映画に魅せられ、映画に生かされてきた…日米の現場を経験してきた映画監督がその思い語る
日本の首都「東京」の街を舞台に、恋人・親子・親友と3つの愛をテーマにしたオムニバスストーリー『TOKYO,I LOVE YOU』が劇場公開中だ。主演は、ドラマ「君の花になる」「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」などで注目を集める山下幸輝。東京タワー、新宿界隈、お台場を舞台にした3つのオムニバスが、時に交差して描く人間賛歌だ。
本作のメガホンをとったのは、アメリカにて映画製作を学び、アメリカ人のキャスト・スタッフで製作した自身初監督短編作品『リリィ』が、世界中の映画祭で幅広く上映され、数々の賞を受賞した中島央。そこで今回は、中島監督に『TOKYO,I LOVE YOU』を手掛けた思い、そして映画に対する思いなどを聞いた。
■日本にこだわりがあるからこそ導かれた作品
――中島監督は海外経験も長いですが、今回の題材が“東京”ということで。日本へのこだわりを感じさせます。
中島央監督(以下、中島):こだわりはめちゃくちゃありますね。日本でも他にいろんな映画の企画があったんですけど、今、その中で『TOKYO,I LOVE YOU』を作ることができて本当に心から満足しています。自分が、この映画を作っているんですけど、撮影や編集を通し、今作品を作っていくうちに、この映画自体が僕を今作品を作るように導いてくれたというか。そういう、ある意味、“何か自身の意図を越えた大きな力により作らされてしまった”というような感覚もあります。
――今でもほかに温めている企画がいろいろあると聞いておりますが。
中島:映画の企画はいつもあります。現在も、また新たな作品に向かって準備を進めている段階です。また後のお楽しみにとっておきたいので、詳細は今はここでは伏せておきますが(笑)。ただ今作品『TOKYO,I LOVE YOU』でしっかりと築いた映像スタイルを推し進めながら、よりスケールの大きな、日本のお客様はもちろんですが、全世界の観客を想定した、究極のエンタメ作品になると思います。次回作は今作よりさらに、多くの最新の特殊映像効果を使った映像的に大きな冒険作となる、野心的な作品にはなると思います。
また僕は映画の他にCMも撮ってるんですけど、まずはCMの場合ですと、売らなくてはいけない商品についてクライアントから徹底的にヒヤリングして、それを基に映像的に最大限に面白く伝えるために自分で脚本を書いていきます。そういうゼロから物語を作るってことが、ものすごく好きなんです。だから自分が今まで監督した映画全作においても脚本を執筆している通り、オリジナル脚本でやることには誰よりも強いこだわりがあるかもしれないですね。
■全ショットの映像の構成にはこだわりが
――映画を観て、東京の夜景や、朝焼けの風景など、映像がとてもきれいで、こだわりを感じたのですが。
中島:映像にはものすごくこだわっています。ライトもそうだし、カメラワークは特に。本当に映画をご覧になる皆様に本編全編に渡るワークに注目して頂きたいくらい、心の底から、全ショットの構成には本当にメチャクチャこだわっていますね。映画とは、究極に言うと、映像で語らなくてはいけない物語だと思っているので、いつもありとあらゆる映像テクニック、ワークを駆使して、創意工夫に富んだ映像表現を構築した上で一つの物語を伝える事に専心しています。また、僕のスタッフは、僕が日本に帰ってきてからずっと一緒にやってる人たちで気心が知れてるので、現場でもとてもやりやすいですね。まあ、僕の撮り方も相当変わってるんで、「これを他の現場でやったら怒られますよ」とか言われるんですけどね(笑)。
――中島監督は、アメリカで脚本家をやられていました。ストーリーテリングのやり方はどうされているんですか?
