「ポプテル」「キャンディパフェ」、進化するアイスキャンディーの食べられ方
アイスキャンディーの流行
「グランド ハイアット 東京の熱い「冷たいデザート」」でも紹介したように、今年の夏も、かき氷が流行しています。かき氷はまだまだ人気ですが、これとは別に、今まさに流行しようとしているものがあります。
それは、アイスキャンディーです。
アイスキャンディーとは
まず改めて、アイスキャンディーとは何かを考えてみましょう。
定義をみてみると、アイスキャンディーのポイントは長い形状になっているということです。そして、ほとんどの場合はアイスキャンディー自体に棒が刺さっており、それを手に持って食べるようになっています。
ガリガリ君
アイスキャンディーの中で、日本で最も有名なものと言えばやはり、赤城乳業が1981年から発売し、誰もが子供の頃に一度は食べたことがある「ガリガリ君」ではないでしょうか。つい先日もニュースで大きく取り上げられたばかりです。
ガリガリ君は1981年に50円で発売され、1991年に60円に値上げされた後、25年という長い歳月を経て、2016年4月1日の出荷分から10円値上げされて70円になりました。この時代で70円というのはまだまだ安い値段ですが、値上げしたことに対して、赤城乳業の社員が謝罪するテレビCMがが放送され、これが大きな反響を呼びました。ニューヨークタイムズで紹介されるまでに至り、ガリガリ君のリーズナブルな価格や長い歴史に対して再び焦点が当てられたのです。
この宣伝効果もあり、結果的には、値上げをしたものの、売上だけではなく販売数までも前年比10%増えました。
PALETAS(パレタス)
ガリガリ君とは反対に、ここ数年に新しくオープンして話題となっているアイスキャンディーショップが「PALETAS(パレタス)」です。2013年に鎌倉でオープンしてから順調に店舗を増やし、今では吉祥寺、桜木町、東京ミッドタウン、代官山にショップがあります。
旬の時期に収穫される新鮮なフルーツを、果汁やジェラート、ヨーグルトなどに閉じ込めたフローズンフルーツバーを発売しています。産地や生産者にこだわったフルーツを使ったこと、フルーツが凍っていても柔らかく食べられる技術を開発したことが人気を博した理由です。
食味のよさに加え、日本人に親しみのある棒状で気軽に食べられるアイスキャンディーにしたことも人気の要因になっているのではないでしょうか。
コールド・ストーン・クリーマリー
「コールド・ストーン・クリーマリー」はマイナス9度の冷たい石の上で、アイスクリームを作って提供しています。アイスクリームに様々なアイテムを合わて混ぜ合わせるというシステムがとても新鮮でした。これに加えて、スタッフが陽気に歌うパフォーマンスが受けて、2005年に六本木ヒルズにオープンしてから破竹の勢いで拡大していったのです。現在では北海道や沖縄にも店舗があり、日本全国で30店舗程度となっています。
そして、このコールド・ストーン・クリーマリーでも、2015年夏に「コールドストーン アイスキャンディー」を発売しました。様々なアイテムを組み合わせて新しい味を作るという従来の特徴を引き継いだまま、食べ易くてポップな棒状のアイスキャンディーに仕上げたのです。コールドストーン アイスキャンディーは好評だったので、今年2016年夏も引き続き発売されています。
アイスクリームにこだわってきたコールド・ストーン・クリーマリーが、アイスキャンディーの商品を開発したことは大きな転換であると言えるでしょう。
アイスキャンディーの変化
ここまで最近のアイスキャンディー事情をみてきましたが、実は今年になって、アイスキャンディーがさらに大きな飛躍を遂げています。
アイスキャンディーの食べられ方が新しくなっているのです。アイスキャンディーをただそのまま食べるのではなく、他の何かに加えることによって、新たな価値を創出しているのです。
ウェスティンホテル東京「キャンディパフェ」
ウェスティンホテル東京のロビーラウンジ「ザ・ラウンジ」では2016年7月1日~8月31日にかけて、「キャンディパフェ」5種類を提供します。「デザートブッフェの新スタイル「オーバーミックス・スイーツ」に注目せよ」でも紹介したエグゼクティブペストリーシェフ鈴木一夫氏によって創作された新しいタイプのパフェなのです。
キャンディパフェとは
キャンディパフェとは、ホテルメイドのアイスキャンディーが付いた見た目もポップなパフェ仕立てのデザートです。
- マンゴー&バナナヨーグルト
バナナヨーグルトシャーベットアイスキャンディー
- フリュイルージュ
赤いベリーのアイスキャンディー
- 黒豆&抹茶
あずきアイスキャンディー
- トロピカルフルーツ
ライチアイスキャンディーアイスキャンディー
- チョコレートバナナ
クレミアのソフトクリーム
パフェは数年前に流行して、多くのカフェやパティスリーで提供されましたが、ここ2、3年は落ち着いた感がありました。
しかし、ここにワンポイントになるアイスキャンディーを加えただけで新しいデザートとして生まれ変わっています。
棒状のアイスキャンディーがパフェに刺さっているだけで、高さが生まれて凹凸ができるので見た目の引きが強くなります。スプーンですくって食べるだけではなく、アイスキャンディーを手に取ってソースなどに付けて食べる楽しさもあります。見た目も食べ方も新しい要素が加わっているのです。
また、チョコレートバナナだけは他とは違い、アイスキャンディーではなく、ウェスティンホテル東京が力を入れている高級ソフトクリーム「クレミア」を使用しています。
キャンディパフェが生まれた理由
