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各国で規制の動き「TikTok」の何がヤバいのか。最新研究から探る「アルゴリズム化された自己」

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 政治や社会に対するSNSの影響が問題視されている。動画配信サービスのTikTokも各国で規制の動きがある。最新研究から特にTikTokの何が問題なのか考えてみた。

TikTokの影響

 中国のベンチャー投資ブームにより多くのインターネット・サービスが現れ、時価総額10億ドル以上のいわゆる新興の「ユニコーン」企業が誕生したが、2012年に創立されたバイトダンス(ByteDance、字节跳动)もその一つだ。

 同社が、2018年頃から運用を始めたのが「TikTok」で、若い世代を中心に世界中で人気を博し、世界で10億人以上といわれるように同アプリのユーザーが爆発的に増えるにつれ、その機能に対する警戒感も出てきた。(※1)。

 TikTokが人気を集めた理由の一つは、直感的で素早く簡単なユーザーインターフェースにある(※2)。通常60秒以内の短い動画(没入感)、アルゴリズム連動型のお勧め(レコメンド)コンテンツ(パーソナルな使用感)、誰でも作れる簡単で魅力的なコンテンツ(自己表現)、ユーザー間のコミュニティ(特に社会的に疎外されたユーザーによる口コミを含む連帯感)、国境や言語を超越したグローバル性などが特徴だ。

 より強力なフィルターバブル(お勧め機能)やエコーチャンバー効果(似たような情報ばかり届けられ、自分の意見が正しいと信じてしまう効果)が特徴というわけだが、新型コロナのパンデミックによる環境変化がTikTokのユーザー数の増加に影響したのではという研究もある(※3)。

 もちろん、使い始めた初期のお勧めは人気コンテンツであったり、住んでいる地域に偏ったものだが、ユーザーが「いいね」をしたり、コンテンツとの間でインタラクションを始めるとTikTokのアルゴリズムが効力を発揮し、限りなく個々人の嗜好に沿ったお勧めをしてくるようになる。TikTokは他のSNSと異なり、優先されるお勧めは個々のユーザー固有のものであり、単に有名だから人気があるからといってお勧めしてくるわけではないのが特徴の一つだ。

中毒性への懸念

 TikTokの弊害への懸念は、次第に広がりをみせ、米国の13州の司法当局は2024年10月、TikTokが意図的に若者の使用依存を強化する設計になっているとバイトダンスを提訴した。実際、TikTokと中毒性についての研究は多い。

 極度な集中状態を理論化したフロー理論(※4)を用いた研究によれば、こうした動画を視聴したユーザーは、より楽しさを感じ、エンターテインメント性とトピックの速報性によってTikTokへの集中力が高まる。

 つまり、情報の質や洗練されたシステムという刺激、楽しさ、集中力、時間の歪みという生理的な影響、反復行動などにより、集中状態が高まって没頭し、TikTokの依存性と中毒性が高まると考えられている(※5)。

 TikTokはこれまでのSNSのプラットフォームよりも洗練され、FYP(For You Page、#FYP)などのより高度なお勧めアルゴリズムを使っているため、より正確でパーソナライズされたお勧め動画が出てくる。TikTokのアルゴリズムは、ユーザーの基本情報や視聴の好みを特定した後、使えば使うほど、より魅力的な動画をお勧めに出し、タイムリーな情報を提供し、中毒性を増していく。

 これを「アルゴリズム化された自己」と呼ぶ研究者もいる。他のSNSでユーザーは「ネットワーク化された自己」と向き合うが、TikTokユーザーはさらにパーソナライズされたアルゴリズムによって、自分が持つ多様なイメージに繰り返し向き合うことになる。また、このアルゴリズムを通じ、同じようなユーザーとつながりのある体験をし、疎外感から脱したような気になる(※6)。

 アルゴリズム化された自己については、AIによるTikTokの画像フィルター(いわゆる盛れるエフェクト)の機能も大きな役割をになう。特に、女性のボディ・イメージとの関係で懸念する研究も多く、自分のイメージを美化し、拡大し、実際のイメージから離れてしまうことで現実の人間関係に悪影響をおよぼす危険性があると指摘する研究者もいる(※7)。

 TikTokでは、こうしたフィルターやエフェクト、フリー音源などが用意され、誰でも魅力的な動画コンテンツを作成することができる。こうした汎用性の高いコンテンツ作成機能により、ユーザーは他者のコンテンツを楽しんだり、自分で投稿したコンテンツを広めたりし、パーソナライズされたアルゴリズムによってTikTokの中での自己を拡大する。

TikTokのビジネス展開

 ところで、日本では2022年、TikTokが不適切な宣伝(ステルス・マーケティング)を繰り返していたことが判明して問題視され、TikTokを運営するバイトダンスの日本法人は、同社サイトで謝罪した。広告業界団体の自主指針はこうしたステルス・マーケティングを禁止しているが、バイトダンスの日本法人は、SNSのtwitter(現X)のインフルエンサーに報酬を支払い、指定した動画をあたかも一般からの投稿のように紹介させていた。