中島:ハリウッドスタイルのストーリーテリングはめちゃくちゃ勉強しているんで、三幕構成は常に他の作品を見ていても、そのセオリーがしっかり守られているだろうか、としっかりチェックします。僕は自作においてはシノプシスを書く時点で、これはちゃんと三幕構成に収まっているだろうかとしっかりと細部を確認して。昔はもっと気が赴くままに、我流で書いていたんですが、やっぱり我流だと壁にぶち当たってしまうんですよね。だから1回、徹底的に基礎を学ぼうと思って。それこそプロになってからですけど、一から基礎を学び直しました。今では誰よりも脚本構成に関してのテクニックは熟知している自信はありますね(笑)。
現代で言うと、クエンティン・タランティーノとか、ガイ・リッチーのような。ああいうストーリーテリングを日本の映画で表現したいなというのはありますね。ただ日本でああいう悪いギャング達が人をだまし合うような話をやっても、そんな奴らはいないだろうと言われちゃうので。ただ、彼らの映画のような、違う主人公が各章ごとに出てきて、何章もの小話で成り立っていく映画や、自由に過去と現在を行ったりきたりする物語構造を日本の映画に持ち込んで面白く見せたいな、というのは今回のひとつの目標ではありました。
それと例えばアメリカとかでピッチ(企画)会議に出ると、映画の内容を1行で言ってほしいと言われるんですよ。あらすじが複雑になってくると、だんだんとよく分からない話になってきますよね。だからあらすじを1行で説明できなくなってきたらそれは複雑になっているサイン。映画の物語って、表現は本当に単純でいいと思うんです。それこそ1行でしっかり収まるようなあらすじでなくてはいけない、というか。そこに映像や編集、音楽、演技なんかも組み合わせて総合的に盛り上げられるので。やはり、総合芸術という側面があるので、小説みたいにいろいろと詰め込められないんですよね。だから、今作においては話を単純に見せる分、映像スキルや物語の独特な構造とかで映画の深さを見せるよう心がけました。
■アメリカと日本の撮影の違い
――アメリカでの撮影と日本の撮影との違いはどんなところに?
中島:やはりアメリカは組合がしっかりしてるんで。撮影予定が一分でもオーバーしちゃうと大変なんです。向こうで撮影中に時間オーバーになると、現場のプロデューサーが横に来て、耳元でこう囁くんですよね。「お前、ここから、スタッフみんなの給料がダブルになるけど大丈夫だろうな?」と。まあ、究極にプレッシャーをかけられましたよね(笑)。あとは、撮影がオーバーして、朝の4時ぐらいまで撮影があったとして。監督としては、次の日にすぐに数時間後とかに撮影したくても、スタッフは絶対に12時間しっかり休んでもらわなきゃいけない。そこはしっかりと厳しくてちゃんとしたルールがあって。そこはすごいなと思いましたね。
――日本の撮影の良さはどうですか?
中島:団結力がありますよね。日本人って、良かれあしかれ、集団になったときにパワーが出る民族だと思うんですよ。映画作りって集団でやるものなんで、その集団性はすごくいい意味で強いなって思うんです。特に自分の現場においては、とにかくスタッフ全員には、フランクな姿勢で、それこそ現場を心から楽しんでほしいというノリを作っているので、もちろん一生懸命、プロとして100%集中してやっていますが、あまり神経質にならないというか、常にみんなで撮影そのものを自体を楽しむようにしており、冗談を言い合ったりして、笑いが絶えない現場にするようにしていますね。
――中島監督はプロデューサーもやられているわけですし。楽しくやるというのはアメリカ仕込みの環境作りというのはありますか?
中島:それは本当にありますね。僕の場合、自分のやっている事に関しては、もちろん常に集中して、シリアスに捉えていますが、自分自身がどう思われているかに関しては、そこまでシリアスに捉えてないというか。とにかく、まずはやっている事が楽しくないといけないと思っているタイプですね。楽しくないと、良いパフォーマンスも発揮できないし。現場の俳優のみんなにも、やっぱり常に楽しく、何も気にする事なく伸び伸び演技をしてほしいというのはありますから。究極に言うと、俳優たちがみんな楽しく演技をしてくれたら、あとは僕たちが撮ればいいだけなんで。そうすることで、良い作品が必然的に生まれてくるので。なので、そういう良い撮影環境を作ろうとは常に意識的に思っていますよね。
――中島監督は『Lily』『シークレット・チルドレン』とアメリカで活躍された後に、CMなどのキャリアを進めてきました。
中島:結構、日本とアメリカを行ったり来たりしていましたね。最初に戻ってきたのは最初の1本目の映画『Lily』をアメリカから日本に持ってきた時でしたね。あれは最初、日本で配給とかはまったくついてなかったので。日本にいる友達にもその映画は実在してんのか? とか言われて、非常に悔しい思いをして。そこから、とにかく必死にこの映画を日本に届けなくてはいけないと思い、配給を探し始めましたね。そして、その後にFOXとご一緒させていただきました映画(『シークレット・チルドレン』)、そして、諸々、CMやPVなど他のことをやったりして。その中で自分が進めていた映画の企画が、直前になって実現しなかったこともあった。そうして映画一本でひたすら邁進してきた自分が初めて大きく挫折し、道に迷い、希望を失い、その後、散々フィルムメーカーとしての自分のあり方を探しをしながら、今に至るという感じですね。
■なぜ映画に魅せられたのか?
