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ロシア海軍黒海艦隊の「ミサイル艦」は6隻が健在

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ軍の発表よりロシア海軍の小型ロケット艦「ツィクロン」撃破と報告

 5月19日にウクライナ軍はクリミア半島のセヴァストポリ港を攻撃してロシア海軍の226M型掃海艇「コヴロヴェツ(Ковровец)」を撃破したと発表、更に5月21日に19日の攻撃の追加発表として22800カラクルト型小型ロケット艦「ツィクロン(Циклон)」を撃破していたと発表しました。ただしどちらも視覚的な明確な証拠は提示されていないので詳細は確認中です。

ウクライナ軍の発表よりロシア海軍の掃海艇「コヴロヴェツ」と小型ロケット艦「ツィクロン」撃破と報告
ウクライナ軍の発表よりロシア海軍の掃海艇「コヴロヴェツ」と小型ロケット艦「ツィクロン」撃破と報告

クリミアのミサイル艦は全滅=ノヴォロシスクにまだ健在で居る

 この際にウクライナ軍はツィクロンの撃破で「クリミアを拠点とするロケット艦は全滅した」と主張しています。ロケット艦とは宇語や露語でミサイル艦のことですが、ここでいう「ミサイル艦」とはウクライナ各地の陸上目標を長距離攻撃している巡航ミサイル「カリブル」の発射母艦(水上艦に限定、潜水艦は除く)という限定された範囲の意味になります。(※対艦攻撃用途のミサイル艇の意味ではないので注意)

 注意しないといけないのは「クリミアを拠点とするミサイル艦は全滅した」とはクリミア半島のセヴァストポリ港に居たミサイル艦が全滅したという意味で、「ノヴォロシスクを拠点とするミサイル艦は健在のまま」ということを意味します。黒海艦隊の拠点は複数あるので、黒海艦隊の全てのミサイル艦が全滅したという主張ではありません。

 なお宇語や露語のツィクロン(Циклон)とは英語のサイクロン(Cyclone)と同じ意味になります。このため同艦のことを英語圏では「Cyclone」と表記する場合もありますが、宇語や露語の発音とは少し異なります。キリル文字からラテン文字に転写する場合は「Tsiklon」という表記も使われます。

ロシア海軍黒海艦隊に所属する「ミサイル艦」のリスト

○11356R型フリゲート

  • アドミラル・グリゴロヴィチ ※黒海の外に居て帰還不能
  • アドミラル・エッセン ※健在
  • アドミラル・マカロフ ※健在

○21631ブーヤンM型小型ロケット艦

  • ヴィシュヌイ・ヴォロチョク ※健在
  • オレホヴォ・ズエヴォ ※健在
  • イングーシェチア ※健在
  • グレイボロン ※健在

○22800カラクルト型小型ロケット艦

  • ツィクロン ※2024年5月19日にセヴァストポリで撃破された可能性
  • アスコリド ※2023年11月4日に撃破(就役直前、ザリフ造船所:記事
  • アムール ※建造中、クリミア半島ケルチ市のザリフ造船所
  • トゥーチャ ※建造中、ヴォルガ川沿いのゼレノドリスク造船所
  • タイフーン ※建造中、ヴォルガ川沿いのゼレノドリスク造船所

※ロシア海軍黒海艦隊の「ミサイル艦」は6隻が健在。被弾損傷は撃破確実1隻と撃破疑い1隻で、ウクライナ軍による「ミサイル艦」への攻撃成功例はそれほど多くはない。

※小型ロケット艦は他国ではコルベットに相当するサイズで、ミサイル艇よりは大きい。コルベットに本格的な対地用の巡航ミサイルを搭載する例はロシアと北朝鮮くらいで、世界的に珍しい小型重武装艦。

