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心疾患や脳卒中だけじゃない。メタボ放置でがんのリスクも上昇

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
コロナ禍で太っちゃった? 気を取り直して、運動して食生活を整えましょう。(提供:アフロ)

メタボは侮れない

 日本人の死因で圧倒的に多いのはがんで、2位が心疾患。米国では逆に最も多い死因は心疾患で、差はそれほどないもののがんは2位となっている。米国では今や成人の42%が肥満症。少なくとも3人に1人はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)だと言われているので、メタボでリスクが高まる心疾患が死因のトップになるのもうなずける。

 メタボリックシンドロームは、内臓まわりに脂肪が蓄積した肥満に加え、高血圧、高血糖、脂質代謝異常のいくつかが当てはまり、心臓病や脳卒中になりやすい状態だ。しかし今年3月に、アメリカがん協会の論文誌 『Cancer』に掲載された大規模な研究で、メタボはさまざまながんの発症リスクとも関連し、特に重症度の高いメタボや慢性炎症が続くことで、がん発症のリスクがひときわ高まることが示された。(注1)

4万4000人のメタボ該当者を追跡

 上記の『Cancer』誌に発表された研究は、中国をベースに行われたもので、メタボリックシンドロームに該当する4万4000人あまりについて、10年にわたりがんの発症を追跡した。研究参加者は3万4808人が男性、9307人が女性で、平均年齢は49歳だった。

 参加者はがん発症の追跡調査をはじめる前の2006年から2010年の4年間に、メタボリックシンドロームの状態の推移を把握するために3回の検査を受け、重症度評価の軌跡ごとにグループ分けされた。

 メタボの重症度が安定的に低かった人の割合は約11%で、40.8%は重症度が低~中程度の間で推移、41.5%の人が中~高程度の間で推移、そして4年間で重症度が高い水準からさらに上昇した人の割合は約7%だった。

メタボの重症度でリスクは変わる

 その後の10年弱の追跡の結果、研究参加者の中でがんの診断を受けたのは2271人。分析の結果、メタボの重症度評価が「高い水準からさらに上昇したグループ」の人は、「安定的に低かったグループ」に比べて、がんの発症リスクが全体的に1.3倍だった。

 このグループは、がん種別だと肝がんのリスクが1.6倍、乳がんのリスクが2.1倍、大腸がんのリスクが2.5倍も高かった。さらにメタボ重症度が高いグループの中でも同時に慢性炎症がある人が、最もがん発症リスクが高かったという。

 メタボリックシンドロームでがん発症リスクが上がることを示した過去の研究結果とも一致しているが、この研究ではさらにメタボの重症度が高い状態を放置していると特にがんリスクが高まることが示された。主任研究員である北京首都医科大学のShi Han‐ping医学博士は、「この研究結果は、メタボリックシンドロームを積極的に、継続的に管理することが、がん予防にもつながることを示唆しています」とのコメントを発表している。(注2)

日本にも多い中高年のメタボ男性

 体型だけに着目すると、ほとんどの日本人は米国人よりはるかにスリムだが、それでもメタボリックシンドロームやその予備軍は多い。下のグラフは令和元年の厚生労働省の調査結果。50歳以上の日本人男性の3割程度がメタボで、予備軍を入れると半数近い。

令和元年の厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」データから筆者が作成(注3)
令和元年の厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」データから筆者が作成(注3)

あなたも本当はメタボかも?

 女性は男性に比べると、メタボとその予備軍の割合は少ないが、ウエスト周囲径が基準以下だからといって、安心できない可能性もある。というのは、日本の基準だとウエスト周囲径は「男性で85センチ以上、女性で90センチ以上」だが、上記の研究でも使用された国際糖尿病連盟(IDF)国際基準では、女性のウエスト周囲径は「80センチ以上」だ。

 また今年3月、新潟大学は心血管疾患を実際に発症したかどうかという設定で行った56万人の医療データ解析をもとに、メタボ診断基準の修正案を発表している。(注4)それによると、ウエスト周囲径の基準は男女ともに現行より細く、「男性が83センチ以上、女性が77センチ以上」。

 さらに中性脂肪値や血圧、空腹時血糖値、HDL(善玉)コレステロール値なども現行より厳しい基準にした修正提案だ。この基準で判定するなら、メタボに該当する人は男女とも、特に女性は大幅に増えることになるだろう。

 ウエスト周りが多少太くなっても、健康診断でコレステロールや血圧の上昇を指摘されても、つい対策を先延ばしにしてしまいがち。しかし一般的に50歳を過ぎた頃からがん発症が増えてくるのに加え、メタボを放置してしまうと、心血管疾患だけではなく、がんリスクもさらに高まってしまう。何かと忙しい中年期だが、中高年期での大病を避けるためにも、メタボにならない、メタボ該当者は改善を続けるべく継続的な運動や食生活の改善を心がけたい。

参考リンク

(注1)The association of metabolic syndrome scores trajectory patterns with risk of all cancer types - Deng - Cancer - Wiley Online Library

(注2)Worsening Metabolic Syndrome May Increase Cancer Risk - The ASCO Post

(注3)国民健康・栄養調査48 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状況 - メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の疑い,年齢階級別,人数,割合 - 総数・男性・女性,20歳以上 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp)

(注4)メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 新潟大学 保健指導リソースガイド

心血管疾患発症高リスク者スクリーニングに最適化したメタボリックシンドローム(MetS)診断基準の修正案を作成 | 研究成果 | ニュース - 新潟大学 (niigata-u.ac.jp)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』(エスコアール)がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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