3万円の日本酒に相応しいアテは? 六本木で1日5組だけが体験できる特別な会の全容
酒税法が改正
2020年10月から酒税法が改正され、ビールが値下げされる一方で発泡酒が値上げされるとあって、発泡酒の買いだめがニュースとなりました。
この改正の影響は他にもあり、ワインが値上げ、日本酒が値下げされます。より手頃な値段で飲めるようになるということで、日本酒にとっては追い風です。
日本酒の一升瓶、つまり1.8リットルの値段は、通常1500円から3000円という価格帯が一般的。一方ワインは720ミリリットルで500円から2000円くらいが多いでしょう。
したがって、日本酒はますますコストパフォーマンスのよいお酒となるのです。
ヤヱガキ酒造の「長谷川栄雅」
日本酒はコストパフォーマンスが高いですが、もちろん高級品もあります。中でも、350周年を記念して2018年12月14日に発売された、兵庫県姫路市にあるヤヱガキ酒造の最高級ブランド「長谷川栄雅」は特筆するべき存在です。
ヤヱガキ酒造は、1666年に長谷川栄雅が酒屋と材木商を開いて歴史が始まったという老舗。代表取締役社長を務める長谷川雄介氏は、家系図を辿るところによれば藤原氏の一族であり、藤原鎌足47代目の子孫です。
偉大な祖先の名を冠した「長谷川栄雅」には5種類のラインナップが揃えられています。最上級ランクに位置するのが、税別で3万円の「栄雅 純米大吟醸」。
華やかさとなめらかさという、背反するような性質を見事に併せ持つ魅惑の日本酒です。芳醇な香りを引き立たせるために、あえて旨味を抑え、ふくよかで澄み渡る味わいに紡ぎあげたところが特徴。
日本酒とアテのマリアージュ
ヤヱガキ酒造がこだわっているのは、日本酒の品質だけではありません。サケと美食のマリアージュ、つまり、日本酒とアテ(酒肴)の組み合わせにもこだわっているのです。
2018年12月14日に「長谷川栄雅 六本木」をオープンし、「長谷川栄雅」5種の販売と個室での日本酒体験(5000円、税別)ができるようにしました。
日本酒体験は1日5組、1組4名までという希少人数で開催されています。詳しい説明を聞きながら、5種類の「長谷川栄雅」とアテを楽しめるようになっているのです。
旬の料理人がアテを考案
しかも、3ヶ月おきに旬の料理人がアテを考案し、提供してきました。
日本酒体験
- 2018/12/14~2019/03/31
福山剛氏「La Maison de la Nature Goh」
- 2019/04/01~06/30
庄司夏子氏「ete」
- 2019/07/01~09/30
生井祐介氏「Ode」
- 2019/10/01~12/30
目黒浩太郎氏「abyss」
- 2020/01/10~03/31
高田裕介氏「La Cime」
「長谷川栄雅」のアテを創作してきたこれまでの料理人を振り返ってみると、非常に豪華な顔ぶれ。
「アジアのベストレストラン50」でランクインやアワード受賞をしていたり、「ミシュランガイド東京」で星を獲得していたりするレストランのオーナーシェフばかりです。
ただ、新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、日本酒体験が休止され、再開が待ち望まれていました。それが、10月に入ってようやく再開されたので、改めて耳目を集めているのです。
小林寛司氏によるアテ
6回目となる今回のアテを創り出したのが、和歌山県にある「ヴィラ アイーダ(villa aida)」オーナーシェフの小林寛司氏。
調理師学校卒業後に大阪「アルバ」で2年間修行し、1994年にイタリアへ。1996年からカンパーニャ州ソレントの3つ星「ドン・アルフォンソ1890」でパスタ部門のシェフを務めます。1998年に帰国して「レストラン アイーダ」をオープンし、2007年には敷地内に自宅を増築して「ヴィラ アイーダ」をスタートしました。
畑で自ら育てた野菜やハーブを用いて、ここだけでしか味わえない料理を創出。1日1組限定で営業し、予約の取れない農家レストランとして知られています。
2019年5月には世界のベジタブルレストランのランキング「Top 100 Best Vegetables Restaurants 2019」で17位に選出されました。
2020年6月には「第11回 辻静雄食文化賞 専門技術者賞」を受賞し、「自然から発想する料理」(柴田書店)を上梓するなど、今最も注目されている料理人のひとりであるといって過言ではありません。
5種類のアテ
日本酒体験で試飲できる「長谷川栄雅」と、小林氏が考案したアテは次の通り。
日本酒体験
- 栄雅 純米大吟釀/黒豆蜜煮
- 栄雅 特別純米/ドライトマト 梅塩
- 長谷川 純米大吟釀 三割五分/柚餅子クリーム
- 長谷川 純米大吟釀 五割/かぼちゃ みりん 七味
- 長谷川 特別純米/玄米 酒粕 生姜
