで芝居小屋に初めて足を踏み入れました。その時、「お芝居」も目にします。(第8話)

やっていたのは、イプセンの『人形の家』。主演は高城百合子(井川遥)です。千代が見た、初の「新劇」であり、「新劇女優」でした。

さらに千代は、ハナのおかげで「天海一座」の芝居も見ることができました。その舞台には、父・天海を喪ったばかりの一平も出ています。(第10話)

天海が演じていた、一平の「父親」役。そして、強烈なおかしさの「おばあさん」役。その両方を「一人二役」で頑張るのが、須賀廼家千之助(元・ほっしゃん、星田英利)です。この星田さんが大いに笑わせてくれました。

舞台の最後は、すでに幽霊となっている父親と息子の別れの場面です。抱き合う2人。「父上・・」と一平。泣きそうな父親のアップ。

あの世に行こうと歩き出す父親。しかし現世に未練があるので戻ろうとします。すると息子は、「父上、早う成仏してください!」と笑わせておいて、「父上~!」と絶叫。

画面には、一平と千代の顔のアップが交互に映し出され、亡き父を想う一平の気持ち、その一平を見ている千代の気持ちが交わっていきます。

この時、ハナが、独り言のように、つぶやきます。

「ハコ(芝居小屋)が、ハコが、あの子(一平)の生きる場所や」

いいシーンでした。

「小さな大女優」への贈りもの

この芝居を観る前、千代は大事な届け物を時間までに届けられず、怒ったシズはクビを言い渡していました。出ていく千代。しかし、父が「夜逃げ」をしたこともあり、帰る場所もありません。

ハナに連れられて、「岡安」に戻ってきた千代。意を決してシズに謝ります。

亡くなった母。働かない父。後妻とお腹の中の赤ちゃん。弟のために自分が家を出たこと。自分を売った金を博打ですってしまった父が夜逃げしたこと。だから帰る家もないこと。

「うちは、読み書きができません」に始まり、「もう、ここしか、あらへんのだす。うちを助けてください!」と頭を下げるまで、なんと千代のセリフは約3分にも及びました。

ここは、少女時代の千代の「人生の岐路」ともいうべき場面であり、大きな見せ場でした。また、今後回想シーンはあっても、リアルタイムの出演がこの回で終る「小さな大女優」暖乃さんに対する、制作陣からの「贈りもの」のようなシーンでした。

千代の話を聞いていたシズが、まだ何も答えないところで、千代を探してくれていた警官がやって来ます。千代を見て、「この子に間違いないか」と確認する警官。すると、シズが・・・

「間違いあらしまへん。間違いのう、うちの、おちょやんだす!」

泣かせるセリフです。続けて、

「ただし、ちょっとでも役に立たへん思うたら、すぐに追い出すさかい、覚悟しなはれや!」

と、シズらしい。

千代は、「はい! やのうて、へい! おおきに!」と元気に答えました。岡安の「おちょやん」が誕生した瞬間であります。

ふくらむ期待

この第10話のラストは「8年後」となり、杉咲花さんの千代が登場しました。このスピード感がいいですね。ヒロインを見て、黒衣(くろご/桂吉弥)が「普通」と言って笑わせるエンディングに至るまで、この第2週は出色の展開でした。

それを支えていたのは、巧みなストーリーテリングと魅力的なセリフの脚本。鮮明なキャラクターと出演陣の好演。スケール感と重厚感のある美術。「芝居茶屋」や「芝居小屋」の内部も素晴らしい。そして、アクセルとブレーキの使い分けも見事な演出。

第2週で、これだけのものが揃ってきました。来週からの杉咲版『おちょやん』への期待も、自然にふくらんできます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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