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東京から69分の越後湯沢 着工100年を迎える上越線清水トンネル周辺では雪の壁が楽しめる

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
清水トンネル・新清水トンネルを背景に撮影された上越北線直轄工事殉職碑(筆者撮影)

 大正11年(1922年)5月に着工された上越線清水トンネル直轄工事。今年は着工から100年を迎えます。トンネルの新潟県側の入り口となる土樽駅周辺では、まだまだ例年以上の積雪があり、雪の壁の映える記念撮影を楽しめるかもです。

 川端康成の小説「雪国」の「国境の長いトンネルを抜けると」そこは当にカバー写真の景色の通りの世界です。

大正ロマンの2大工事

 新潟県の今年は大工事100周年が2つもあるのです。ひとつは信濃川下流域の大河津分水路通水100年、もうひとつが上越線清水トンネル着工100年です。

 すごいですね。新しい時代の萌芽を示すのが大正ロマンでしたが、その芽が衰えることなく(本当は大改修してたりするのですが)ちゃんと令和の世に社会が移っても、ともに貢献しているのですから。この2大土木技術については、新潟にお越しいただいてぜひ皆さんの目で直接見てほしいと思います。

土樽駅前にて

 JR土樽駅前に立ちました。ふたつ前の記事「積雪419cmの世界 観測史上1位の津南町の今はこういう状況」で、「(積雪が)新潟県内山沿いの地域では例年の2倍以上というところもあります」などと読者を散々あおっておいてこういうのもなんですけれども、「土樽駅は雪に埋もれていた(図1)。」

図1 高床式のJR土樽駅舎の高さ半分が雪に埋まっていた(2022年3月20日筆者カメラ撮影)
図1 高床式のJR土樽駅舎の高さ半分が雪に埋まっていた(2022年3月20日筆者カメラ撮影)

 図1では筆者が雪の壁の上に積もった新雪をにぎって雪玉にし、それを空中に放り投げている様子が写っていますが、ここでの積雪は約190 cmというところでしょうか。周辺に広がっている本当の積雪は図1よりもあって、まだまだ雪の壁と呼ぶにふさわしい景色が広がっています。

 今年の積雪の推移はどうだったかということで早速アメダスデータを調べました。土樽駅周辺にはアメダスはないので、アメダス湯沢のデータを見てみました。アメダス湯沢は、JR越後湯沢駅のすぐ近くに設置されています。土樽に比べたら、越後湯沢駅周辺など雪の降り方は赤ちゃんのようなもので(それでも長岡に比べたらすごい積雪の量)図2に示したようなものです。

図2 アメダス湯沢の日々の最深積雪データ(アメダス数値から筆者作成)
図2 アメダス湯沢の日々の最深積雪データ(アメダス数値から筆者作成)

 アメダス湯沢で3月19日の積雪が160 cmでした。土樽駅では3月20日で筆者目測によっておよそ200 cmですから、その差は約40 cm。図2にてアメダス湯沢データの今シーズン最深積雪が2月23日に315 cmでしたから、その日の土樽駅周辺では350 cmくらいはあったかと、あまり根拠なく空想できます。

 さらにビックリするのが30年平均との乖離。1991年から2020年までの毎年の最深積雪の日々データを平均したのが30年平均なのですが、2月23日における30年平均値が151 cmですのでこの日は315÷151=2.09・・で、おっとやはり2倍を超えました。3月19日だと30年平均値が98 cmですので、今シーズンの3月19日の160 cmはまだまだ例年より多いと言えます。

上越北線殉職碑

 大正11年5月に着工された上越線清水トンネル工事では、ウイキペディアによると上越南線高崎口と上越北線長岡口で合わせて死亡者48人とのこと。長岡口の入り口となる土樽駅の近くに上越北線直轄工事殉職碑があります。

 土樽駅から歩いて10分ほどで到着します。曲がりくねりながら少し坂道を下るような感じになりますが、ちょうどいい徒歩運動です。

 でも、見えない。近くまで来たのですが積雪がありすぎて殉職碑が道路からよく見えません。図3に示すように、石碑の頭の上がちょこんと見えているだけでした。

 ということで、GOPROというカメラを動画モードにして長い棒の先端に括り付けて撮影したのが、カバー写真になります。写真ではよく判別できませんが「上越北線直轄工事」と石碑に掘られています。

図3 約200 cmの積雪に阻まれて上端の一部だけが頭を出している上越北線直轄工事殉職碑。矢印の下の赤〇の中(筆者撮影)
図3 約200 cmの積雪に阻まれて上端の一部だけが頭を出している上越北線直轄工事殉職碑。矢印の下の赤〇の中(筆者撮影)

