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積雪419cmの世界 観測史上1位の津南町の今はこういう状況

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
新潟県津南町国道117号線の様子。重機が雪かきをしている(筆者ドラレコ撮影)

昨日の豪雪報道

 昨日2月24日のYahoo!ニュースにて「新潟・津南町で積雪419 cm 観測史上1位を更新」という大変興味深い記事が配信されました。「そりゃあ、津南だからそれくらいは降るだろうに」と思ったところ、でも「観測史上1位」ということになると「心中穏やかではないな」と、たまたまの休暇を使って本日2月25日に津南町に行ってきました。

 雪国の日々の経験がないと、まず「4 mの積雪ってどれくらいの感じだろう?」そして「人が生活できないんじゃないか?」「雪下ろしで疲弊しまくっているはずだ」と空想が頭の中をぐるぐる回るかもしれません。かくいう筆者も流石に長岡にて4 mの積雪は見たことがないので、記事を読んだ時には異次元の世界観を抱いてしまいました。

津南町への道中

 新潟県津南町には、長岡市より南に向かって車で1時間ほど走ると到着します。長野県との境に近くたいへん美しい山々に囲まれた地域です。当然、普通の冬でもその雪深さは豪快で、雪の多さは長岡よりも2周りくらいはあるのではないかという感触です。

 今シーズンは各種報道の通り日本海側の各地で積雪が多く、長岡市内はそれほどでもありませんが、新潟県内山沿いの地域では例年の2倍以上というところもあります。報道を聞いた限りでは今シーズンの津南町は、確かに雪が多いと感じました。

 長岡から津南まで、車の道中をドライブレコーダーで撮影しました。

 それでは、まず長岡市内の様子です。筆者の職場の付近の市道を図1のように撮影しています。昨日までは道路がアイスバーン状態になっていて、氷でつるつるてかてかしていました。今日は気温が上がって路面の氷は全て融けています。何もいじっていない地面の積雪で70 cm程度でしょうか。

図1 2月25日長岡市内の様子。積雪は70 cm程度(筆者ドラレコ撮影)
図1 2月25日長岡市内の様子。積雪は70 cm程度(筆者ドラレコ撮影)

 長岡市内から小千谷市に向かいました。長岡よりも雪が深く積もります。図2では小千谷の中でも雪深い池中新田を走行中です。ここの積雪は2 mをゆうに超えています。路面には積雪はないですが、両端の積雪の様子はふっくら丸い雰囲気を醸し出しています。何かというと、屋根にうずたかく積もった雪がそのように見えています。昨日まで降っていた雪なので、このように少しふっくら感を示しています。その積雪の間を軽自動車が3台走行していますので、積雪の高さがどれくらいか想像できると思います。

図2 小千谷市内の積雪の様子(筆者ドラレコ撮影)
図2 小千谷市内の積雪の様子(筆者ドラレコ撮影)

 小千谷市から国道117号線に入り、十日町市内を通りました。十日町の国道沿いの商店街には流雪溝が設置されています。沿道の皆さんは、時間があるとせっせとお店の前の積雪を流雪溝に流しています。ですので、小千谷よりも積雪の多い地域にもかかわらず、商店街の沿線にはそれほど雪が積もっていません。写真で示すと「なんだ雪が少ないじゃないか」と勘違いしてしまいそうなので、ここでは掲載を省きました。

津南町の様子

国道沿い

 国道117号線の津南町の入り口の様子をカバー写真に掲載しました。国道交差点の行先表示板の向こうに重機が1台見えます。津南町に入った途端、「重機で雪かきか」とそのスケールの大きさにたまげます。これは国道わきの斜面の雪を切り崩している様子です。この斜面はそのままにしていると国道に積雪が雪崩を起こす危険な斜面です。

 本日はだいぶ気温が高くなり、この1週間で急に量を増した積雪があちこちの斜面で崩れ始めている様子が道中で確認できました。写真の斜面の雪の量はたいへん多いので、これが崩れてきたら、走行中の車が生き埋めになるような大事故に発展するかもしれません。

 図3をご覧ください。国道その先の津南町の典型的な様子です。路面は乾燥して普段通りに走ることができます。道路脇にうずたかく雪が積み上げられていますが、多くの住宅の屋根の上には雪が積もっていません。これらが、いま新潟県で建築が進められている克雪住宅です。特に目立つのが屋根から雪を自動で落下させる落雪式です。斜面をきつくして、そして雪が滑りやすい素材をコーティングした瓦を屋根に使っています。だから4 mの観測史上初の雪が降っても、多くの住宅では雪下ろしの作業に追われることがありません。

図3 国道117号線津南町の様子。多くの屋根に雪はない(筆者ドラレコ撮影)
図3 国道117号線津南町の様子。多くの屋根に雪はない(筆者ドラレコ撮影)

津南駅周辺

 国道から離れて、JR飯山線津南駅の周辺に来ました。流石に幹線道路から外れると積雪で道幅が狭くなっています。今日は大雪後の除雪のため、飯山線の津南駅周辺区間は運休となっています。図4に踏切(上)の様子と線路の様子(下)を示します。今日は雪が降っていなかったので、除雪車で除雪をすればすぐに列車が走れるような線路状態ですが、雪が降り続いている最中だと、除雪した後からどんどん雪が深さを増していきます。見ていても途方に暮れる時があります。

図4 飯山線津南駅周辺の踏切の様子。(上)踏切外観、(下)遮断機と線路。線路わきの雪の壁がとても高い(筆者ドラレコ撮影)
図4 飯山線津南駅周辺の踏切の様子。(上)踏切外観、(下)遮断機と線路。線路わきの雪の壁がとても高い(筆者ドラレコ撮影)

