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タピオカによる誤嚥の危険性

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 近年、タピオカミルクティーをはじめとするタピオカ入りドリンクが若い女性を中心に大流行しており、夏休みが終わった今も、この飲料を提供する店舗の前には行列ができている。

 この夏、ある人から「タピオカミルクティーに入っているタピオカを乳幼児に食べさせても大丈夫でしょうか?あの大きさと形状、そして粘性が気になっています。事故事例はありますか?」という質問を受けた。

初めて飲んでみたタピオカミルクティー

 私自身はそれまでタピオカミルクティーを飲んだことはなかったが、この質問があってから、このミルクティーに入っているタピオカとは一体どんなものなのか気になっていた。ある日打ち合わせのために入ったカフェのメニューにタピオカミルクティーがあったので、注文してみた。すると、今まで見たことがないような太いストローとタピオカミルクティーが運ばれてきた。タピオカというと直径が3-4mmのビーズ玉くらいの大きさのものだと思っていたが、このミルクティーの中のタピオカは直径10mmくらいである。添えられていた太いストローで吸うと、タピオカがストローに吸い込まれてくる。この大きさだと、確かに幼児の気管の入り口である喉頭部に詰まる可能性がある。また、タピオカには一定の弾力性があるので、一旦、喉頭部に詰まると窒息につながることがあるかもしれないと思った。

Twitterに寄せられた体験

 2019年8月下旬、「タピオカドリンクを飲み歩きしていた3歳くらいの幼児がタピオカを喉に詰まらせた現場に居合わせた」というツイートをTwitterで見かけた。投稿されたのは救命に関する資格をお持ちの方で、とっさに背部叩打法を施し、この幼児を救った経緯が示されていた。

内外の事例および注意喚起

 この事例を知り、国内の事例について調べたところ、アレルギー症状(タピオカを着色するために使われているイカスミのエキスによる甲殻類アレルギー)を起こした事例が数件、窒息しそうになった事例が1件報告されていた。

 一方、諸外国ではどのような事例があるのか、また諸機関ではどういった対応を行っているのか調べてみた。

1 中国の事例 その1

19歳の少女がタピオカミルクティーに入っていたタピオカを吸い込んだ際、3個が気管に詰まり、窒息して死亡した。

2 中国の事例 その2

8歳の少年がタピオカミルクティーを一口飲んだ際、1個が気管に入り、その後肺に入り込んだ。体調不良が続き、咳、発熱、肺炎といった症状も続いていたので、6か月後に内視鏡検査をしたところ、肺の中にタピオカ1個を発見、外科手術で取り出し、その後軽快した。

3 カナダにおける注意喚起

窒息を引き起こす可能性がある食品のひとつにタピオカの材料が挙げられている。

窒息のメカニズムと気管の太さ

 ヒトの気管支の太さは、本人の小指の太さ程度と言われている。その気管支に異物が詰まり、肺に酸素が取り込まれない状態になると窒息になる。乳幼児の気管支は細いストローくらい、成人であればまさにタピオカミルクティーに使われている太いストローくらいの太さである。

 

 上述したように、現在流行しているミルクティーに入っているタピオカの大きさは直径10mm程度で、乳幼児の喉頭異物となり得るサイズであり、一旦詰まると粘稠(ねんちょう)で取り出すのが難しい。液体だけをストローで口の中に吸い上げる場合には、それほど強く吸う必要はないが、太いストローとほぼ同じくらいの径があるタピオカをストローで吸い上げるためには強く吸引する必要がある。この強い吸引のために、タピオカは勢いよく喉の奥に到達して、喉頭部を閉塞してしまう。これが、タピオカがのどに詰まるメカニズムである。

 現時点ではわが国における窒息死の報告はないが、それは幼児に食べさせる機会がまだそれほど多くないためではないかと思われる。食べさせる機会が増えれば、気管支異物、あるいは窒息の事例が発生する可能性がある。私は、ミニトマトや巨峰など、乳幼児の窒息につながる可能性のある食品については「4歳までは、4cm径以下の食品は、4つに切って与える」ことを推奨しているが、径が10mmのタピオカを4つに切ることは難しい。強く吸い込む必要があるストローは使用せず、タピオカはよく噛んで食べるのがよい。少なくとも4歳までは、太い径のタピオカは食べさせないほうがよいと私は考えている。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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