望まぬ妊娠に思い悩む10代のヒロイン役に臨んだ山﨑翠佳。人生の選択を他人に委ねない彼女に刺激を受けて

水上賢治

映画ライター

10/20(日) 11:01

　映画「カフネ」は、杵村春希監督が大阪芸術大学在学中に手掛けた自身初の長編作品になる。

　企画は、コロナ禍で若年層の望まない妊娠が増加したというニュースに杵村監督が触れたことをきっかけにスタート。

　同級生の彼氏、遠山渚との子どもを身ごもった高校三年生の瀬川澪の複雑に揺れ動く心模様と、彼女の周囲にいる人々の心境の変化を真摯な眼差しで描き出す。

　望まない妊娠を主題にした映画となると、一昔前であればポジティブな結末は望めないような形で語られることが多かった気がする。

　その中で、本作はセンシティブなテーマを必要以上にセンシティブとしないとでもいおうか。若さゆえの単純な過ちの物語にもしなければ、10代の妊娠を変に強調した物語にもしていない。

　ヒロインのひとつの覚悟が家族を、周囲を、社会を変えていくかもしれない。誰かが犠牲になることない選択の可能性が実はあるのではないか？そんな未来へのヴィジョンを抱かせる一作となっている。

　自らの道を切り拓く逞しさから、予期せぬ妊娠への戸惑いや苦悩といった弱さまでの表現が求められた主人公の澪を演じたのは、これからの飛躍が大いに期待される山﨑翠佳（やまざき・すいか）。

　戸惑い、もがき苦しみ、なにかにすがりたい気持ちになりながらも最後は自らの信じた道を歩もうとする彼女を演じることで、なにを感じ、どのように心が動いたのか？

　彼女に訊く。全十回／第二回

脚本内で澪が話している言葉を、自分も言葉にして『言ってみたい』と思った

　前回（第一回はこちら）は、作品の話に入る前に自身の高校時代を振り返ってもらった。

　では、ここからは作品についての話を。

　はじめに脚本にはどんな印象を抱いただろうか？

「はじめて脚本を目にしたのはオーディションに応募したときでした。

　決定稿ではなくて、その時点でできていたところまでの脚本でした。

　でも、読んですぐに引き込まれて、脚本内で澪が話している言葉を、自分も言葉にして『言ってみたい』と思ったんです。

　澪のセリフを黙って頭の中で考えるだけではなくて、どうしても言葉として発してみたい。そう気持ちが動いたんです。

　脚本のセリフなのに、自分の言葉のように思えたというか。なんか自分に馴染むような感覚があって、すぐにでも口にしたくなってしまいました。

　また、この時点で、澪という女の子の持つ強さと逞しさ、優しさと凛々しさ、戸惑いや苦悩を感じ取っていたところがあって、彼女を演じたいと思ったんです。

　それがわたしにとっての『カフネ』の脚本へのファーストインプレッションでした」

人生の選択を他人には委ねない澪に感動して刺激を受けた

　また、そのオーディション時点で、こんなことも感じていた。

「望まぬ妊娠をしてしまう澪ですが、悩み、周りに助けられながらも、最後は自分で選択していく。人生の選択を他人には委ねない。そこにすごく感動して、刺激を受けました。

　というのも当時、わたしはいろいろな迷いがあったというか。自分という人間がなにかすべてが中途半端でどっちつかずのような状態にいました。

　自分がほんとうはこう思っているのに、それを言えないみたいな……。自分のことを自分で選択できないでいるところがありました。

　でも、澪の自分で自分のことを選択していく姿勢に刺激を受け、わたしもこのままじゃいけないと思い立ち、きちんと自分らしくあろうと考えるようになりました。

　その気持をもってオーディションに臨みました。オーディションでは、自己紹介の時間をとても長くとってくださいました。

　恥ずかしいんですけど、わたしは自己紹介のひと言目で『わたしは究極の人間になりたいです』って言ったんです。

　たぶん、杵村監督も『？？？』だったと思います（笑）。

　でも、お構いなしでどういうことか説明しました。『究極の人間とは、まず自分の気持ちにしっかりと向き合える。それから、悲しいこと、目を背けたいことからも逃げない。自分の心の声も大切にしながらも、他者の声や考えにもしっかりと耳を傾ける。日本で起きていること、世界で起きていること、いまの時代に起きていること、過去に起きたことに思いを馳せられる。いろいろなことに想像力と誠意をもって向き合える。そのような人でありたいし、なりたい』といったことを二年前の春にあったオーディションで言いました。

　いま振り返るとちょっと恥ずかしいですね。青かったな、尖っていたなと思います。

　でも、杵村監督は真正面からわたしの言葉を受けとめてくれて。『澪は自分のほんとうの気持ちを探している子だから、リンクするかもしれない』とおっしゃってくれたんです。

　このとき、澪と根底でつながることができたのではないかと思って、すごくうれしい気持ちになったことをよく覚えています。

　まだオーディションの段階だったんですけどね（笑）」

（※第三回に続く）

【「カフネ」山﨑翠佳インタビュー第一回】