望まぬ妊娠に思い悩む10代のヒロイン役に臨んだ山﨑翠佳。自身の高校時代を振り返って
映画「カフネ」は、杵村春希監督が大阪芸術大学在学中に手掛けた自身初の長編作品になる。
企画は、コロナ禍で若年層の望まない妊娠が増加したというニュースに杵村監督が触れたことをきっかけにスタート。
同級生の彼氏、遠山渚との子どもを身ごもった高校三年生の瀬川澪の複雑に揺れ動く心模様と、彼女の周囲にいる人々の心境の変化を真摯な眼差しで描き出す。
望まない妊娠を主題にした映画となると、一昔前であればポジティブな結末は望めないような形で語られることが多かった気がする。
その中で、本作はセンシティブなテーマを必要以上にセンシティブとしないとでもいおうか。若さゆえの単純な過ちの物語にもしなければ、10代の妊娠を変に強調した物語にもしていない。
ヒロインのひとつの覚悟が家族を、周囲を、社会を変えていくかもしれない。誰かが犠牲になることない選択の可能性が実はあるのではないか?そんな未来へのヴィジョンを抱かせる一作となっている。
自らの道を切り拓く逞しさから、予期せぬ妊娠への戸惑いや苦悩といった弱さまでの表現が求められた主人公の澪を演じたのは、これからの飛躍が大いに期待される山﨑翠佳(やまざき・すいか)。
戸惑い、もがき苦しみ、なにかにすがりたい気持ちになりながらも最後は自らの信じた道を歩もうとする彼女を演じることで、なにを感じ、どのように心が動いたのか?
彼女に訊く。全十回/第一回
お話できるようなキラキラした青春エピソードを持っていないんです
演じた澪は、高校三年。その先の進路をどうしようか決めかねているときに、付き合っている渚の子どもを身ごもっていることが判明する。
作品の話に入る前に、山﨑自身は同じころ、どのようなことを考え、どのような高校生活を送っていたのだろうか?
「すでに目指す大学が決まっていて、そのための勉強を高校3年間でする、来たるべき大学受験に向けてしっかりと学んでいくといった感じの学校だったんです。
だから、ほんとうにつまらない回答になってしまって申し訳ないのですが(笑)、お話できるようなキラキラした青春エピソードを持っていないんです。
部活とは別でダンスを習っていたぐらいで基本的には学校に行って勉強をしていました。
ひとりの生徒としては、どうだっただろう?
何かわからないことがあると、流して次みたいなことができない。問題を解決してからでないと次に進むことのできない性格で、わからないことがあるとすぐに先生を捕まえて、わかるまで質問をしていました。
だから、しつこい生徒と思われていたかもしれません(笑)」
わたしの高校時代をひと言で表すなら『勉強』。
青春っぽいことは残念ながらあまりなかったです(笑)
ただ、その高校時代に、俳優の道に進もうと思ったきっかけがあったという。
「17歳のときに学校の授業の一環で人権映画会というものがあり、そのとき、東野圭吾さん原作の映画『手紙』を見て、ものすごく感動したんです。
先生が映画好きで、高校生のわたしたちの感性に触れるような作品をチョイスしてくださったのですが、ストレートにわたしの心に響いて、これでもかというくらい涙があふれ出てきました。
映画ってこんなに人の心を感動させられるんだと思いました。演技のすばらしさにも心を動かされて、それで単純と言えば単純なのですが、自分も演技にチャレンジしてみたいと思ったんです。
それで、すぐに探して、地元で演技レッスンに通うようになりました。
みんなの前で『お芝居をやってみたい』と堂々と宣言できるようなタイプではなかったので、周囲には打ち明けられませんでした。
ただ、このとき、すでに自分の中では俳優の道に進んでみたいとどこか心が決まったところがありました。
演技を学んでいく中で、作品を通して役と共に世界を体験することは、普段触れないことに対して思いを馳せるきっかけになる。そして、思考した分、想像した分、世界や相手に対しての優しさにつながると思いました。演技の力は計り知れないと思い、改めて俳優の道に進もうと決意しました。
そこからは俳優を目指すならば、やはり上京したい。ならば進学するなら東京の大学がいい。
それで勉強を頑張りました(笑)。
ですので、わたしの高校時代をひと言で表すなら『勉強』。青春っぽいことは残念ながらあまりなかったです(笑)」
(※第二回に続く)
「カフネ」
監督:杵村春希
出演:山崎翠佳、太志、松本いさな、木下隼輔、澤真希、渡辺綾子、
桜一花、入江崇史
公式サイト https://cafuneofficial.studio.site/
ポレポレ東中野にて公開中、以後全国順次公開予定
筆者撮影以外の写真はすべて(C)ハルキフィルム