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北朝鮮の南北連絡事務所爆破を米メディアはどうみたか? トランプ氏は爆破を無視?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
北朝鮮による南北共同連絡事務所の爆破を報じるCNN。写真:msn.com

 北朝鮮が、南北軍事境界線沿いの北朝鮮・開城にある南北共同連絡事務所を爆破した。

 2019年にベトナムで開催された2回目の米朝首脳会談で、米朝の非核化交渉が決裂して以降、南北間では緊張関係が続いていたが、今回の爆破事件について、アメリカのメディアはどうみているのか? 主な見解を紹介してみたい。

北朝鮮の強い意志の表れ

1. 爆破は象徴的行為

 まず、南北共同連絡事務所を破壊したことは、非常に象徴的な行為だということが指摘されている。この連絡事務所は、1945年に南北が分裂して以降、初めて南北が結びついたことを示す象徴的な存在だったからだ。米CNNは、事務所の爆破に対して「両国の繋がりが迅速に悪化していることを示している」とし、米ブルームバーグは「韓国との関係を完全に停止するという北朝鮮の強い意志の表れ」と述べている。

2. 2010年以降の重大な出来事

 破壊は、2010年以降に起きた出来事の中でも、重大な出来事だと捉えられている。ちなみに、2010年には黄海上の南北境界線付近で北朝鮮からの海上への砲撃が散発、同年3月には、韓国海軍の哨戒艦が爆発によって沈没し、46人が死亡する事件が発生していた。

3. 非核化交渉以降では最も挑発的な行為

 米朝が非核化交渉に入って以降に起きた出来事の中では、最も挑発的な行為という見方がされている。

爆破行為に出た裏の理由

 なぜ、北朝鮮は爆破という行為に出たのか? アメリカメディアは、そこには、表向きの理由と裏の理由があると指摘している。

 表向きの理由は、文政権が脱北者による北朝鮮批判のビラばら撒き活動を阻止できなかったことに対して怒っているという理由だ。しかし、これは爆破の言い訳に過ぎないとメディアは指摘している。脱北者たちは、2004年からバルーンやビラを散布していたからだ。

 では裏の理由は何か? 

 それは、北朝鮮の要求が満たされていないという理由である。

 まず、北朝鮮は、米国主導で行われている経済制裁の緩和が得られていない。この点について、北朝鮮は、米国はもとより、韓国に対してもフラストレーションを感じているという。韓国が経済制裁を主導しているトランプ政権に対して解除を求める努力をしていないからだ。また、韓国が南北縦断鉄道のような南北間の共同経済プロジェクトを進行させていないことに対するフラストレーションもあるという。在韓米軍が縮小されていないという問題もある。つまり、北朝鮮は爆破することで、韓国にプレッシャーを与えたのだという見方がされている。

国内外に対するプロパガンダ

 爆破には他の狙いもあることが指摘されている。

 金氏にとっては、爆破は国内向けのプロパガンダになるという。経済制裁により経済状況が悪化している上に、北朝鮮では新型コロナウイルスが地方で発生しているという噂もある。そんな国内問題から、国民の目をそらすために爆破行為に及んだというのだ。

 また、金氏にとって、爆破は世界に向けたプロパガンダにもなるという。金氏は、4月後半、何週間も姿を消し、死んだのではないかという噂まで流れていた。爆破により、今も権力を握っていることをアピールしたかったのではないかという見方もされている。

「爆破は人目をひくためにしたのです。金氏は、長い不在の後、世界が自分を弱者だとみているのではないかと懸念しているのかもしれません。破壊により、自分が北朝鮮をコントロールしており、この状況をエスカレートさせることができるのだということを訴えているのです」

とニューヘイヴン大学教授のマシュー・シュミッド氏は、米US News and World Reportのサイトでコメントしている。

トランプ氏は選挙に勝てないと判断か

 金氏は、誰よりも、トランプ氏に自身の権力の健在ぶりを訴えたいのかもしれない。トランプ氏のアテンションが今、新型コロナ問題や抗議デモ問題といった国内問題の方にフォーカスしているからだ。

 アナリストは、北朝鮮が、過去にも、危機を生み出してアテンションを得ることで、交渉に持ちんできたことを指摘している。確かに、2018年の初の米朝会談の前にも、北朝鮮はミサイルを発射させたり核実験を行ったりという挑発行為を繰り返していた。とすれば、北朝鮮としては、今回の爆破によりアメリカを再び米朝会談へと促し、経済制裁を緩和させたい狙いがあるのかもしれない。

「北朝鮮の指導者たちは、トランプ氏が選挙に勝てないという結論を出したのでしょう。今から11月までの間に、北朝鮮は、トランプ氏から譲歩を引き出すために、できるだけ武力で威嚇したいのです」

とイェール・グローバルのアナリスト、シン・ジャエフーン氏は米ニュースサイト「デイリービースト」でコメントしている。

 一方、米外交専門誌『ナショナル・インタレスト』は、海外からは見えない何かが、北朝鮮内部で進行しているのではないかと推測している。金氏が4〜5月頃、3週間も姿を消し、その後もあまり姿を現さず、突然、妹の金与正氏が軍事的な役割まで果たし始めたからだ。

韓国に対する報復は続く

 今後も、北朝鮮の挑発は続くのか?

「北朝鮮は、韓国が軍事報復にまで出ることはない程度で、軍事的行動を続けるでしょう」

とインターナショナル・クライシス・グループのドゥエオン・キム氏は今後も挑発が続くと予測している。

 実際、北朝鮮の国営ニュースサービスは「韓国と対話する必要はない。彼らと話し合うべき問題はない。彼らは落胆させるだけだからだ。韓国に残されたのは、厳罰だ。韓国に対する容赦のない報復は最後まで続く」という声明を出している。

 また、今後、考えられる挑発行為としては、大陸間弾道ミサイルの発射や、潜水艦発射弾道ミサイルの発射、核実験などがありえると指摘されている。

経済の回復ぶりをアピール

 ところで、今回の爆破について、米国務省は北朝鮮に対し、非生産的な行動は控えるよう要求したものの、いつもなら反撃ツイートをするトランプ氏は、この記事を投稿する時点ではまだ口を閉ざしたままだ。

 米国時間6月16日、トランプ氏が、朝一にツイートしたのは、

「ワオ!5月の小売業の売り上げは、史上最大の17.7%増だ。予想をはるかに超えた。株式市場、そして仕事にとって重要な日だ」

という経済の回復ぶりをアピールする内容だ。

 大統領選を目前にしたトランプ氏は、北朝鮮の挑発行為はいつものことだとでも思っているのか。北朝鮮はそんなトランプ氏に、今後、どんな揺さぶりをかけるのか?

 

 アメリカの同盟国日本の上空を、弾道ミサイルが飛ぶ事態とならぬよう願う。

(参考記事)

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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