 上越北線直轄工事殉職碑から望むと向こう側の森に新清水トンネルの出口が少し見えます。トンネル近くまで歩いてでも行くことができるので、ここから先に坂を下っていきたくなることでしょう。ですがこの先は結構ヤバいので注意が必要です。

 下ること100 mほど、魚野川にたどり着きます。図4に示すようにとてもきれいな沢の水と出会うことができます。ただし、ここにかかる橋には要注意です。道路わきには柵も何も安全対策が取られていません。もう少し春が進み雪解けが進むとこの魚野川の水量が増し、この橋は川の中に沈下する日もあります。柵がないのは、沈下することを想定しているということ。しかも橋の下にはコンクリートの管が寝かせてありますね。壊れやすい橋脚すらありません。

 これから雪解けが本格化し、例年以上の水量になることが予想されます。上流で雪崩が流れをふさいだり、雪の塊が流れてきたり、何があるかわからないので、沈下していたらこの橋には近づかないように、あるいは沈下していなくても立ち止まらないようにしてください。流されたら、数度しかない水温で命は1時間ももちません。

図4 上越北線直轄工事殉職碑近くにある沈下橋。雪解けシーズンには近づかないのが無難(筆者撮影)
図4 上越北線直轄工事殉職碑近くにある沈下橋。雪解けシーズンには近づかないのが無難(筆者撮影)

雪国、豪雪地域の生活

 殉職碑から魚野川に沿って道路を越後湯沢駅方面に進むと、毛渡沢を通過します。ここから上流を見ると毛渡沢橋梁が見えます。清水トンネルが開通し、上越線が全線にわたって共用開始された時からあるレンガ積みの美しい鉄道橋です。

 3月20日の時点は残念ながら積雪に阻まれて橋梁近くまではいけませんでしたけれども、図5のように関越自動車道の橋の向こう側にうっすらと見ることができました。

図5 毛渡沢と手前が関越自動車道の橋、その向こうにうっすらと毛渡沢橋梁が見える。夏に近づくととても綺麗で映える(筆者撮影)
図5 毛渡沢と手前が関越自動車道の橋、その向こうにうっすらと毛渡沢橋梁が見える。夏に近づくととても綺麗で映える(筆者撮影)

 さらに道を越後湯沢駅方面に向けると土樽集落開発センターが左に見えてきます。ここも積雪のひどい時に訪れる人はそうそういません。

 図6をご覧ください。神様を祀ったほこらかと思いきや、中央に見えるのは消火栓です。豪雪時期に消火栓が雪に埋まっていたら、火事のときに使えないじゃないですか。だから、消火栓の上に三角屋根を付けて、しかもその前をしっかりと雪ほりしています。地元の消防団がほったり、近くの消防署がほったり、地域によって様々ですが、雪国の人の防災行動の基本です。

図6 消火栓。ほこらのようです(筆者撮影)
図6 消火栓。ほこらのようです(筆者撮影)

 そのすぐ隣に図7に示す土樽集落開発センターがあります。このセンターは土砂災害時の地区避難所に指定されていますので、建物の周辺の消雪が完璧にされています。

 写真左奥から沢の水を引いてコンクリート敷の地面の雪を常に融かしています。こうすることによって、災害時でも十分な広場を確保しています。豪雪時には、本当に雪の捨て場がないくらいの地域ですから、そういう時期の災害に備えてこういう広場を確保しているとは、豪雪地域に住む人々の知恵は流石です。

図7 土樽集落開発センター脇の広場。災害に備えて完璧に除雪してある(筆者撮影)
図7 土樽集落開発センター脇の広場。災害に備えて完璧に除雪してある(筆者撮影)

さいごに

 今シーズンの新潟県の山沿いはほんとうに豪雪でした。そういった景色とともに着工100年を迎える清水トンネルは感慨深く見学できそうです。 

 川端康成の「雪国」を手に、この清水トンネルを訪れて、新潟県の歴史と大自然をご堪能くださいませ。

参考

 土樽駅へは、上越新幹線で東京駅から出発し越後湯沢駅に標準69分で到着、そこから上越線水上方面に乗り換えて3駅目です。毛渡沢や土樽集落センターへはクルマの移動が必要です。

 青春18きっぷなら(往)東京駅8:29→土樽駅11:57、(復)土樽駅15:24→東京駅18:55(3月21日)で、一日一回入鋏のみで土樽を十分楽しむことができます。ただし、駅前にはコンビニなど一切ありません。。。

 今回の記事中に出てきた施設等の位置関係を次の地図に示します。

図8 土樽駅周辺の案内図(Yahoo!地図をもとに筆者作成)
図8 土樽駅周辺の案内図(Yahoo!地図をもとに筆者作成)

動画ニュースはこちら(2分21秒)

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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