世田谷区長が大誤爆:自治体のギャンブル依存への責任
時事通信が「依存症対策「自治体に責任」=通常国会に法案提出へ-政府」というタイトルで以下のようなニュースの配信をしております。
依存症対策「自治体に責任」=通常国会に法案提出へ-政府
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017010800068&g=soc
政府は20日召集の通常国会に、ギャンブル依存症対策法案を提出する方向で調整に入った。公営競技を運営する地方自治体に、規制強化に向けた基本計画の策定を義務付けることを検討する。政府関係者が8日、明らかにした。カジノを解禁する統合型リゾート(IR)推進法の制定過程で求められた依存症対策の具体化を急ぐことで、国民の不安を和らげ、理解を促す狙いだ。
政府は同法案について、カジノだけでなく、パチンコや競馬など既存のギャンブルを含む包括的な依存症対策に関する基本法とすることを想定。法案には「地方自治体と事業主体が相応の責任を負う」と明記する方向だ。運営主体となる自治体や民間事業者に、具体的な規制強化策を盛り込んだ計画策定を義務付けることで、対策の実効性を高めたい考えだ。[…]
ところが、この報道が配信された直後から、web上では「国が自分の責任を定めぬままに、ギャンブル依存症の責任を自治体と民間に丸投げしている」などとする批判が噴出。例えば、東京都世田谷区の保坂展人区長の以下の発言などは、まさにその象徴といえます。
でもね、保坂さん。その批判は全くの的外れなんですよ。保坂区長はどうやら、このニュースを「地域住民の保健衛生を直に所管する立場にある自治体の責任を、国が法律で明示する」と読んで、国会と国の責任を明確にせよとして批判を行っているようですが、それ自体がこの報道の全くの読み違いです。
本記事が報じている法案の内容は、賭博事業およびそれに類する事業の「運営主体」に対して依存対策に関する相応の責任を求めるもの。ここでいう運営主体というのは、民間でいえば、当然、パチンコ企業を含む賭博等サービスを提供する事業者であり、それと並列に表記されている「自治体」というのは、各種公営競技および富くじの「施行者」としてサービスの提供を行っている自治体の立場であります。
保坂区長の頭の中からは非常に基本的なことが完全にすっ飛んでしまっているようですが、国の機関が直接実施を行っているJRAおよびtotoくじを除き、我が国で提供されている公営競技および富くじというのはすべて自治体が主催者となっているもの。この法案は、それら公営競技および富くじの主催者となっている自治体に対して「賭博等サービスの提供者」の立場として「相応の責任」を求めている、すなわち公営競技や富くじの提供者として各自治体が責任を持って依存対策を施せと要求しているものであります。
その観点から言えば実は保坂氏が区長をつとめる世田谷区は、東京都の特別区競馬組合の一員として東京都競馬(大井競馬)を主催し、昨年度実績で年間1,111億7,281万2,080円もの金額を国民にギャンブルさせ、そこから収益を得ている存在。その競馬競技の主催者である世田谷区の長が、本報道に対して「国会と国の責任を明確にせよ」などと主張している状況は、パチンコ企業が自らの責任を棚に上げて国に向かってパチンコ依存対策の責任を求めているのと同じ状況であって、こんなメッセージをもしパチンコ企業が公に発せば間違いなく大炎上やむなしの案件であるといえるでしょう。
逆に言うのならば上記の保坂区長の発言は、世の自治体の「自らが『賭博サービスの提供者』として国民にギャンブルをさせることで収益を上げている存在である」という認識が、如何に希薄であるかということを現す象徴的事例であるともいえます。昨年末のエントリにおいて、公営競技業界がこれまで依存という存在を「世の中に存在しないもの」として、如何にその対策を怠ってきたかということを書きましたが、正直、かの業界は一から十までこの調子ですから、こういう事が起こってしまってきたのは無理もありません。保坂区長には、東京都競馬の主催者の「長」として、今後は責任のある立ち振る舞いを求めたいものです。
【参考】依存症対策:公営競技業界がクズっぷりを発揮
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9449015.html