鈴木氏は前述のガリガリ君が世の中で注目されていること、さらにはアイスキャンディーは幅広い層に受け入れられていることから、アイスキャンディーを何かのデザートに利用できないか考えました。鈴木氏は「デザートブッフェの魔術師」であるだけに、当初はまずデザートブッフェにアイスキャンディを利用できないか考えましたが、今の設備では状態の管理や美しく見せることが難しいので断念しました。
そこでまだ人気のあるパフェへのアクセントとしてアイスキャンディーを加えることを考えついたのです。
アイスキャンディーは全部で10種類以上の中から4種類を選び出し、そこからパフェを組み立てました。また、普通のパフェグラスでは高さがありすぎてバランスが悪いので、通常のパフェグラス以外で、15種類ものグラスを試してみて、それぞれのパフェに相応しいグラスを選び出したのです。
その結果、アイスキャンディーが融合された、新しいパフェが生まれるに至ったのです。
コンラッド東京「ポプシクル・カクテル(コンラッド・ポプテル)」
コンラッド東京のバー&ラウンジ「トゥエンティエイト」では2016年7月1日~8月31日にかけて、ヘッドソムリを務める森覚氏が、高級シャンパーニュメゾンである「ヴーヴ・クリコ」の「リッチ」を使って「ポプシクル・カクテル(コンラッド・ポプテル)」を生み出しました。
森氏と言えば、2008年の第5回全日本最優秀ソムリエコンクールや2009年の第1回アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクールなど数々の権威あるワインコンクールで優勝し、日本でも有数のソムリエのうちの一人です。
この森氏が考案したポプテルとはどういったものでしょうか。
ポプテルとは
英語の「popsicle」=「ポプシクル」はアイスキャンディーのことなので、ポプシクル・カクテルは「アイスキャンディーのカクテル」になります。森氏が、シャンパーニュ「リッチ」の心地良い甘さを引き立てるために、以下3種類のポプシクルをペアリングしたカクテルが、ポプテルなのです。
- ピンク
ピタヤ、ラズベリー、チアシード。ピタヤ、ラズベリーにチアシードが入ってヘルシー
- イエロー
夏みかん、柚子、マヌカハニー。夏みかんと柚子にマヌカハニーでほのかな甘さをプラス
- グリーン
梅、シソ、梅みりん。食感が楽しい梅の甘露煮と爽やかなシソに梅みりんが隠し味
ポプテルは、ブルゴーニュグラスにシャンパーニュを注ぎ、さらにポプシクルを入れてサーブされます。シャンパーニュグラスではなくブルゴーニュグラスが使われているのは、ポプシクルの出し入れを容易にするためです。
ポプテルにはたくさんの楽しみ方があります。シャンパーニュだけを飲むことはもちろん、ポプシクルだけを食べたり、それらを交互に味わったりできます。さらには、ポプシクルを溶かしてシャンパーニュカクテルとして楽しむこともできるのです。ポプシクルが溶けていく段階によってシャンパーニュカクテルの味わいが無限に変わっていくので、好みの味を探す楽しみもあります。
ポプテルが生み出された理由
では、このように斬新なポプテルはどのようにして生み出されたのでしょうか。
プロモーションの観点からすると、夏のプロモーションに向けてエッジの効いたものを出したいという考えがありました。ただ、森氏は、巷ではミクソロジーが巷で流行しているものの、それだけでは同じものなので面白くないと判断しました。さらには、スイカバーがシャンパーニュに合うことを発見したことから、夏だけに発売される「リッチ」にポプシクルを合わせることを考案したのです。
もちろん、物珍しいだけでありません。「リッチ」は甘いので、ポプシクルで酸を足して味のバランスがちょうどよくなるように、味をデザインしました。3種類のポプシクルそれぞれに特徴を持たせ、「ピンク」はスムージーのようにしっとりとした仕上がりに、「イエロー」はミモザのようなさっぱりとした味わいに、「グリーン」はシソのザクザクした食感を楽しめる和洋折衷にと、ポプテルの世界観を広げたのです。
ポプシクル自体にもこだわりがあります。ポプシクルはそれ自体がおいしくなければならないこと、および、シャンパーニュに合わせるために少しかためでなければならないことから、コンラッド東京のペストリー部門がオリジナルで作ったのです。スーパーフードや高級食材も使われており、これまでのアイスキャンディーを超越したものになっていると言えるでしょう。
アイスキャンディーを使った全く新しいポプテルに関して森氏は、「既に来年ご提供したいポプテルのアイデアはある。フレーバーや形を変えることによって、また新しいポプテルを創り出したい」と、ポプテルのさらなる可能性を示唆します。
アイスキャンディー
アイスキャンディーのよいところは、長く日本文化へ浸透した「親しみ」、および、棒を持って片手で食べられる「器用さ」でしょう。
そのため、パフェキャンディやポプテルのように、他の何かに加えても、親しみがあるので違和感がなく、かつ、器用なので様々な食べ方に応用できるのだと私は考えています。
1905年にサンフランシスコで11歳のフランク・エパーソン氏がソーダを寒空の下に置き忘れたことによってアイスキャンディーというデザートが生まれましたが、これとは反対に、キャンディパフェやポプテルはアイスキャンディーを意図的に昇華させて新しく創り上げたものであり、このうっかりから始まったアイスキャンディーの歴史が意図的に転機を迎えていることを鑑みると、食文化の歴史はつくづく興味深いものだと思うのです。
元記事
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