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AIブームで再び半導体不足か、コロナ下よりも深刻 GPU、PC、スマホの需要急増で供給網逼迫

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米コンサルティング大手のベイン・アンド・カンパニーがこのほど公表したリポートによると、昨今の生成AI(人工知能)ブームが世界的な半導体不足を引き起こす可能性がある。

大規模な半導体不足は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時に起こった。このときは、比較的短期的な影響にとどまったが、AIブームは今後何年も続くとみられ、半導体サプライチェーン(供給網)における次の大きな脅威に備える必要があると警鐘を鳴らしている。

要因はGPUと消費者向けAI機器への需要増

現在、GPU(画像処理半導体)の需要が急増しており、テクノロジー大手は主に米エヌビディア(NVIDIA)からこの半導体を競って購入している。GPUはデータセンターのサーバーに収容されており、米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」などのアプリケーションを支える巨大なAIモデルの訓練と推論に不可欠である。

一方、米クアルコム(Qualcomm)のような半導体メーカーの製品はスマートフォンやパソコンに搭載される。こちらは、クラウド経由ではなく、デバイス上で直接AIアプリケーションを実行できる半導体である。

ベイン・アンド・カンパニーは、GPUとこれら消費者向け機器への需要増といった2つのトレンドに加え、地政学的緊張が次の半導体不足を引き起こす可能性があると指摘する。

データセンター向け半導体需要

大手のクラウドサービスプロバイダーは、AIとアクセラレーテッドコンピューティングへの投資を行っており、2024年は設備投資額を前年比で36%増やすと予想されている。大規模言語モデル(LLM)の機能がテキスト、画像、音声といった複数のデータタイプの同時処理能力を拡大するなか、GPUの需要は今後も増加するとベイン・アンド・カンパニーはみている。

同社の推計によれば、データセンターにおける現世代GPUの需要が26年までに2倍になった場合、主要コンポーネントのサプライヤーは、生産量を30%以上増やす必要がある。需要増は、先端パッケージングとHBM(広帯域メモリー)に集中する。同社のシナリオではCoWoS(チップ・オン・ウエハー・オン・サブストレート)パッケージング部品のメーカーは、26年までに生産能力を現在のほぼ3倍にする必要がある。

AI市場の成長を実現するためには、データセンターやウエハー工場の建設から、先端パッケージングや十分な電力の確保に至るまで、サプライチェーン全体で生産体制を整備する必要がある。しかしそれには長いリードタイムが必要となり、需要に追いつけなくなる可能性がある。

これらのサプライチェーンの個々の要素は、他のテクノロジーエコシステム(経済圏)とも共有されていることが多い。パンデミック時のように重要なチップが供給不足になれば、エコシステム全体に混乱が生じることになる。

パソコンとスマホ向け半導体需要

消費者向け電子機器メーカーはAI機能を自社製品に組み込む動きを進めている。 デバイス上のNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)に対応するために平均的なノートパソコンのCPU(中央演算処理装置)及びスマホ用プロセッサーでは、シリコンの表面積がそれぞれ約5%と16%増加している。

より重要なことに、AIアプリケーションがますます実用的になるにつれて、新しいデバイスの購入が加速される。パンデミックがパソコン需要を押し上げたように、AIによってPCとスマホの需要が急増する可能性がある。それは、パンデミック時よりも長期に及ぶとみられる。

これらデバイス向け半導体サプライチェーンにおける脆弱(ぜいじゃく)性は、先端半導体を製造する工場に集中する。23年から26年にかけてパソコン販売が31%、スマホ販売が15%成長した場合、先端工場は生産能力を25%〜35%高める必要がある。実現するには4、5つの工場を新設しなければならず、費用は400億〜750億米ドル(約5兆7900億〜10兆8500億円)かかる。

①地政学的緊張、②貿易規制、③多国籍テクノロジー企業のサプライチェーンにおける中国切り離し(デカップリング)、といった動きも深刻なリスクをもたらす。工場建設の遅延、材料不足、その他予測不可能な要因が、供給不足を引き起こすとベイン・アンド・カンパニーは指摘する。

筆者からの補足コメント:

ベイン・アンド・カンパニーによれば、半導体サプライチェーンは非常に複雑だといいます。例えば、需要が約20%以上増加すると、たちまち均衡が崩れて半導体不足が起こる可能性が非常に高い。GPU、パソコン、スマホといった、それぞれの大規模な最終製品市場において、同時に爆発的なAIブームが起きれば、その供給能力を容易に上回り、サプライチェーン全体に脆弱なボトルネックが生じるといいます。

(本コラム記事は「JBpress」2024年10月4日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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