ゲイリー・ムーア70歳誕生日記念:最新&最深情報2022
2022年4月4日は、ゲイリー・ムーアの70歳の誕生日となる。
2011年2月6日、58歳で亡くなったゲイリーだが、その音楽とギターは音楽リスナーの心を揺さぶり続けてきた。「パリの散歩道」「スティル・ゴット・ザ・ブルース」など は時代を超えて聴き継がれる名曲だし、2021年には未発表音源を集めたアルバム『ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット』が発表されて大きな話題を呼んだ。
1969年に初レコーディング、40年を超えるキャリアで他アーティストの作品へのゲスト参加やセッション・ワークの多いゲイリーゆえ、その全貌を把握することは熱心なファンですらも困難を極めるが、世界には数多くのゲイリー・コレクターがおり、彼がプレイした作品を血眼になって探している。
2019年にはミュージカル『キャッツ』の挿入歌「メモリーズ」のシングルのみのヴァージョン(1981)への参加が明らかになって一部のマニアを騒然とさせたが、最新の研究結果を報告しよう。
●映画『Turnaround』
最近、ノルウェー/アメリカ/イギリス合作映画『Turnaround』(1987)のサウンドトラック収録曲でゲイリーがギターを弾いたことが判明した。
忘年会をバイカー集団にぶち壊しにされた主人公がマジシャンの祖父と組んで新年会で復讐するというスリラー(?)映画で、パーティー・シーンで流れるアニタ・ヘゲルランドの「Anybody Want To Party?」でゲイリーのリード・プレイを聴くことが出来る。一聴するだけで彼だと判るフレーズにオッ!と身を乗り出すが、曲そのものはいかにもな1980年代ダンス・ポップで、決して面白いものではない。プロデューサーとしてクレジットされているのがアンディ・リチャーズで、彼はゲイリーの『ラン・フォー・カヴァー』(1985)にキーボードで参加しているため、同時期にレコーディングされたのでは?と推測される。ちなみにこの音源はロンドンのバッテリー・スタジオで録音されたとクレジットされている。
(アニタ自身もInstagramで1985年と書き込んでいる)
アニタはノルウェー出身の元少女歌手で、大人になってからもソロ・シンガーとして活動。映画が製作された頃はウルトラヴォックスのミッジ・ユーアと交際中で、その後にマイク・オールドフィールドと付き合うようになり、1980年代の彼の作品にしばしば参加するなど、イギリスの音楽シーンにも顔を出している。その後、彼女が2011年に発表したアルバム『Starfish』のプロデュースはTNTのギタリスト、ロニー・ル・テクロが手がけたそうだ。
「Anybody Want To Party?」は未レコード/CD化で、映画もヨーロッパでビデオ化されたものの未DVD化。動画配信サイトで全編を見ることが出来るが、おそらく誰かが著作権を無視して勝手にアップロードしたものなので、リンクは貼らないでおく。
ちなみにこの映画の監督オラ・ソルムは『スター・ウォーズ帝国の逆襲』(1980)のノルウェー・ロケで助監督を務めた人物らしい。
本作へのゲイリー参加は特にシークレットではなく、エンド・タイトルで“ギタリスト:ゲイリー・ムーア”とばっちりクレジットされているのだが、最近までファンのアンテナに引っかかってこなかった。
余談ながら本作のオープニングに流れるポール・キャラックによる主題歌「Turnaround」も未レコード/CD化。作曲はミッジ・ユーアで、おそらくギターも弾いている(1979年のシン・リジィ初来日公演で、ゲイリーが直前に脱退したため、代打でミッジが参加したという縁がある)。
●バーニー・マースデン『Where’s My Guitar?: An Inside Story of British Rock and Roll』
元ジェスロ・タルのギタリスト、マーティン・バーは2020年に行われたインタビューでゲイリーが1969年、スキッド・ロウ時代のライヴで1曲「ギターを弾きながら足でバスドラムを叩いて、同時にヴォーカルも取っていた」と語っていた。それが何の曲だったかは「覚えていない」とのことだったが、2019年に刊行された元ホワイトスネイクのギタリスト、バーニー・マースデンの自伝『Where’s My Guitar?: An Inside Story of British Rock and Roll』にはこんな記述がある(大意)。