津南町役場

 津南町役場に到着しました。早速、役場敷地内の積雪を目で見て感じることのできる所がないか、建設課で聞いてみました。このところの異常な降雪で、建設課の職員の皆さんは大忙しだったそうです。昨日から雪は一段落、やっと一息落ち着いているとのことでした。

 建設課の若手の職員の方に駐車場に設置してある積雪計を案内していただきました。積雪計は当然雪に潜っているわけで、駐車場からは見えづらく、雪の壁を3 m以上登りました。たどり着いた先で撮影した1枚が図5です。320 cmくらいを指しているでしょうか。この積雪を測るために、役場の職員は毎日この雪の壁を登るそうです。登るのも大変でしたが、降りるときに滑落しそうになり、さらに大変でした。役場の危険な作業、お疲れ様です。

図5 津南町役場敷地内にある積雪計。最大値500 cmで、400 cmの4の赤字が大きく見えている(筆者撮影)
図5 津南町役場敷地内にある積雪計。最大値500 cmで、400 cmの4の赤字が大きく見えている(筆者撮影)

アメダスデータだった

「うーん、積雪は3 mちょっとか」と落胆?の色を隠せない筆者。そこで津南町観光協会にて「積雪はどこで測っているのか?」とダイレクトに質問しました。そうしたら、担当者の答えにびっくりしました。「419 cmは米原にあるアメダスで測定したデータだと思います」「米原はずっと山の方にあるから積雪が多いんです」

 そうかということで町役場から車を走らせて20分ほど山を登っていくと、米原に到着しました。図6に米原の集落内の様子を示します。この道の先は行き止まりになっていました。そこに駐車して外に出ると、ちょうどここの住民の方に出会いました。

 斎藤「こんにちは。雪が多いですね」

 住民の方「そうですね。この地区だといつもは2 mくらいかな。それが今年の積雪は見ての通りで、降っている最中は流石につらかったですね」

 住民の方は家の前に積もった雪を小型除雪機を使って、4 m以上はある雪の壁の山の上に飛ばしていました。なるほど、雪の捨て場はないに等しいから、小型除雪機で雪上げとなるわけです。この周辺のお宅では、どこでも庭先に除雪機がおいてありました。

図6 米原地内の様子(筆者ドラレコ撮影)
図6 米原地内の様子(筆者ドラレコ撮影)

 このあたりの住宅でも当然落雪式が多く見受けられます。ところが、あまりにも落雪量が多いので、ほっとくと家が落雪で埋まってしまいます。そこで、地面をコンクリートにしたごく浅い池の登場です。図7をご覧ください。このように平地を常時水が流れるようにしておけば、落ちてきた雪から次々と融かしていくことができます。浅いので落水による溺死を防止することができるし、雪のつまりによる洪水も発生しません。水は井戸からくみ上げる地下水です。1年を通して15度前後の水温があります。

図7 落雪式住宅の軒下に流れている井戸水。屋根から落ちてきた雪を次々と融かす。水深がないので水難事故の心配がない(筆者撮影)
図7 落雪式住宅の軒下に流れている井戸水。屋根から落ちてきた雪を次々と融かす。水深がないので水難事故の心配がない(筆者撮影)

 さっきの方に、アメダスのありかを教えていただきました。答えは、新潟県農業総合研究所高冷地農業技術センターにあるとのこと。早速そこまで雪の壁の迷路の中を車を走らせました。走ること3分ほどで到着でしたが、しばらくは雪の壁に遮られてどこに建物があるのかわからず、津南町観光協会に電話して詳しい場所を聞く羽目に。教えてもらった通りに動いたら、高い高い雪の壁の向こう側に図8のように建物を発見しました。この施設は、津南町の山手にある農家の農業支援を行っています。

 車を降りてしばらく建物周辺を歩いて探しましたが、アメダスらしいものが見当たらず。建物の2階の事務室に向かい、職員の方にアメダスのありかを尋ねました。そうしたら、ちょうど2階からだとそれが見えて、「ほら、あそこですよ」と指をさして位置を教えてもらえました。雪に埋もれているので、地上から探しても見つからなかったわけです。

 図9(左)がアメダス本体です。長い柱の先端にある風向風速計がわかるでしょうか。その下に横向きに延びた棒がついていて、その先にあるセンサーで積雪量を日夜測定しているそうです。「愚痴をこぼさず黙々と、419 cmデータをここから送信してたのか

 ちなみに右の写真に、同じ位置にある雪の壁をバックにして人が歩いています。この比較からも、積雪が相当高いことがわかります。観測機器のそばなので、このあたりの雪はいじられていないはずですから、真の積雪はこの写真の見た通りです。

図8 新潟県農業総合研究所高冷地農業技術センター(筆者撮影)
図8 新潟県農業総合研究所高冷地農業技術センター(筆者撮影)

図9 (左)アメダス観測装置、(右)雪の壁と人の高さを並べた(筆者撮影)
図9 (左)アメダス観測装置、(右)雪の壁と人の高さを並べた(筆者撮影)

津南町っていいところ

「観測史上1位を更新」と聞くと身構えてしまいますが、雪が止んでしまえば4 mの積雪が生活に大きな支障を与えることはありません。家の前の雪かきは冬の運動不足解消にはちょうどいいです。ホイップクリームにも見える積雪で、景色は一面真っ白。とてもきれいです。

 雪が融ければ、さらに大自然を満喫できます。今、津南町は苗場山麓ジオパークで盛り上がっています。ジオパーク内の壮大な自然の風景と縄文時代から生活してきた人々の文化を、ここ津南町で楽しむことができます。

 ぜひ、雪が融けたら新潟県に遊びにきてください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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