Yahoo!ニュース

ふるさと納税まで値上げの背景にある元々不十分な独自財源を取り合う制度上の不備

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
返礼品に豪華高級牛肉箱入りはいかが?(写真:イメージマート)

 今月からふるさと納税制度のルールが改正されました。しばしば問題となってきた寄付を募るための返礼品合戦を防ぐため、過去に定めた「経費は寄付額の5割以下」を厳格化したのです。枠内に収めるため分母に相当する寄付額を上げる措置に出たのが「値上げ」。

 他にも「熟成肉」と「精米」は原材料が自治体が立地する都道府県での生産に限定するという。やけに細かな変更もなされました。こうしたニュースを足がかりに「ふるさと納税」とは何か。何が問題かを考察します。

最初は地方間格差の是正が主目的

 最初は07年、菅義偉総務大臣(当時)が提唱。自治体に納める個人住民税の1割程度を故郷にも納められるようにする新納税制度をめざしたものの、地方税の原則である「受益者負担」とそごを来すと反対されました。

 そこで07年、すでにあった寄付制度活用へ転換。当時の寄付下限は所得税が5000円、住民税10万円の所得控除です。自治体がアイデアを出し合う競争が期待されました。08年スタート。控除は住民税の1割まで。地方間格差の是正が主目的でした。

 寄付先の市長村の口座へ振り込み、代わりに受け取った受領書を添付して確定申告をし、控除される仕組み。「ふるさと」といっても生まれ故郷に限定されず応援したい自治体(都道府県および市町村)でOK。

 15年に確定申告が不要になるなど利用しやすくなり(会社員は確定申告不要)、控除上限も1割から2割へ。寄付額も急増して16年には2844億円。開始当初の35倍へとふくれ上がったのです。

「豪華な返礼品」問題と「新基準」登場

 他方、当初より問題となっていた「豪華な返礼品」もクローズアップ。総務省は17年「返礼は寄付額の3割まで」などと自治体へ通知し冷却化をはかりました。それでも同年度は3653億円と過去最高を更新。

 返礼品は他にも用意する自治体との関係が薄かったり全くないものまで当たり前に登場してきました。そこで総務省はさらなるルール変更を行います。「地場産品」「経費は寄付額の5割以下」の2点を追加し、それを満たす自治体のみを総務大臣が指定する制度に改めたのです(=「新基準」)。

 言い換えると新基準を満たさないと認定されれば「ふるさと納税」の対象外となり、そこへ寄付しても控除が受けられないようにしました。

泉佐野市の場合

 新基準の影響をモロに受けたのが大阪府泉佐野市です。アマゾンのギフト券などで寄付を集め、18年度は日本一の実績を誇っていたものの、制度の趣旨に合っていないと総務省が度々自粛を求めてきたいわく付き。新基準に触れるため対象外にされました。

 市は国地方係争処理委員会という第三者機関の審査を経て裁判へと突入。20年2月に出された大阪高裁の総務省判断をほぼ全面的に認める判決を同年6月、最高裁が破棄して市の勝訴で確定したのです。

 理由は新基準以前の同市の行いに対する自粛要請は地方自治法の「国の行政機関」による「助言等」にあたり、同法は「助言等に従わなかつたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」と定めるので違法となる側面があるとの判断といえます。

 制度へ復帰がかなった市は他県産を市内で加工した「熟成肉」や、同じく他県産を市内で精米する「無洗米」などを返礼品として盛り返しをはかったのです。

 今回の変更で「熟成肉」と「精米」は大阪府でないとダメとなってしまいました。泉佐野市は露骨な狙い撃ち、あるいは仕返しと反発している状況です。

納税を促進するために設けた制度で抑制をはかる

 値上げの理由となった「経費は寄付額の5割以下」の厳格化とは「ワンストップ特例制度の関連書類や受領証の発送費用など」も経費とせよとのお達し。「ワンストップ特例制度」とは先述した確定申告不要と同義。「不要とするための事務経費」は当然発生します。これも「5割以下」に含めよと。

 ふるさと納税を促進するために設けた制度で抑制をはかるというのはつじつまが合わないという声も出ています。

マイナスサム・ゲームという致命的な弱点

 何だか進めたいのか抑えたいのかわからない「ふるさと納税」。根本に横たわるのが自治体の独自財源が平均して3割から4割程度しかないという実情です。

 地方自治体は水道、公立学校、介護、警察など身近なサービスを担う大切な役割を負っています。本来ならば独自財源でまかなえない自体が大問題。

 さらに東京都のような富裕な自治体と、そうでないところの格差が生じています。住む場所によって著しく環境が異なるのは望ましくありません。「ふるさと納税」制度がこうした差を埋めるアイデアであったのは前述の通りです。

 ただ、元々不十分な独自財源をふるさと納税で増やす自治体があれば、その分だけ必ず損をする自治体が出てくるゼロサムどころかマイナスサム・ゲームという致命的な弱点を抱えています。

 したがって次のようにもいえましょう。上限があるとはいえ地方税をどこへ納めるかという制度であるため、争奪戦に陥るだけで地方間格差の是正に直接つながらないと。

期待できる「地場産品」があれば、それで税収増をはかれる

 次に総務省など国と地方の関係について。2000年施行の地方分権一括法で両者は「対等」と明らかにされました。言い換えると「上下」でないと。

 泉佐野市の裁判もこの点が争われました。自治体が努力して財源確保をはかっているのに国(総務省)がいちいち横やりを入れて、あげくの果ては排除するのは上から目線で「対等」にはほど遠いのか。泉佐野市の高額ギフトなどのやり方に節操がなく、また本来は対価を求めないのが寄付であり、国が一定の機能を果たすべき案件であったのか……など。

 「地場産品」に限るといわれても、寄付が大いに期待できるほどの産品があるならば元々それで税収増をはかれるはずで絵に描いた餅ともいえるし、寄付の原則を押し通さず返礼品が競い合う制度設計をしたのは国ではないかという意見がある半面で、無節操なふるまいは地道に努力している自治体に失礼で、かつ実害すら与えかねないともいわれます。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

坂東太郎の最近の記事