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日本最古の大手私鉄が飲食店から出禁で物議! 「3時間5000円はぼったくり」はカスハラか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

飲食店が客を出禁に

飲食店で出禁=出入り禁止になったことはありますか。

地元に愛されている居酒屋が激怒し、訪れた会社の関係者を出禁にしました。

「南海電鉄関係者すべて入店禁止」居酒屋の張り紙で物議  発端は“どんちゃん騒ぎ”後の「ぼったくり」クレーム/FNNプライムオンライン

南海電鉄の社員11名が居酒屋に客として訪れて、3時間食べて飲み、5万6000円を支払います。しかし、「高い」「ぼったくり」だと納得せず、警察まで呼ぶ事態に。最終的に4万4000円という言い値で決着し、店主は1万2000円を返金しました。

その後、怒り心頭に発した店主が、同社の関係者を出禁にするという張り紙を店頭に掲出。これをあるミュージシャンがSNSに投稿したところ拡散され、多くのメディアが取り上げたことによって、衆目を集めることになりました。

南海電鉄は大手私鉄のひとつであり、日本最古の私鉄であるだけに、大きな物議を醸すことになります。そして、同社が張り紙をはがしてほしいと連絡し、店主が要望に応じたという次第です。

平均的な居酒屋

11人で5万6000円、つまり、1人あたり約5000円という金額が高すぎるということで問題となりましたが、実際のところ、居酒屋はどれらくらいの金額が妥当なのでしょうか。

居酒屋でも1人で優に1万円を超えるような高級居酒屋から、場末の1000円台でべろべろに酔える“せんべろ”まで幅広いです。地域的な料金の格差も決して小さくありません。

飲食店に関しては様々なデータがあります。おおまかなところをいえば、居酒屋における客1人あたりの注文数や単価は、3品から4品の料理と2杯から3杯のドリンクをオーダーして、金額は3000円から4000円、滞在時間は1時間30分から2時間がボリュームゾーンではないでしょうか。

件の居酒屋における料金

同店におけるメニューの平均価格は、料理が600円くらいで、アルコールは500円前後です。

先の平均注文数に当てはめてみれば、料理は1800円から2400円で、ドリンクが1000円から1500円となり、客単価は2800円から3900円。客単価は滞在時間に単純比例するわけではありませんが、3時間も好きに食べて飲んでいれば、1人あたり5000円を超えても違和感はありません。

客からぼったくりと指摘されていましたが、ぼったくりとは、事前に周知されていない料金を請求されたり、通常の数倍となる料金を計上されたりするケースを指します。たとえば、お通しが2000円であったり、名目不明のメニューが加算されたり、サービス料が30%であったり、週末料金と年末料金が重複して計上されたりすることです。

したがって、“高すぎる”や“ぼったくり”と糾弾するには、根拠が弱いように思います。

金額に納得がいかない場合

普通であれば、客は金額に納得いかなければ、飲食店に明細書を出してもらいます。それでも納得がいかないようなら、どのメニューやサービスがおかしいかを指摘して、飲食店に回答を求めるもの。

今事案では、客が明細書を要求しましたが、納得していませんでした。料理は何をどれくらいオーダーしたのか齟齬が生じにくいものです。ただ、お酒は、人によって飲む分量が全く異なるだけに、何をどれくらい飲んだのか認識を合わせづらい面があります。

店主はシラフであり、客はアルコールが入っていますが、客から絶対にオーダーしていない、飲んでいないと強弁されたら、店主が証明するのは難しいところ。監視カメラを設置していたり、第三者である他の客が証言してくれたりしなければ、客観的な証拠がありません。

件の居酒屋には監視カメラが設置されているわけではなく、当日は貸し切りなので他の客もおらず、ほぼワンオペで他の従業員すらいないような状況。しっかりと伝票に記入していたとしても、貸し切り客11名から詰め寄られたならば、従わざるを得なかったのかもしれません。

カスタマーハラスメントが問題

厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルによると、カスハラは以下の定義となっています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
カスタマーハラスメント対策企業マニュアル/厚生労働省

これまでの考察をもとにすれば、今事案における客からの言動や要求は、社会通念上、不相当といってよいでしょう。

2024年2月20日に開催された東京都都議会の定例会で、小池百合子知事が、カスタマーハラスメントを防ぐために条例の制定を検討していると述べるなど、カスタマーハラスメントは課題とされています。

中小企業が多い

経済産業省「平成28年経済センサス活動調査」によれば、外食産業において、総事業所数のうち62%が個人経営であり、資本金の額では1000万円未満が76%を占めるなど、中小企業の事業者が多いです。

同じく経済産業省が発表した「商工業実態基本調査」の古いデータによると、飲食業界の営業利益率は平均8.6%となっており、目標値は10%から15%。ただ、大企業ほど安定化・最適化できない中小企業の事業者が多くを占める飲食店では、ほとんど利益が出せていない店も少なくありません。中小企業の多くでは、営業利益率は5%程度となるのではないでしょうか。

飲食店では、経営的にも厳しい状況に置かれている中小企業が多いだけに、カスタマーハラスメントは憂慮すべき問題です。

カスハラへの対策

3時間も好き放題食べ飲みしたのに約5000円が高すぎると主張してしまうのは、日本の飲食店が安すぎるという背景もあるかと思います。加えて、飲食業界が低く見られていることも否めません。そうであるからこそ、客観的な証拠もなく、不当に高額だといいがかりを付けたのではないでしょうか。

カスハラに対処することは容易ではありません。今事案のように警察が立ち会っても、飲食店にとって不利な結果となったことを鑑みればよくわかります。

今回はSNSが拡散されたことで、メディアに取り上げられ、公となりました。不当な行為を受けたなら、飲食店はSNSや公式サイトで発信するなど声を上げていくことを勧めます。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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