※アムールとトゥーチャは就役できる状態となった可能性があるが、発表がまだ無い。タイフーンは進水したばかりで艤装工事はこれから。

開戦とトルコによる海峡封鎖の影響

 黒海艦隊の「ミサイル艦」は稼働艦6隻が黒海のロシア本土側のノヴォロシスク港を拠点に健在です。なお11356R型フリゲート「アドミラル・グリゴロヴィチ」はシリア遠征中に開戦してしまいトルコがモントルー条約を根拠に海峡を封鎖し軍艦の通航を拒否したので帰れなくなっています。

 同様に20380型コルベット「メルクーリィ」はバルト海で建造され黒海に回航する前に開戦となり配備ができなくなりましたが、そもそも同艦はカリブル巡航ミサイルの発射能力はありません。開戦初期にネプチューン対艦ミサイルで撃沈されたスラヴァ級巡洋艦「モスクワ」も実はカリブル巡航ミサイルの発射能力は無い艦でした。また1356型フリゲート「ラードヌイ」「プィトリーヴィイ」もカリブルは撃てません。

 つまり現状の黒海艦隊の大型戦闘艦でカリブルを撃てるのは11356R型フリゲート「アドミラル・エッセン」「アドミラル・マカロフ」の2隻だけで、これに小型戦闘艦の21631ブーヤンM型小型ロケット艦の4隻が加わります。11356R型も21631ブーヤンM型も巡航ミサイル搭載可能数は最大8発で同じなので、ミサイル艦6隻の全ての同時発射最大火力はカリブル巡航ミサイル48発です。

水上艦と潜水艦を合わせると巡航ミサイル発射母艦は10隻が健在

 そして水上艦とは別にキロ級潜水艦7隻が黒海艦隊に配属されていますが、うち2隻は黒海外に居て帰還不能、1隻はセヴァストポリの修理ドックに入渠中に巡航ミサイルで攻撃されて大破し戦闘不能となり(過去記事)、黒海内で現在行動可能な潜水艦は4隻です。

 水上艦と潜水艦を合わせると、黒海艦隊でカリブル巡航ミサイルを発射できる艦は現状で10隻となります。ただし黒海艦隊のカリブル巡航ミサイルの使用は最近は低調なものとなっており、二桁の数を発射したのは2023年9月25日の12発が最後で、最近だと2024年4月27日の8発がありますが、主力攻撃兵器とは呼べない状態です。巡航ミサイル攻撃の主力は爆撃機から空中発射するKh-101巡航ミサイルに切り替わっているので、ミサイル艦を撃破しても大勢にはあまり影響はありません。

 逆に言えばセヴァストポリがウクライナ軍のミサイル攻撃圏内なのでロシア艦は安全にカリブルを再装填ができなくなったので、カリブルが主力攻撃兵器の座から引きずり降ろされたとも言えます。ノヴォロシスクならATACMSなどの射程外なので少しは安全ですが、今のところカリブルの本格運用を再開する目立った動きはありません。

内陸水路網と小型ロケット艦の移動

 なおトルコの海峡は条約により戦争中は外国軍艦は通行不可ですが、ロシアの大河や運河を利用した内陸水路網を使ってカスピ海やバルト海などから小型ロケット艦を黒海に回航することは可能です。逆に黒海の小型ロケット艦が別の海域にも自由に行けます。またキロ級潜水艦を内陸水路網で移動させることも可能ですが、潜水艦の場合は喫水を浅くするために台船に乗せる必要があります。

 実際にカスピ小艦隊所属の21631ブーヤンM型「ヴェリキイ・ウスチュグ」らしき艦が2022年6月14日~15日にヴォルガ川を若干の損傷を受けた姿で曳航されている様子を確認されており、ウクライナでの戦争に参加して黒海でウクライナ軍の攻撃を被弾して修理で移動したのではという推測がなされていますが、はっきりとした理由は判明していません。同艦は現在はバルト海に居ます。

 ヴォルガ川沿いのゼレノドリスク造船所で黒海艦隊向けに建造中の22800カラクルト型「トゥーチャ」「タイフーン」の2隻は完成後に黒海に回航可能ですが、現状では戦争中は的になりに行くようなものなので、カリブル巡航ミサイルの運用方針が再び変更されない限りは、別の海域に回される可能性が高そうです。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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