Yahoo!ニュース

「外資が森を買収」に対する山側の反応は…

田中淳夫森林ジャーナリスト
外資が森を買うとこうなる? いえ、皆伐したのは日本人です。

今年も林野庁が「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」を4月末に発表している。

平成28年に外国資本によって買われたという森林は、合計29件202ヘクタール。また国内の外資系企業と思われる者による森林の取得は19件、575ヘクタール。ちなみに平成18年からの累計は、141件1440ヘクタールとなっている。

この手の話題は、すぐ「外資が日本の森を奪う!」と騒がれるのだが、よくよく目を通すと、これが森林買収?と首をかしげる部分も少なくない。

たとえば取得面積は、1ヘクタールに満たないケースが多い。一辺数十メートルの森林を何に使えるのか。一応利用目的は、別荘地だとか資産保有とされている。そのとおりだとしたら、地目が山林だっただけで、当事者は森林を購入した自覚がないかもしれない。ましてや水源を買ったなんて思いもしないだろう。

とはいえ、日本の土地が外資に買われたのは事実だ。すると素朴な疑問として、宅地や商業地などの買収はどうなのか、とか考えてしまう。都心の一等地を外国人の会社や個人が購入するケースは多くある。別荘地とどう違うのか。さらに会社等の売買は? 会社の所有する土地は結構な面積あるものだ。たとえばゴルフ場会社を外資が経営権を握ったらどうだろう。18ホールのコースで100ヘクタールはあるから、それだけの土地が外資に買われたとも言える。その約半分は森林だ。

話を森林買収にもどすと、この話題に関する反応は、都会と山村で微妙に違う。

意外に思うかもしれないが、林業関係者からは好意的に見る声が出ている。好意的というより、金銭的な期待とかお荷物を処分する投げやり気分かもしれないが。

実際、私の周りでも「外資でもなんでも山を高く買ってくれるなら歓迎」「ビジネスチャンスかもしれない」。それどころか「外資の方が、まともな林業をやってくれるかも」なんて声が聞こえるのだ。

というのも、山主には自らの山(森)を持て余している人が多いからだ。

親から引き継いだものの、何の利益も生み出さず、逆に維持経費やら固定資産税やらを取られるばかり。整備したいと思っても、先立つものがない。相続税を払うために手放そうと覚悟しても買い手がつかない。そこに高額で買い取るという話が来たら、それが外国資本であるかないかは後回しになってしまう。あるいは放置した山の木を伐採するというなら、その仕事を請け負えるかも……と思う。

一方でシャープのように、経営の傾いた日本の会社を外資が買収して、早々に立て直す事例が目立つ。ならば、と思わず外資に「期待」してしまう。

この問題、街の人の「(自分には関係ないが)日本の国土が外資のものになるのはなんとなく不安だ」という感じ方に対して、山村にいるとリアルに自分の持ち山とか仕事場として考えるからだろう。

ちなみに「外資が森林を持つと困る理由」と上げられている事例のほとんどが、現実には日本人所有の山ですでに起きている。

所有者不明、土地境界線不明のケースはいうに及ばず、所有者がはっきりしていてもトラブルが多い。荒れ放題で放置、林道を入れたいと申し入れても無視。一方で山を丸裸にして土砂流出させたり水源を汚濁させたり、産廃を不法投棄したり、メガソーラーを設置したり……。さすがに「自衛隊を監視する」ケースは聞かないが。

もし本当に外資の森林買収に不安を感じるのなら、これらの声にも応える必要があるだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事