憧れのイエローバンドの春の妖精って?フォッサマグナで二分される蝶って?
「イエローバンドの春の妖精」と言われて、黄色いカチューシャを外して長い髪をほどく少女の姿を思い描くのは、AKB48のファンかもしれない。しかし虫好きはこの言葉から、早春の白馬村でカタクリの花とたわむれるギフチョウの姿を思い浮かべる。
虫好きにとってイエローバンドは、黄色いヘアバンドなどではなく、黄色い毛で翅全体が縁取られた白馬付近特有の「イエローバンドのギフチョウ」のことだ。
こう紹介すると、さぞかし美しい蝶なのだろうと想像する人が多いだろう。しかしギフチョウは、ちょっと小さめで、ちょっと毛深いナミアゲハ(一番普通のアゲハチョウ)のようにも見える。そしてイエローバンドのギフチョウと普通のギフチョウの違いに至っては、近寄って目を凝らしたり、写真に撮って拡大したりしない限り気付かないほど、些細なものだ。
それでも、春先の一時期に、限られた地域でしか見られないギフチョウは、虫好きにとってスプリングエフェメラル(春のはかない命)の代表のような憧れの蝶であり、白馬村周辺特産のイエローバンドのギフチョウは、死ぬまでに一度は見たい(おおげさです)蝶なのだ。
それなら昆虫記者は毎春、白馬に通っているに違いないと思う人もいるかもしれない。しか「貧乏暇なし」の昆虫記者が、白馬を訪れたのは1回だけ。
そのたった1回のチャンスに姿を見せてくれたイエローバンドのギフチョウは、きっと昆虫記者の窮状を憐れんでくれたのだろう。
ギフチョウを追って白馬を訪れる蝶マニアには、イエローバンド以外にもう一つの狙いがある。それはヒメギフチョウだ。
・フォッサマグナで二分される生息地
ギフチョウとヒメギフチョウは極めて近縁の蝶だが、その生息地はおおむね、フォッサマグナ(本州を東西に分ける中央地溝帯。何千年か前までそこは深い海だった)によって二分されている。フォッサマグナより西がギフチョウ、東がヒメギフチョウの領域とされているが、フォッサマグナ上にある白馬周辺は、この2種類の蝶が同時に見られる貴重な場所でもあるのだ。
では、この2種類の見た目はどう違うのかと言うと、これがまた非常に微妙であり、虫好き以外の一般人にとっては「どうでもいいじゃない」という程度のものなのだ。
イエローバンドだのヒメだの、なぜそんな小さな違いにこだわるのか。そんな問いには「虫好きだから」と答えるしかない。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)