その深く落ち込んだ時期に思ったのが、夢が叶ったからって偉いわけじゃないなということだったんです。昔はもっと、成功か成功してないか、勝ちか負けかという二元論で人生を見ていました。でも、そんなのハリウッド映画の中で存在してる価値観であって、リアルな人生はもっと複雑で複合的というか。生きれば生きるほど、人生というのはそんなシンプルに割り切れるものじゃなく、もっともっと白黒はっきりしないものであるというのが理解できてきました。
それと、ちょうど今作の脚本を書いてるときぐらいに、初めての子供が生まれて。そうなると、今までは「俺は映画監督だ、これが俺の人生だ!」っていう事を常に意識している、自分中心だった思考が自然にどんどん変わってきたんですよね。今では自分の存在よりも、もっと大事な人、自分の子供に自分は一体何ができるのかな、何が残せるのかなっていう思考に自然に変わってきた。そういうことをこの映画で描いていますね。
――ここまで映画一筋でこられたと思うのですが、そこまで映画に魅せられた理由はなぜなのでしょうか?
中島:わたしの父は普通のサラリーマンだったんですけど、めちゃくちゃ映画が大好きで。家に映画のビデオがたくさんあって、世界中の名画が見られるような環境だったでんすよ。まるで映画の博物館みたいだったというか(笑)。それこそ中学生ぐらいの時から、家にあった黒澤、ゴダール、小津、トリュフォー、ルネ・クレマン、アンジェイ・ワイダ、ピエトロ・ジェルミ、セルジオ・レオーネ、ルイ・マル、アントニオーニ、ベルトルッチの映画とかを普通に見たりしていましたから。そういう環境で育ったというのもありますし、やっぱり家族って自分にとっての愛の基本みたいところがあるじゃないすか。僕にとっては映画自体が人生だし、映画自体が僕と家族との絆を繋ぐそのものであるんですよね。
自分自身、かなりダークな時期や人生の苦しみを知り、深く落ち込んでしまう時期もありましたが、それでも映画だけは最後まで諦められなかったんですよ。それはやはり自分が子供の頃から純粋に愛してきたものでしたし、それを父に教えてもらったというのもあるので。父と映画について何時間も語り合ったりとか、それが生きていく上でのすべての軸なので。それがなくなってしまったら、多分、自分という人間が存在しないんじゃないかなっていうところは感じてますよね。だから、今やってる事は幼少期から自分がめちゃくちゃ感動してきたものに対する純粋なる恩返しという気持ちはありますね。
――それこそ映画そのものが人生だったと。
中島:そうですね。日本人って宗教に対する感覚は薄いと思うんですが、あえて僕に唯一宗教があるとしたら映画ですね。映画だけは10代の時から変わらない気持ちで、疑念を一切抱く事なく、何があっても絶対的に心の底から信じている。やっぱりいろんなことがあって、傷を負うこともありましたし、なんでこんなに映画を愛してるのに、こんなに報われないんだと思う時もありました。だけど結局、僕は映画に生かされてきたという感じはありますね。だからこそ、今ここにいられて本当に嬉しいです。
<プロフィール>
中島央(なかじまひろし)
東京都生まれ。2003年、サンフランシスコ州立大学映画学科卒業後、脚本家としてキャリアをスタート。2007年、ハリウッドで撮影され、アメリカ人のキャスト・スタッフで製作した、自身の初監督短編作品『リリィ』を発表する。同作は世界中の映画祭で幅広く上映され、高い評価を受ける。2010年、監督デビュー作『リリィ』をもとに、同名の初長編劇場映画『Lily』をハリウッドで発表。翌年には日本でも公開された。そして2014年には、近未来の世界で迫害されるクローン人間たちの生きざまを描くSFヒューマンドラマ大作『シークレット・チルドレン』を発表。同作は、FOX・NTTぷらら・アイキャスト3社による「アメリカ映画共同製作プロジェクト」として注目を集めた。その後はCMなどで活躍し、2023年には長編3作目となる最新作『TOKYO,I LOVE YOU』を発表する。
『TOKYO,I LOVE YOU』
監督・脚本:中島央
主演:山下幸輝、小山璃奈、草野航大、松村龍之介、羽谷勝太ほか
配給:ナカチカピクチャーズ
公開:2023年11月10日(金)より全国公開
(C)TOKYO,I LOVE YOU FILM PARTNERS