「アップルに続け」、西側IT大手がロシアから撤退 続々と
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、IT(情報技術)大手がロシア事業を停止する動きが広がっている。多くは米政府などが科した経済制裁に準ずる形で決めたという。
アップルが口火、競合大手が続々追随
口火を切ったのは米アップルだった。同社は3月1日、「私たちはロシアのウクライナ侵攻を深く懸念しており、暴力に苦しむすべての人々の側に立っています」と述べ、ロシアでスマホ「iPhone」を含む全製品の販売を停止した。
決済サービス「Apple Pay」のロシアでの利用も制限しているほか、政府系のテレビ局RT(ロシア・トゥデー)と政府系通信社スプートニクのアプリ配信を、ロシアを除く全世界で停止した。
英調査会社CCSインサイトのチーフアナリスト、ベン・ウッド氏は「アップルの動きは、競合企業に追随するよう圧力をかける形になった」と指摘した。
同氏の指摘どおりになった。その後、ウクライナ政府の要請に応じる形でロシアでの販売や事業を停止する動きが広がった。
多国籍企業600社が撤退表明
米エール大経営大学院はロシア事業からの撤退を決めた多国籍企業の一覧をウェブサイトで公開している。
これによると、販売や事業活動の停止を表明した企業は4月9日時点で約600社。一方で、約200社が事業の停止・縮小を躊躇している。また、新規投資・開発は延期したものの、実質的な活動を続けている企業は約100社ある。
インテルやオラクルなど、露で全事業活動を停止
4月5日には米半導体大手のインテルが、ロシアでの全事業活動を停止したと発表した。インテルは3月に、ロシアとベラルーシの顧客向け全製品の出荷を停止したと明らかにしていたが、今回の措置は3月の決定に続くものだと説明した。
米マイクロソフト(MS)は3月4日、公式ブログを通じ、ロシアで全製品・サービスの新規販売を一時停止すると明らかにした。
米ソフトウエア大手オラクルも3月初旬にロシア国内の全事業を停止したと発表。同業の独SAPはロシアでの販売を停止。米IBMや米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)、米デル・テクノロジーズも販売を停止すると明らかにしている。
ロイター通信によると、ロシアでは企業も政府機関も西側企業が開発したIT基盤技術に依存しており、IBMやデル、HPEのサーバーが同国市場で高いシェアを占めている。
米調査会社のIDCによると、ロシアのクラウドサービス市場ではマイクロソフトのシェアが17%で最大。これに米アマゾン・ドット・コムの14%、IBMの10%と続き、ロシア企業ヤンデックスのシェアは3%にとどまる。
グーグルやアマゾンなどもサービス・販売停止
消費者向けネットサービス分野では、米グーグルが検索サイトと動画配信サービス「YouTube」の広告を停止。モバイルOS「Android」向けのアプリストアでは有料アプリやサブスクリプション(継続課金)の提供をやめた。
動画配信大手の米ネットフリックスもロシアでのサービスを停止。ネットフリックスは同国での番組制作なども見合わせたほか、政府系テレビ局などの放送の配信を義務付ける新たな規制に従わない意向も表明した。民泊大手の米エアビーアンドビーはロシアとベラルーシで全事業を停止している。
一方、米メタは政府系メディアへのアクセスを制限していたが、これに通信監督庁が反発。ロシア当局は3月初〜中旬にSNS(交流サイト)「フェイスブック」と写真共有サービス「インスタグラム」を国内で遮断した。
アマゾンは3月8日に、ロシアとベラルーシの顧客に対する小売製品の出荷を一時停止したと明らかにした。両国におけるクラウドサービスの新規契約や、サードパーティー企業の出品受け付けも中止。動画配信サービス「Primeビデオ」のロシアからのアクセスを停止したほか、同社がロシアで直販するビデオゲームの注文受付を終了した。
このほか金融関連企業では、米決済サービス大手ペイパル・ホールディングスや米クレジットカード大手のビザ、マスターカード、アメリカン・エキスプレス(アメックス)などもロシアでの業務停止を表明している。
- (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年3月8日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)