東京五輪で中国競泳陣の大躍進の背後に、驚きの「大陸間弾道ミサイル関連の最先端技術」
東京五輪で中国の競泳選手が活躍したのを受けて、中国の宇宙関連企業が「高度な技術を用いた機器を開発し、選手の活躍を支えた」とアピールした。香港紙が、この「高度な技術」の中に「大陸間弾道ミサイル(ICBM)に関する最先端技術」があると分析し、中国国内で話題になっている。
◇「トップアスリートの微細な動きをとらえるため」
東京五輪で7月29日、競泳女子200mバタフライで中国の張雨霏(Zhang Yufei)が金メダルを獲得した。女子800mリレーでも中国が7分40秒33の世界新記録で優勝。この種目が採用されたアトランタ五輪(1996年)以降、米国とオーストラリア以外の国が優勝するのは初めてだった。
これらの成果を受け、中国屈指の国有宇宙企業「中国航空宇宙科学技術公司」(CASC)は同月末、中国版LINE「微信(WeChat)」上の公式サイトに「金メダル奪取! 航空宇宙技術が力添え、アスリートに『如虎添翼』(鬼に金棒)」という発表文を掲載した。
CASCは「選手の泳ぐ姿勢が、前進する速度に直接の影響を与え、競技力を左右する」という点に着目。泳ぐ姿勢や他の重要情報を、より科学的・正確に測定するため、同社の研究開発チームが「高度な航空宇宙技術」を用いた精密測定装置を開発したという。
それが、慣性計測(3次元の慣性運動の検出)とナビゲーション、無線通信、ビデオを使ったナビゲーションなどの技術を生かし、選手に負担を与えない重さ(16g)の水泳用計測システム。選手のトレーニング、パフォーマンスの向上に役立っていると強調している。
◇高精度ジャイロスコープの軽量化
この水泳用計測システムについて、香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は「慣性誘導システムの小型版」と表現している。「慣性誘導システム」とは、外からの指令なしに、内蔵する装置だけで進路を定めるミサイル誘導方式。ICBMは10,000km以上も離れた標的を攻撃するために、この「慣性誘導システム」を使っているという。
慣性誘導システムでは、衛星信号が利用できない場合、高度なジャイロスコープ(物体の向きや角速度を検出する機器)を使って動きを追跡し、ミサイルの位置を決定する。このジャイロスコープは高精度だが、ミサイルではかさばってしまうものだという。
これを水泳に関する情報収集に転用するため、CASCは1年以上かけて改良を重ね、高精度ジャイロスコープをわずか数gにまで軽量化することに成功した。これにより、選手の関節部分に装着しても、動きを妨げることはなく、選手が快適に使用できるようになったそうだ。
◇「トレーニングプラン決定のための科学的根拠」
SCMPによると、一流のコーチは、トレーニング中の選手の動きをモニターするために、古くからモーションセンサー(周囲の赤外線放射の変化によって人間の接近を検知するセンサー)を使ってきた。ただトップアスリートともなれば、視覚的にとらえることができない微細な変化が大きな結果の違いを生むことがある。その情報をとらえるために、より強力な技術が必要――という経緯から、宇宙科学者の出番となったという。
新たに開発された水泳用計測システムにより、トレーニング中の選手の姿勢、速度、位置、角速度、加速度などの動作情報が得られるとともに、映像と同期させて表示されるようにもなり、CASCは「コーチングチームがトレーニングプランを決定するための科学的根拠を提供」できたと誇示している。
研究開発チームは、風洞(人工的に流れを作り出して、実際の流れを再現する装置)の中に選手に入ってもらい、風に向かって泳ぐ様子を分析することで多様な動きによって生じる抵抗を計測できたという。
風洞に関しては、東京五輪で世界新記録を出し、金メダルを獲得したボート女子チームもトレーニングに使用していた。中国の国家体育総局によると、中国で来年開催される冬季五輪でのパフォーマンス向上のため、スポーツ専用の新しい風洞が昨年、北京に設置された。