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Amazon「後れ取り戻せ!」、数千人でAlexa改良 独自LLM「Titan」「Olympus」も

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
画像出典:Amazon.com

AI(人工知能)の開発競争で後れを取るといわれる米アマゾン・ドット・コムが、この分野の立て直しを図るべく、大規模な組織再編を行ったことが明らかになった。

アマゾンは音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」の新版を開発中だが、米オープンAIや米グーグル、米マイクロソフトといったライバル企業の生成AIと比べて性能が劣ると判断。独自の大規模言語モデル(LLM)を開発し、Alexaに活用しようとしている。

汎用AIグループに数千人の従業員

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、この分野を率いるのはAmazonシニアバイスプレジデントのRohit Prasad(ロヒット・プラサド)氏。

プラサド氏は以前、Alexa部門の主任科学者だったが、2023年に最先端AI技術を開発するチームのリーダーに就任した。アマゾンは同氏の率いる新たな部門に数千人の従業員を配置し、「AGI(Artificial General Intelligence、汎用AI)グループ」と名付けた。

そのきっかけとなったのはオープンAIの対話型AI「Chat(チャット)GPT」の登場だった。22年11月にChatGPTが公開されると、プラサド氏のAlexaチームはすぐに実験を始めた。チームはその使いやすさと、様々なトピックに関する知識を引き出せることに感銘を受けた。ChatGPTに対してスマートホーム制御などのAlexa機能のためのコード生成も依頼した。その結果、アマゾンの社内システムよりも優れていることが分かった。

プラサド氏はChatGPTがテクノロジー業界に与える影響について社内で議論し、後れを取り戻すための対策を立てた。「Titan(タイタン)」と呼ぶLLMの開発を加速するとともに、新しいLLM「Olympus(オリンパス)」の開発に着手した。同社は、これらのLLMを使用してAlexaを作り直し、他のビジネスに展開するという計画も立てた。

月5〜10ドルのAlexa上位版を計画中

アマゾンのAlexaを巡っては先ごろ、複雑な質問や指示に対応できる高性能AIソフトウエアを搭載した上位版を導入し、これに月5〜10ドル(約700〜1500円)超の料金を設定する計画だと報じられた。アマゾンはこの上位版を「Remarkable Alexa(非凡なアレクサ)」と名付けている。現行の無料版サービスはアマゾン社内で「Classic Alexa(標準的アレクサ)」と呼ばれており、こちらにもAIを搭載する。ただし、この下位版は今後も無料で提供される。

関係者によると、有料版Alexaは、会話が継続進行するように設計されている。一連の会話の中で、以前の質問や回答を覚えており、それらに基づき新たな回答を生成する。すなわち、会話中に「アレクサ」と何度も呼ぶ必要もなくなり、よりパーソナライズされた対応が期待できる。

利用者は旅行に持っていく服に関するアドバイスや、ニュース記事などの情報を収集するよう依頼することもできる。食事を注文したり、電子メールを作成したりといった、より複雑なリクエストを一度の指示で実行できるとされる。

AI需要に対応、データセンターに1000億ドル投資

アマゾンも他のテクノロジー大手と同様に独自の技術開発に力を入れてきた。しかし、AI開発競争が激化するなか、外部との連携も強化している。同社は24年4月、生成AI開発の米スタートアップ、アンソロピック(Anthropic)に総額40億ドル(約6000億円)を出資したと発表した。英ロイター通信によれば、アマゾンはアンソロピックの生成AI技術基盤「Claude(クロード)」を採用することも決めている。

これについてアマゾンの広報担当者は、「機械学習(マシンラーニング)モデルに関しては、自社のモデルやパートナー企業のモデルなど、様々なモデルを過去に使用し、今後も使用して、顧客にとって最高の体験を構築していく」と説明した。

WSJによれば、アマゾンは急増するAI需要に対応するため、今後10年間で1000億ドル(約15兆円)以上をデータセンターに投資する計画だ。自社AI製品の開発に対する社内からの期待も高まっている。CEO(最高経営責任者)のAndy Jassy(アンディ・ジャシー)氏もAGIグループに深く関与しており、4〜6週間ごとにプラサド氏などの幹部と協議している。

筆者からの補足コメント:

WSJによれば、アマゾンは最新のAIモデルをAlexaに活用して機能を向上させることに苦労しているといいます。LLMを導入した結果、簡単なタスクでもエラーが出るようになったと同紙は報じています。例えば、ライトをオンにする機能の成功率が90%以下に低下したテスト結果もあるとのこと。生成AIは創造的な会話ができる一方で、基本的なタスクを確実にこなすことが難しいとプラサド氏は説明しています。「『アレクサ、暑い』と言ったら、『エアコンの温度設定を下げますか?』と聞いてくるべきです。ビーチに行くように勧めるべきではありません。AIは、状況を理解することが重要であり、難しい技術なのです」と同氏は語っています。

(本コラム記事は「JBpress」2024年10月3日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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