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【ブラック校則】私立学校は子どもの権利が軽視されたままで良いのか?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

大幅に改善の方向となった教師用の生徒指導に関するガイドブックにあたる「生徒指導提要」(改定試案)。

「ブラック校則」見直しへ、大幅に改善した文科省「生徒指導提要」(改定試案)。課題は現場への浸透か(室橋祐貴)

一番の課題は、この「生徒指導提要」(改定試案)に記載されている内容がどこまで現場に理解されるかだ、としたが、もう一つ大きな課題がある。

それが私立学校がどうなるか、だ。

「生徒指導提要改定試案」について記事を出した後、さっそく中部地方にある私立高校の新入学生からこうしたメールも届いている。

私はこの春、私立の高校へ進学します。以前高校のオリエンテーションでツーブロ禁止って言われました。私は、この校則は人権侵害にあたると考えてます。この校則があることで、本当の自分を表現出来なくて本当に悲しいです。なので、今の現状を強く発信して下さい。お願いします!

2021年6月、文部科学省が校則見直しを関係各所に通知した際には、「各都道府県私立学校主管課」も含まれており、私立学校も対象となっている。

しかし、教育委員会の管轄にないこともあって、動きは比較的鈍い。

(1)首長と教育委員会との関係を見直す際の視点

地方自治体における行政責任は,その多くは首長が負っているが,教育に関する事務については,主に首長から独立した教育委員会が責任を負っている。(中略)

 一方,教育事務の中でも大学に関するものや私立学校に関するものは,首長の権限と責任の下に置かれている。これは,大学については,いわゆる「大学の自治」を実現するための学内組織が置かれ,その管理運営について高い独立性が保たれているからと考えられる。

 また,私立学校については,公立学校と異なり,学校の設置・運営は自治体が提供するものではなく,民間の学校設置主体である学校法人等によって行われ,建学の精神に基づき特色ある教育活動が展開されている。私立学校の自主性を最大限尊重し,私学振興を図る観点から,教育委員会は私立学校の所轄庁とはされなかったものと考えられる

引用元:文部科学省「2.教育委員会の在り方 4 首長,議会と教育委員会との関係の改善」

私立学校は首長部局が担当部署となっており、「自主性の最大限尊重」の観点からも、自治体の私立学校に対する指導・助言は、公立に比べて弱い。

この間、教育委員会から各学校への通知やガイドライン作成などがなされたが、その宛先は県立・市立学校等の公立宛となっている。

これまでも筆者のもとには、私立でひどい校則や決まりが残っている旨の連絡を度々もらってきた。

特殊性も高く、学校名がわかりやすい事例も多いため、一つ一つ紹介はしないが、私立学校の方が対応が遅れている可能性は高い。

「私学の自由」によって、子どもの権利侵害は正当化されるのか?

生徒による自主的な選択や、私立学校の「自主性」によって、比較的厳しい決まりが許容されてきた私立学校。

しかし、私立学校とはいえ、公教育の一環であることには変わりない。

私立学校法はその目的を「私立学校の特性にかんがみ、この自主性を重んじ、公共性を高めることによって、私立学校の健全な発達を図ること」(同法第1条)と定めています。(中略)

 一方、私立学校といえども公教育の一翼を担っている点においては国公立の学校とかわりなく、「公の性質」(教育基本法第6条第1項)を有するものとされています。この観点から私立学校にも「公共性」が求められており、私立学校法は私立学校の「公共性」を高めるため、私立学校の設置者として旧来の民法の財団法人にかわって学校法人という特別の法人制度を創設し、その組織・運営等について次に述べるように民法法人と異なる法的規制を加えています。

 私立学校はその自主性を尊重するとともに、公共性にも十分配慮することにより、その健全な発達が期待されているものです。

引用元:文部科学省「私立学校法」

であれば、最低限の学習権の保障、子どもの人権への配慮は当然守られるべきではないだろうか。

日本が1994年に批准している、国連「子どもの権利条約」は、通っている学校にかかわらず、全ての子どもの権利保障を定めたものである。

第28条2項(学校の規律)は、公私関わらずすべての学校に適用される。

第28条

2 締約国は、学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。

引用元:「児童の権利に関する条約」

私立学校だけが「治外法権」となり、子どもの権利を侵害しても良いと考える十分な根拠ははたしてあるのだろうか。

文部科学省「生徒指導提要」は、公立私立問わず、生徒指導のガイドラインとなっており、今後はより一層、子どもの権利を保障していくことが重視される。

公立学校に通う生徒だけでなく、私立学校に通う生徒の権利も保障し、生徒の自由を保障する。

そのためにも、文部科学省「生徒指導提要」(改定試案)に明記されている、子どもの権利保障を最低限の守るべき基準とし、人権侵害にあたるような髪型、服装の強制などは全ての学校においてやめるべきではないだろうか?

具体的な基準については、熊本市教育委員会がまとめている「校則・生徒指導のあり方の見直しに関するガイドライン」の、必ず改定すべき規定が参考になる。

今回、熊本市立小中学校の管理運営に関する規則等を見直し、校則を「必要かつ合理的な範囲内」で制定することとしました。①~③に該当する規定については、各学校において必ず改定して下さい。④の規定については、各学校において見直して下さい。

これ以外の規定については、各学校において話し合いの上、最終的には校長の判断によって決定して下さい。

① 生まれ持った性質に対して許可が必要な規定

(例)地毛の色について、学校の承認を求めるもの 他

② 男女の区別により、性の多様性を尊重できていない規定

(例)制服に男女の区別を設け、選択の余地がないもの 他

③ 健康上の問題を生じさせる恐れのある規定

(例)服装の選択に柔軟性のないもの、選択の余地がないもの 他

④ 合理的な理由を説明できない規定や、人によって恣意的に解釈されるようなあいまいな規定

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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