「黒豆蜜煮」は黒豆の味わいを引き出した一品で、少し甘味をつけて最後に塩を振っています。ややかための食感やしっかりとした黒豆の味わいが、ふくよかな「栄雅 純米大吟釀」と実に合います。
「ドライトマト 梅塩」は器の縁に梅塩がまぶされた酒肴。最初に梅塩を味わってから「栄雅 特別純米」を飲んだ後に、キュウリのピクルス、胡椒やカルダモンで風味付けたドライトマトを食べると、複雑な味覚の変化を楽しめます。
柚餅子にクリームを加えて作ったキューブ状のアテが「柚餅子クリーム」。果実を思わせる「長谷川 純米大吟釀 三割五分」には、柚子の色香がピッタリです。
「かぼちゃ みりん 七味」は裏ごししたカボチャのピューレにみりんゼリーを合わせ、七味をアクセントに。マイルドな味わいからピリリへとグラデーションを描き、キレのある「長谷川 純米大吟釀 五割」によって結ばれます。
「玄米 酒粕 生姜」は酒粕と生姜パウダーがまぶされた玄米の煎餅。玄米の味わいが「長谷川 特別純米」にしっかりと寄り添い、酒粕の甘味と生姜の辛味がよいコントラストです。
特筆するべきこと
この日本酒体験は、非常に貴重な「長谷川栄雅」5種をテイスティングできるだけでも、極めて価値がありますが、他にも特筆するべき点があります。
まず挙げたいのはアプローチと空間。真っ白でスタイリッシュなショップエリアの奥に扉があります。そこを入ると畳が敷かれた静謐な和空間が現れ、ここで体験会が行われるのです。至高の日本酒と創造力溢れるアテを味わうのに相応しい、エクスクルーシブで落ち着いた空間となっています。
次に、様々な酒器でお酒を楽しめること。同じお酒であっても、異なる酒器であれば、香りの立ち上がりや広がり方、口当たりや味わいが変わるものです。5種類の「長谷川栄雅」それぞれに相応しい酒器を用いているので、最高の日本酒がさらにおいしく飲めます。
最後はアテの希少性。今だけ、ここでだけ食べられるのは希少性があります。加えて、あるお酒のためだけに紡ぎ出されたアテというのは、非常に価値があるのではないでしょうか。ましてや、一流の料理人がそれを行うとなれば、極めて贅沢なことです。
本来であれば、レストランへ訪れなければ食べられないその料理人の料理が食べられるのも嬉しいところでしょう。
日本酒体験が始められた背景
「長谷川栄雅」の日本酒体験は、どのような経緯で始められたのでしょうか。
ヤヱガキ酒造の代表取締役社長を務める長谷川氏はこういいます。
「日本ではアルコール離れ、特に日本酒離れが進んでいる。蔵元として、おいしいお酒をつくることに加えて、体験できる機会が必要であると考えた」
そこで「長谷川栄雅 六本木」をオープンすることになり、知人であり、「世界のベストレストラン50」で日本のチェアマンを務める中村孝則氏に相談したということです。
そして試飲だけではなく、お酒に相応しいアテも提供しようということになり、美食に精通した中村氏が料理人をアレンジすることになりました。
料理人のアレンジ
では、どのようにして料理人を選出しているのでしょうか。
中村氏は「至高の日本酒に普通のアテを合わせても面白みがない。そこで革新的な若い料理人につくってもらうことを考えた」と回答。
小林氏については次のように評します。
「畑で130種もの野菜やハーブを育て、レストランでガストロノミーを生み出している。料理人が今最も尊敬する料理人のうちのひとりではないだろうか。私が次のキーワードとして提唱している『アグリガストロノミー』の体現者でもある」
5種類のアテについては「食味はもちろん、テクスチャもそれぞれ違うので楽しんでいただきたい」と太鼓判を押します。
特にこだわった「玄米 酒粕 生姜」
アテを生み出すにあたって、小林氏はどのようなことを考えたのでしょうか。
「開催時期にある食材を思い浮かべ、パズルのように組み立てていった。私がいないところで提供されることは初めてなので、クオリティが保てることを意識した」
「ドライトマト 梅塩」「柚餅子クリーム」は最初に完成し、「玄米 酒粕 生姜」が最後にできあがったといいます。
「玄米 酒粕 生姜」については「もともとお米農家だったので、米で何かを作りたいと思っていた。アプローチ方法がたくさんあったので、何が最適であるのか、何度も試行錯誤した」と、特にこだわりのアテであると自信をもちます。
日本の食文化の発信地に
2019年度における日本酒の輸出総額は前年比5.3%増の約234億円となり、10年連続で過去最高を更新するなど、日本酒は海外からの需要が高まっています。
日本酒体験では今後、茶道に通じた中村氏による茶事を開催する案もあるということですが、世界でも知られる東京の六本木という地から、「長谷川栄雅」という至高の日本酒を通して、日本人の料理人によるアテ、さらに日本茶まで発信するとなれば、長谷川社長が期待した以上に、「長谷川栄雅 六本木」が日本の食文化の発信地になることは確かではないでしょうか。