「1970年10月23日、ハムステッドのハヴァーストック・ヒル・カントリー・クラブで自分の当時のバンド、スキニー・キャットがスキッド・ロウの前座を務めた。ゲイリーはP-90ピックアップを載せた赤いギブソン・レスポールを弾いていて、ギター+バスドラム+ハイハットのワンマン・バンド形式で『ランブリン・オン・マイ・マインド』をプレイした」
ロバート・ジョンソン作のブルース曲で、ゲイリーが多大な影響を受けたジョン・メイオール『ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』(1966)でクラプトンがギターとヴォーカルを取ったナンバーであり、おそらく1969年に演奏されたのも同曲ではなかろうか。
なお本書はバーニー自身の朗読によるオーディオブック版もアマゾンAudibleで販売されている。約8時間、彼の人柄が伝わってくる語り口で、発音もヒアリングしやすい。ボーナス音源としてバーニーが1978年にB.B.キングにインタビューした際の音源を収録しているのも貴重だ。
●Dr.ストレンジリー・ストレンジ『Radio Sessions』
1969年、イギリス進出前のゲイリーがダブリンのフォーク・バンド、Dr.ストレンジリー・ストレンジと同居生活をしていたことはよく知られている。彼らのアルバム『ヘヴィ・ペッティング』(1970)にはゲイリーが友情ゲスト参加しているが、同作の「サイン・オン・マイ・マインド」のリハーサル・テイクが発掘。2022年10月に発売予定の『Radio Sessions』に収録されることになった。ゲイリー節のリード・ギターがかなりフィーチュアされている曲なので、アルバム・テイクとどのように異なるか、どれぐらいギターを聴けるかなど、期待が高まる。
●関連図書
ゲイリーのバイオグラフィ本といえば、2017年に発表されたライヴ・アルバム『Blues And Beyond』の限定ボックスにハリー・シャピーロ著の『I Can't Wait Until Tomorrow』が収録されていたが、図版がまったくなかったり、索引もないことに対する批判もあった。2022年5月には同書のドイツ語版が刊行される予定で、その後には英語版が再版されるという噂があり、どのように改訂されているか楽しみである。
また、2022年6月にはマーティン・パワー著の評伝『White Knuckles: The Life Of Gary Moore』の刊行が予定されている。まだ内容は不明ながら、こちらにも期待したい。
ところでセックス・ピストルズのギタリストとして知られるスティーヴ・ジョーンズの自伝『ロンリー・ボーイ/ア・セックス・ピストル・ストーリー』が刊行されたが、ゲイリーについては言及されていない。彼らは1978〜9年にザ・グリーディ・バスターズ名義(時によってはザ・グリーディーズ名義)でライヴ共演を行い、スティーヴがゲイリーに1955年製ギブソン・レスポールJrを売ったという繋がりがあったので期待したのだが、残念。なおスティーヴはシン・リジィのフィル・ライノットについて約半ページにわたって記述、ジョニー・サンダースのアルバム『ソー・アローン』で共演したことに触れている。「彼のことは好きだったし親しかったけど、2人ともヘロインにはまっていたせいで最後には関係が悪化した。彼がヘロイン代として俺から巻き上げたグレッチのホワイト・ファルコンは今ではアイルランドの博物館に展示されている」とのことだ。
ゲイリーの場合、その参加作品の幅の広さ、またファン同士のネットワークがあまり強固でないこともあってか、リリースされて何年も経ってからようやく知られるようになることも珍しくない。これからはさらに情報を共有しあうことで、ゲイリーの音楽を盛り上げていきたい。
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