ロシア軍が約2週間ぶりに大規模ミサイル攻撃
12月25日にロシア軍がウクライナに対し大規模な長距離ドローン・ミサイル攻撃を実施しました。巡航ミサイルによる大量攻撃は12月13日以来で約2週間ぶりとなります。
2024年12月25日迎撃戦闘:ウクライナ空軍司令部
KN-23弾道ミサイル(北朝鮮製)×2飛来0撃墜
S-300/S-400地対空ミサイル対地運用×10飛来0撃墜
長距離巡航ミサイル2種類合計×62飛来55撃墜
- カリブル艦船発射巡航ミサイル×12飛来
- Kh-101/Kh-55SM空中発射巡航ミサイル×50飛来
Kh-59/Kh-69空対地ミサイル×4飛来4撃墜
敵性無人機×106飛来54撃墜52未到達
※長距離巡航ミサイル2種類は飛行特性や飛行パターンが似ており種類の特定が難しい場合があるので撃墜数は纏めて集計。
※無人機の未到達はほとんどが非武装の囮機が燃料切れで勝手に墜落したもの。
12月25日の長距離ドローン・ミサイル攻撃は総合計で184飛来中、突破は19発(弾道ミサイル系×12、巡航ミサイル系×7)です。なおドローンの未到達を除いた全体での迎撃による阻止率は86%です。
- 高速ミサイル:12飛来0撃墜 阻止率0% ※12突破
- 低速ミサイル:66飛来59撃墜 阻止率89% ※7突破
- 低速ドローン:106飛来54撃墜52未到達 阻止率100% ※0突破
高速ミサイル12飛来0撃墜:S-300による纏まった攻撃
基本的に弾道ミサイル系の高速ミサイルは迎撃困難であり、パトリオットないしSAMP/Tといった高性能な大型防空システムが配備されていない地域を狙われると対処できない問題点は継続しています。
またウクライナ空軍の報告では通常、KN-23については「イスカンデルMないしKN-23」とまとめて報告されるケースが多いのですが(飛行特性が酷似しているため)、今回の報告はKN-23と断定しています。ただし数は2発と少ないものでした。
それよりも気になる点としては、ベルゴロド方面からハルキウを狙う対地攻撃用途としてのS-300/S-400地対空ミサイルの大規模運用が再開された点です。
地対空ミサイルの転用であるS-300/S-400対地攻撃モードは準弾道飛行を行いますが、純粋な弾道ミサイルと比べると射程は短く攻撃範囲が制限されます。逆に言えばこれを撃墜しようとすると有力な防空システムを前進配備しなければならず、防空システムが敵の攻撃に晒されやすくなるので配置し難く、撃墜は可能だが配置が出来ないというジレンマに陥ります。
そこでウクライナ軍は越境攻撃が許可された後にHIMARSの攻撃でベルゴロド方面のロシア軍のS-300/S-400を追い払ってハルキウの安全を確保していたのですが(6月以降)、その後はハルキウに対し9月に10発のS-300の使用があり、しばらくまた使用が途絶えて、12月にまた10発と纏まった数のS-300が使用されています。
それでもS-300/S-400は2024年3月の61発と比べると低調な投入数に止まっています。ロシア軍が大規模使用再開に及び腰なのかもしれません。
低速ミサイル66飛来59撃墜:約1割が突破
亜音速巡航ミサイル(Kh-101/Kh-55SM、カリブル、Kh-59/Kh-69)は約1割が突破してきました。亜音速巡航ミサイルは弾道ミサイル系に比べると低速ですが、それでもプロペラ推進式のドローンよりも3倍は速く、完封での阻止はなかなか難しい状況です。
最近の「長距離」巡航ミサイル大規模攻撃
- 12月25日:62飛来 ※Kh-101×50、カリブル×12
- 12月13日:86飛来 ※Kh-101×55、カリブル×24、イスカンデルK×7
- 11月28日:88飛来 ※Kh-101×57、カリブル×28
- 11月17日:106飛来 ※Kh-101×73~77、カリブル×24~28
- 08月26日:105飛来 ※Kh-101×77、カリブル×28
※ここでの「長距離」巡航ミサイルは亜音速で飛行するKh-101(空中発射)、カリブル(艦船発射)、イスカンデルK(地上発射)をカウント。
※Kh-69(空中発射)は除外してある。
※11月17日の発射は長距離巡航ミサイルの種類の細かい内訳は未発表(合計した飛来数と撃墜数のみ)、内訳の数字は筆者の推定。
ロシア軍の推定される巡航ミサイルの備蓄状況と生産能力と使用状況から、2014-2015冬季攻撃の巡航ミサイル大規模使用は行えてもあと1回あるかないかだと予想されます。ただし1年前に北朝鮮から弾道ミサイルを輸入したように新たな調達手段が確保されていた場合は、予想が全く付きません。
低速ドローン:106飛来54撃墜52未到達 阻止率100%
今日12月25日の長距離ドローン攻撃では迎撃戦闘により脅威対象の自爆機は1機も突破を許さず完封しています。
また既に説明した通り無人機の未到達はほとんどが非武装の囮機が燃料切れで勝手に墜落したものです。囮機は撃墜した中にも含まれていると推定されます。現状ではロシア軍の長距離ドローン攻撃は囮機の比率が6~7割に達している可能性があります。
ですが今年の夏ごろから始まった囮機を大量に混ぜるロシア軍の戦術はあまり効果が上がっているようには思えません。集計した数字の推移をみる限り、囮機を増やすのに投じた労力に見合った自爆機の大幅な突破率向上は見られません。
※クリスマス・イブ(12月24日)の攻撃
※ロシア軍によるウクライナ中部の都市クリヴィー・リフの住宅に対するクリスマス・イブ(12月24日)のミサイル攻撃。この攻撃は単発だったため、ウクライナ空軍司令部の集計報告には入っていない。