デザートブッフェの新スタイル「オーバーミックス・スイーツ」に注目せよ
ポストパンケーキ
「ドミニクアンセルベーカリー上陸。ハイブリッドスイーツとは何ものなのか?」でもご紹介したように、最近話題となっているスイーツはドミニクアンセルベーカリーのクロナッツです。クロナッツはドミニクアンセルベーカリーが得意とするハイブリッドスイーツの中でも代表的なもので、メディアでもよく取り上げられています。
「【ポスト・パンケーキ】スイーツブームの兆しを知る」で取り上げたように、パンケーキの後はなかなかブームが訪れませんでした。今年に入ってから、パンケーキを主力とする店はオープンしているものの、エッグスンシングスやbillsといった既存店を脅かすような存在はありません。
全体的にパンケーキは以前に比べると注目度は小さくなり、そろそろポストパンケーキが台頭してくる思っていたあたりで、前述のクロナッツを始めとするハイブリッドスイーツが主役に踊り出たのです。
ハイブリッドスイーツ
ハイブリッドスイーツは定義がはっきりしておらず、それが問題になると述べたこともありますが、主な特徴を挙げると「複数のスイーツを合わせたスイーツ」といったことになるでしょう。例えばクロナッツの場合にはクロワッサン+ドーナツというように、複数のスイーツをひとつのスイーツとして作り上げます。
ハイブリッドスイーツのよいところは、全く新しいスイーツを生み出すさずとも、既存のスイーツの意外な組み合わせから新しい価値を創出し、注目や関心を引き付けられるところです。
そしてここにきて、このハイブリッドスイーツの「合わせる」というスタイルを押し進めて、さらに新しいスイーツが現れました。
それは「予約が取れないワールドチョコレート・デザートブッフェの秘密」でもご紹介した、ウェスティンホテル東京「ザ・テラス」のデザートブッフェで提供されている「オーバーミックス・スイーツ」です。
オーバーミックス・スイーツとは、どういったスイーツなのでしょうか。
2段に重ねられたヴェリーヌ
オーバーミックス・スイーツはグラスを2段に重ねたヴェリーヌ(グラスデザート)で、片方がスイーツ本体になっており、もう片方がソースやシロップになっています。食べる直前に、ソースやシロップをスイーツ本体に加えて食べるというスタイルです。
スイーツ本体とソースやシロップが分離したものと言えば、例えばラム酒シロップをスポイトに入れて提供されるババ オ ラムがあります。しかし、これはどちらかと言うと、ラム酒シロップのボリュームを調整できるようにすることが目的であり、オーバーミックス・スイーツのように直前に仕上げることが目的ではありません。
優れた点
オーバーミックス・スイーツは上層と下層に分かれており、2段に重ねられた姿は興味深いものですが、見た目のインパクトだけを追求するために生まれたものではありません。
以下の3点が優れています。
- ソースやシロップをかけ忘れない
- 最高の状態で食べられる
- 楽しみを広げられる
オーバーミックス・スイーツが優れている点はまず、本体のグラスとソースやシロップのグラスが一体化していることです。これによってソースやシロップをかけ忘れることがありません。デザートブッフェでは、次はどのスイーツを取ろうかと考えているとソースやシロップをかけ忘れるということがありますが、この課題を解決しています。
次に優れている点は、エグゼクティブペストリーシェフ鈴木一夫氏が説明するように「ソースやシロップを予めかけていると、水分を吸ってベタっとなってしまう。しかし、お客さまが召し上がる直前にかければ、サクサク感やカリカリ感を残すことができる」ことです。アシェットデセールであれば、直前に全てを仕上げて最高の状態で提供できるので問題ありませんが、ブッフェ台に置かれるスイーツは並べられてからすぐに取られるわけではないので、最高の状態で食べられるとは限りません。しかし、オーバーミックス・スイーツであれば、ブッフェであっても常に最高の状態で食べられるのです。
最後の点としては、食べる楽しみが広がることです。オーバーミックス・スイーツはソースやシロップをかけるタイミングを自由に決められるので、スイーツ本体、および、ソースやシロップをそれぞれ味わってから、2つを合わせて食べることができます。これによって、1つのスイーツで3度も楽しめるのです。
スフレに続いて革新を起こす
ザ・テラスのデザートブッフェでは、テーブルへサーブされる特製スフレが定番となっています。今でこそ多くのホテルのスイーツブッフェでスフレが提供されていますが、実はこのザ・テラスが先駆けでした。
スフレはすぐにしぼんでしまうので、通常ブッフェ台へ並べておくことができません。しかし、鈴木氏はどうしてもスフレを提供したいという一心で、焼いた後すぐにテーブルへサーブするようにして実現したのです。スイーツブッフェでありながら、わざわざスイーツをサーブするという発想は、当時では非常に画期的なことでした。
