ロシアのウクライナ侵攻で広がるネットの分裂「スプリンターネット」
ロシアの通信監督庁は3月中旬、米メタ(旧フェイスブック)傘下の写真共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」を同国内で遮断した。
ロシア当局は、インスタグラムの利用者に電子メールで呼び掛け、ロシア国内のサービスに切り替えるよう促した。ロイター通信によるとインスタグラムの幹部は、これによる影響はロシア人口のほぼ6割に当たる8000万人のユーザーに及ぶと説明した。
メタ、暴力的SNS投稿を一時容認
ロシア当局によるこの措置に先立つ3月10日、メタは暴力的な内容の投稿へのルールを、ウクライナや周辺国で一時的に緩和すると明らかにしていた。例えば「ロシアの侵略者に死を」といった投稿を容認した。
2021年1月の米連邦議会議事堂の占拠事件以降、メタは投稿内容の管理体制を強化。暴力を称賛したり助長したりする投稿を禁じ、違反者のアカウントを凍結するなどの措置を講じてきた。
しかし、ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、「抵抗するウクライナの人々の発言を違反とし従来のルールを基に削除すれば、同国民の言論の自由が奪われる」と判断した。
これについては、「『侵略者に死を』などという投稿はウクライナのほか、ポーランドやルーマニアなどの周辺国ではもはや反戦スローガンとなっており、メタとしてはそれらすべてを削除できなくなっている実情もあるのではないか」と指摘されていた。
だが、メタはその後再び規約を変更。一時容認していた「国家指導者の死を求める呼び掛け」をあらためて「禁止」とした。
「死を求める」投稿の容認は、戦時下の一時的な措置だとしても行き過ぎだとの批判があった。対象がたとえ侵略国家の指導者であっても暴力を容認したことになる。メタのニック・クレッグ社長は「国家元首の暗殺を呼び掛けることは認めない」と強調した。
ロシア、フェイスブックへのアクセスを遮断
メタは2月28日、欧州連合(EU)域内でロシア政府系メディアへのアクセスを制限すると明らかにした。SNS(交流サイト)のフェイスブックで、投稿内容のファクトチェックを行い、問題のあるものに注記をつけたほか、収益化を阻止するために政府系メディアによる広告出稿を禁止した。メタは全世界でロシア政府系メディアのコンテンツの表示順位を下げる措置も取った。
このメタの対応をロシアは批判。通信監督庁は3月4日、ロシアメディアに対する「差別」があったとして、フェイスブックへのアクセスを遮断した。ロシアではかねてメタに対する「犯罪捜査」を進めていた。ロシアの検察当局は3月11日、メタを「過激派組織」と認定し、ロシアでの活動を禁止するよう裁判所に申し立てた。
米ウォール・ストリート・ジャーナルによるとロシア当局はツイッターへのアクセスも制限している。3月4日にはロシア軍に関する「偽情報」を広めた場合、最長で禁錮15年の刑を科す法案にプーチン大統領が署名し、法が成立した。これによりロシアは国内の多くの独立系メディアを事実上沈黙させたと、同紙は報じている。
「Splinter」+「Internet」
西側諸国のIT(情報技術)企業は相次いでロシアでの事業停止を明らかにしている。動画配信大手の米ネットフリックスは同国でサービスを停止した。ネットフリックスはロシアでの番組制作なども見合わせた。政府系テレビ局などの放送の配信を義務付ける新たな規制に従わない意向も表明した。
米グーグルは検索サイトと動画配信サービス「YouTube」の広告を一時停止。モバイルOS「Android」向けのアプリストアで、有料アプリやサブスクリプション(継続課金)サービスの販売も中止した。
西側IT企業のロシアでの事業停止がいつまで続くかは分からない。だが、専門家はこれをグローバルインターネット分裂の新たな動きとみている。インターネットはこれまでいくつかの国家の圧力によって徐々に引き離されてきた。
例えば、中国やイラン、トルコなど。西側諸国でも、企業にデータをローカルに保存することを求める新たな法律や、特定の種類のコンテンツに関する規制などの動きが広がっている。かつては存在しなかったインターネット上の国境がつくられつつあるという。
こうした事象は、「スプリンター(分裂)」と「インターネット」を組み合わせた造語「splinternet(スプリンターネット)」で表現されている。
- (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2022年3月15日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)