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元IZ*ONEメンバーが牽引するK-POP──IVE、LE SSERAFIM、イェナ、ユリ、チェヨン

松谷創一郎ジャーナリスト
2022年10月7日、韓国・ソウルのKCONにおけるIVE(写真:REX/アフロ)

ポストBTS時代のK-POPシーン

 コロナ禍から回復しつつある今年、K-POPで目立っているのはガールズグループや女性ソロアーティストの活躍だ。

 とくに先月から今月にかけては、有力アーティストのカムバックが続いた。BLACKPINKを筆頭に、MAMAMOO、EXID、(G)I-DLE、ITZY、Kep1er、VIVIZ、NMIXXと続き、活況と呼ぶにふさわしい状況を見せている。兵役入りによるBTSの活動休止が迫るなか、K-POPは新たなフェイズに移りつつあると見ていいだろう。

 こうしたなかでとくに際立っているのは、2021年4月まで2年半の期間限定で活動した12人グループ・IZ*ONEのメンバーたちだ。解散後、12人はいったん元の所属会社に戻り、そこから新たな活動を開始した。

 ユジンとウォニョンはIVE、サクラ(宮脇咲良)とキム・チェウォンはLE SSERAFIM(ル・セラフィム)と、それぞれ新グループでヒットを飛ばし、クォン・ウンビ、チョ・ユリ、チェ・イェナ、イ・チェヨンはソロデビューして存在感を見せつけている。

 なかでもIVE、LE SSERAFIM、チェ・イェナの3組は、年末恒例の音楽祭・Mnet Asian Music Awards(MAMA)で最優秀新人女性アーティスト賞にノミネートされている。

 元IZ*ONEメンバーは、次代のK-POPを担う存在となった。

「2022 MAMA AWARDS」オフィシャルサイトより、最優秀新人女性アーティスト賞ノミネートの6組。
「2022 MAMA AWARDS」オフィシャルサイトより、最優秀新人女性アーティスト賞ノミネートの6組。

IVE3曲連続大ヒット

 昨年12月に「ELEVEN」でデビューしたIVEは、4月の「LOVE DIVE」、8月の「After LIKE」と大ヒットを続けている。今月には、「ELEVEN」の日本語版で日本デビューも飾った。YouTubeのミュージックビデオは(日本語曲を除けば)いずれも1億視聴を超える。

 このグループを支えるのが、ユジンとウォニョンだ。ともにまだ19歳と18歳のふたりは、IZ*ONEでも主要メンバーとして活躍した。

 最新曲「After LIKE」は、過去2曲を超える大ヒットをいまも続けている。MV視聴回数は、前作の半分以下の日数で1億に到達。Billboardのグローバルチャートでも20位に、Spotifyでも48位に入った。これはかなりの大ヒットと言える。

 とくに後者は、音楽の人気がなければ決して到達できないランクだ。Spotifyグローバル50位の壁は、TWICEやRed Velvet、(G)I-DLEなども越えることができてない。デビューから1年にも満たないなかで、ここまで大ヒットするのはK-POPでも極めて異例だ。 

筆者作成。
筆者作成。

 「After LIKE」は、Dm・G・C・Fの4つのコードを繰り返す近年流行りのミニマリズムの構成だ。だが、そこに1978年に世界的な大ヒットとなったグロリア・ゲイナーのディスコナンバー「恋のサバイバル(I Will Survive)」(→MV)をサンプリングして加えている。

 多くのひとに馴染みのある歴史的名曲のアクセントが、このグローバルヒットに貢献したことは確実だ。だが、単にサンプリングするだけでなく、そこにラップを重ねている点がとてもユニークだ。しかもメインラッパーのレイは名古屋出身の日本人で、ラップメイキングにも参加している。

IZ*ONEとは異なる姿のLE SSERAFIM

 今年5月にBTSの所属するHYBEから鳴り物入りでデビューしたLE SSERAFIM(ル・セラフィム)は、デビュー曲 ’FEARLESS’からしっかりとヒットを飛ばした。メンバーひとりが早々に脱退するアクシデントもあったが、今月17日に2ndミニアルバム’ANTIFRAGILE’でカムバックし、この曲も安定したヒットを続けている。

 そのメンバー5人のうち、サクラ(宮脇咲良)とキム・チェウォンがIZ*ONE出身だ。元HKT48のメンバーだったサクラは、ウォニョンとともにIZ*ONEのセンターを務めた存在だ。チェウォンは、前所属プロダクションからヘッドハンティングされてHYBEと契約したと見られる。

 兵役の関係でBTSの活動休止が確定的となり、SEVENTEENもほどなく兵役によって完全体が難しいと予想される現在、LE SSERAFIMはHYBEの今後を大きく左右する極めて重要な存在だ。

 今年発表した2曲が、それぞれ「怖いものなし」「壊れにくい」という意味であるように、そのメッセージは非常に強め、強い主張が込められている。K-POPの文脈で言えば、直球のガールクラッシュ(女性が憧れる女性像)と言えるものだ。

