ウクライナ軍がクリミア半島ケルチ市のザリフ造船所を巡航ミサイルで攻撃、ロシア軍艦「アスコリド」が大破
11月4日(現地時間)、ウクライナ軍がロシアの勢力下にあるクリミア半島のケルチ市にあるザリフ造船所を攻撃して大きな火の手が上がるのが映像で確認されました。OSINTによる分析で造船所の岸壁で爆発があったと特定され、就役直前でロシア海軍黒海艦隊に引き渡す前の最終調整中だった22800カラクルト型コルベット「アスコリド」が、ウクライナ軍のミサイル攻撃を被弾したと推定されています。
そして11月6日(日本時間では11月7日)になって「アスコリド」の損傷状況を間近で撮影した写真と、更には被弾時の瞬間の動画が報告され始めました。
岸壁よりアスコリド左舷側の中央。右が艦尾側で左が艦首側
アスコリド被弾の瞬間の映像、港内の対岸からの視点
アスコリドの艦尾方向の上空から岸壁に接している左舷にミサイルが命中しています。ウクライナ側はフランスから供与されたSCALP-EG巡航ミサイル(イギリスのストームシャドウと同型)を使用したと主張、ロシア側は15発のミサイルの集中攻撃を受けて13発を防空システムが撃墜したが軍艦1隻が被弾損傷したと認めています。
22800カラクルト型「アスコリド」は排水量約800トンの小さな艦で、国際的な艦種の分類ではコルベットに相当します。ロシア海軍での分類では小型ロケット艦(小型ミサイル艦)です。なお参考までに昨年に撃沈された巡洋艦「モスクワ」は排水量約9000トンです。
22800カラクルト型は小さな艦ですがロシア得意の重武装設計で巡航ミサイル用の垂直発射機を備えており、カリブル巡航ミサイル(亜音速)またはオーニクス巡航ミサイル(超音速)を8発搭載することが可能です。
しかしアスコリドは就役直前で岸壁で最終調整中にミサイル推定2発を被弾して大破してしまいました。沈んではいないので費用と期間を掛ければ修理は可能ですが、損傷状況がかなり酷ければ新造したほうが安い場合があり、実戦未投入のまま廃艦となってしまう可能性があります。
なおザリフ造船所は350m級の大きなドックを建設しておりロシア海軍向けの新型の強襲揚陸艦(計画23900)を建造する予定だったのですが、ウクライナとの戦争が続く中で建造が可能なのか怪しくなってきました。このままでは建造が進んだ頃にミサイル攻撃が行われる可能性が高く、大変に危険な場所となってしまったのです。
ザリフ造船所のアスコリド被弾時の岸壁の位置は推定で位置座標は(45.264463, 36.421142)の辺りです。Google地図は最新の撮影日時ではないので、周囲に映っている艦は別の艦である可能性が高いことに留意してください。
また被弾時のアスコリドは艦首を北西に向けて岸壁に接岸していました。この状況で左舷の後方からミサイルが着弾したということは、ウクライナ軍の発射したSCALP-EG巡航ミサイルは大きく旋回して回り込みながら突入してきたことを意味しています。迎撃を掻い潜るためにわざと遠回りな飛行を行ったのでしょう。
※「アスコリド」のロシア語のキリル文字は«Аскольд»で、英語のラテン文字への転写だと「Askold」になるので、この影響で日本では「アスコルド」と書く場合も多いのですが、日本語のカタカナへの転写ルールでは「アスコリド」という表記になります。ただしアスコルドでもアスコリドでもどちらで書いても構わないと思います。