これと同じように、オーバーミックス・スイーツもブッフェの欠点を補うために生まれた渾身のスイーツであったと言えるでしょう。
最初のオーバーミックス・スイーツ
オーバーミックス・スイーツは2015年5月から6月に行われた「ワールドチョコレート・デザートブッフェ」で、初めて現れました。
その時のメニューは以下の通りです。
- エキゾチックフルーツとチョコレートのスープ
上段がエキゾチックフルーツ、下段がチョコレートのスープ
- スパイシーチョコポット ポップコーン添え
上段がキャラメルポップコーン、下段がスパイシーチョコレート
- チョコレート豆かん
上段がチョコレートソース、下段が豆かん
これら3つのオーバーミックス・スイーツはそれぞれ、エキゾチックフルーツ、ポップコーン、豆かんをそのまま食べてもおいしく食べられます。その上、さらにソースやシロップを加えると味も変わってまた楽しめるのです。
スパイシーチョコポット ポップコーン添えは、最初からスパイシーチョコレートがかけられた状態であれば、ポップコーンが水分を吸ってしまいサクサクの食感が失われていたところでした。しかし、オーバーミックス・スイーツとして提供したので、食べる直前にチョコレートをつけてサクサク感が残されるようになりました。
これは一見すると、ザ・テラスで人気の「チョコレートフォンデュ」でも同じことを実現できるように思えますが、チョコレートフォンデュの場合には、チョコレートに浸してからテーブルへ戻るまでに少し時間がかかってしまうので、オーバーミックス・スイーツの方がよりよい状態で食べられると言えます。
次のオーバーミックス・スイーツ
オーバーミックス・スイーツの手応えを掴むと、2015年7月から8月に行われている次フェア「トロピカルフルーツ&ワールドデザートブッフェ」でも、以下の通り、オーバーミックス・スイーツを提供しました。
- ココナッツ パンナコッタ チャイティータピオカ添え
上段がチャイティー、下段がパンナコッタ
- スイカとタピオカのピナコラーダソース
上段がスイカ、下段がタピオカのピナコラーダソース
ココナッツ パンナコッタ チャイティータピオカ添えは、上段のチャイティー タピオカ添えも下段のパンナコッタも、それぞれそのままおいしく食べられますが、この2つを合わせることによって、トロピカルフェアに相応しい新しいスイーツに仕上げています。
スイカとタピオカのピナコラーダソースは、始めからピナコラーダソースをかけてしまうとスイカの果汁が出てしまいますが、食べる直前にかけるのでスイカの食味を損ないません。
ワールドチョコレートフェアでは、チョコレートフェアで色々なものと相性がよいチョコレートソースを使ったものばかりだったので、まだミックスし易かったと思いますが、トロピカルフルーツフェアでは、トロピカルというイメージがないパンナコッタをトロピカル風に仕立てたり、もともとスイーツにしづらいスイカをスイーツに創り上げたりして、より難易度の高いオーバーミックス・スイーツを完成させたと言えます。
デザートブッフェにしかない価値を
オーバーミックス・スイーツは新しいスタイルのスイーツですが、鈴木氏はスイーツの販売を行っている「ウェスティン デリ」でラインナップされる予定はないと言います。2段に重ねているので、持ち運ぶための安定性を確保することが難しいという理由もありますが、上段と下段をテープで固定するなど、本気でやろうと思えば何とでもなることでしょう。
では、どうしてかと言うと、鈴木氏は「ウェスティン デリには早ければ昼過ぎには売り切れるシュークリームやスペシャルウェスティンプリンといった人気商品があるが、他ではご提供しない。それと同じように、オーバーミックス・スイーツはザ・テラスでだけご提供する。ブッフェにはブッフェに相応しいスイーツがあるので、そういったスイーツを常に創り続けていき、<プラチナのデザートブッフェ>へと昇華させていく」からであると力強く話します。
この言葉を咀嚼してみれば、今ここで注目しているオーバーミックス・スイーツでさえも、ザ・テラスのデザートブッフェが<プラチナのデザートブッフェ>へと高められていく過程において登場する、ほんのいちスイーツに過ぎないように思えます。
※<プラチナのデザートブッフェ>については「予約が取れないワールドチョコレート・デザートブッフェの秘密」をお読みください
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。
参考
すみれ草201にもザ・テラスが詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。