 しかもそうしたスタイルは、メンバーたちの意向を取り入れて創られたものだ。サクラはそのことについて、過去の活動も踏まえて以下のように話している。

今回のデビュー曲「FEARLESS」の歌詞を見ると、本当に私たちの話なんです。その歌詞を見ながら、「自分がやりたいことをやってもいいんじゃないか」と思いました。実際私の新たな姿を見たら、戸惑って受け入れられない方たちもいらっしゃると思います。「欲を隠しなさい、そんなあなたの言葉は変」のような歌詞は、私も芸能人として10年以上活動してきて感じていた部分でもありますし。

──『Weverse Magazine』2022年5月10日

 HKT48ともIZ*ONEとも異なる、新たなスタイルをサクラとチェウォンは見せている。

“あえてロック”のイェナ

 元IZ*ONEメンバーからは、4人がソロ歌手として活動を始めている。それがクォン・ウンビ、チョ・ユリ、チェ・イェナ、イ・チェヨンだ(カン・ヘウォンもソロ曲を出したが、さほど本格的ではない)。今月もチェヨンがデビューを果たし、ユリがカムバックしたばかりだ。

 そのなかで独自のスタイルでスマッシュヒットを飛ばしているのがチェ・イェナだ。1月のデビュー曲「SMILEY」、8月の「SMARTPHONE」とともに、K-POPでは珍しいロックテイストの曲だ。

 しかもこの2曲は傾向としては似ているものの、異なる点がある。それは、「SMILEY」では抑えられているエレキギターのサウンドが、「SMARTPHONE」ではしっかりと聴こえてくることだ。

 10年代以降はとくに顕著だが、グローバルの音楽シーンではロックが軒並み低調となりヒップホップやファンク、あるいは80年代リヴァイヴァルが主流となってきた(“邦ロック”が人気だった日本は例外的だ)。

 K-POPでもそれは例外でなく、一部のバンドやグループを除けばエレキギターの音そのものがあまり聴こえてこない。それはリズムを基盤とするダンスミュージックとロックサウンドが、あまり上手く噛み合わないからだ(逆にAKB48がダンスにさほど力を入れなくなったのは、2012年に発表したロックスタイルの「ヘビーローテーション」からだ)。

 だが、イェナはそこで“あえて”ロックスタイルを見せている。そこで連想するのは、カナダのアヴリル・ラヴィーンだ。00年代にソロのパンクシンガーとして日本をはじめ世界的にブレイクしたそのスタイル(たとえば'Girlfriend'/→MV)は、YouTubeを入り口とする視覚的な10年代の音楽シーンでは古いものとなってしまった。

 アヴリルそのままではないが、イェナはロックサウンドを“あえて”いまの時代にやっている。しかも、そこにはカラフルなファッションスタイルと、スマートフォンを持つZ世代のメンタリティというテイストを加え、強い独自性を発揮している。それに加え、IZ*ONE時代から目立っていた、イェナ自身の小学生男子的な明るさも上手くマッチしている。

拡大するIZ*ONEの遺伝子

 IZ*ONEは、オーディション番組『PRODUCE 48』から生まれた。同様に、この番組のシーズン1(2016年)でもガールズグループ・I.O.Iが生まれ、短期間ではあったが大ヒットとなった。

 だが、I.O.Iの解散後、メンバーたちがかならずしも上手くいっているわけではない。後に結成されたgugudanやPRISTINはすでに解散しており、Weki Mekiもヒットにはほど遠い。IVEやLE SSERAFIMのような大ヒットには結びつかなかった(ただし、チョン・ソミとチョンハはソロ歌手としてヒットしている)。

 それを踏まえれば、IVEやLE SSERAFIM、そしてイェナの大ヒットは、IZ*ONEの人気をとても上手く次につなげた結果だと言える。

 なかでも大きいのはIVEの大ヒットだろう。他に、MONSTA Xや宇宙少女、CRAVITYなどを抱えるプロダクションのSTARSHIPは、大手ではなく中堅だ。大手が参加しないMnetのオーディション番組は、そうした会社にもチャンスを与えることになった。

 新型コロナもあって2年半のIZ*ONEの活動はけっして順調ではなく、その解散も多方面から惜しまれた。だが、メンバーたちのその後の活躍はIZ*ONEの解散を払拭するほどのものだ。むしろIZ*ONEの遺伝子が、多方面で増殖しているかのように見える(そこには本田仁美が復帰したAKB48も含まれる)。

 サクラは、LE SSERAFIMデビューのために渡韓する直前、ファッション誌のインタビューで以下のように語っている。

プライドも過去の栄光もすべて捨てて、まっさらな気持ちで一歩を踏み出したい。もっともっと世界中の人にしってもらえるように、そして過去がどんどん輝くように、これからの未来も限界も決めずに頑張っていきたいです。

『MORE』2021年10月号

 いまのところ、それは十分に有言実行されている。

 IVE、LE SSERAFIM、チェ・イェナ、クォン・ウンビ、チョ・ユリ、イ・チェヨン──元IZ*ONEメンバーたちは、その過去をどんどん輝かせている。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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