 これは当初、歌やダンスが中心だったTikTokを、マーケティングツールとして商業利用する動きが活発化し始めたことが背景にある。TikTokのコンテンツの再生はループ型と呼ばれ、過去コンテンツでも繰り返し、お勧めに出てくる仕様になっており、「いいね」やコメント、シェア数、視聴維持率などの操作により、再生回数を稼ぐことができる(※8)。

 SNSの利用にはいろいろな目的があるが、TikTokを快楽消費体験という観点から分析した研究もある。快楽消費体験は、そのサービスを消費することを目的とし、それによって快楽を得るような体験のことだ。

 快楽消費体験には、空想、現実逃避、楽しみ、役割投影、感覚、覚醒、感情的関与といった感覚と感情の要素があるが、質的データを数量化してTikTokのユーザーを分析したところ、現実逃避、役割投影、覚醒、感覚、楽しみが影響をおよぼし、空想や感情的関与の影響は強くなかった(※9)。つまり、TikTokのユーザーを快楽消費体験からみることで、現実逃避や役割投影、機能性を重視する(空想の軽視)ことがわかる。

政治や選挙への影響

 TikTokは、登録時にユーザーが許諾すれば位置情報や友人の連絡先、ネットの閲覧や検索履歴などを収集できるような仕様になっている。

 このことから米国は当時のトランプ政権が中国への情報漏洩の危険性などをかんがみ、2020年にTikTokの規制に動き始め、バイデン政権下の2023年、連邦政府が所有する端末でTikTokの禁止法案が採択された。また、EUの欧州委員会やカナダ政府も職員や公用端末でのTikTokの使用禁止へ動く。

 米国メディア(Forbes)の報道によると、TikTokを運営するバイトダンスが米国人記者の個人データを取得し、監視していた疑いがあるとし、米国FBI(連邦捜査局)などが捜査を始めた。一方、バイトダンスはその報道内容を否定している。

 米国では表現の自由やあまりにも増えすぎたユーザーへの影響などとの兼ね合いもあり、米国議会の公聴会でバイトダンスのCEOが情報漏洩の事実はないことや規制強化への懸念を示し、米国政府や議会とバイトダンスの主張が平行線をたどってきた。

 だが、2024年3月には米下院でTikTok禁止法案が可決され、同年12月に米国の連邦控訴裁判所はTikTok規制法は合憲と判断したが、バイトダンス側はその後、最高裁へ判断を委ねている。

 日本の自民党も2020年、ルール系性戦略議員連盟が主にTikTokについて中国製アプリへの規制を政府に提言する動きを見せた。また、埼玉県や神戸市、大阪府などの地自体もTikTokの公式アカウントを利用停止にし、逆にTikTokの影響力の大きさが周知されるようになる。

 各国でTikTokが選挙の不正に使われるという疑念も生じてきている。2024年11月に行われたルーマニアの大統領選挙では、極右候補者の支援キャンペーンにTikTokのインフルエンサーを利用し、投票行動に影響をおよぼしたことが疑われ、選挙が無効になった。英国BBCによれば、この工作の背後にはロシア政府が介在しているとされている

 このようにTikTokが政治的なコミュニケーションのツールとして活用される事例は増えてきている(※10)。

 2022年の選挙運動を分析したスウェーデンの研究によれば、TikTokは右派と親和性が高く、ユーザーが右翼的な政治アピールに共感することがわかった(※11)。また、アフリカのジンバブエで2023年に行われた総選挙では、TikTokがそのエンターテインメント性を政治的なメッセージと組み合わせて利用されている(※12)。

 極右が台頭するような国では、民主主義が破壊され、人権の抑圧が行われ、報道の自由も侵害されるなどするため、国内が分断される(※13)。このことは、ロシアがルーマニアの極右候補へ支援した理由を裏付ける。

 また、極右勢力は一般的に既存のマスメディアに対して敵対的であることが多く(※14)、既存のマスメディアへの不信感を抱く有権者へTikTokは彼らの政治的なメッセージをパッケージできるうってつけのツールとなる。

 そして、TikTokユーザーが求める内容を提供することで、極右勢力はそれまでの悪魔的イメージを払拭し、分断ではなく融和というようにオブラートで包んだ政治的なメッセージをTikTokを使って発信することができるようになった(※15)。

日本もTikTokの規制へ動くか

 実際、TikTokのアルゴリズムは、ユーザーの言動を過激化させる。

 米国テキサス工科大学の研究グループによる分析では、TikTokのアルゴリズムはユーザーが何をいつ見たり聞いたりすることをコントロールし、デジタルの「ウサギの穴(Rabbit Holes)」に突き落とし、ユーザーはウサギの穴に入ったまま、TikTokが提示するコンテンツを無意識のうちに受け入れていくのだという(※16)。

 TikTokはロシア・ウクライナ戦争でも両国で活用され、特に音楽や歌などがお勧めシステムによって誤情報の拡散や自国のプロパガンダなどに使われている(※17)。ユーザーの中には誤情報を識別できず、無意識のうちに拡散してしまう危険性があり、特にTikTokは影響力の強い魅力的なコンテンツを作成できるツールなので注意が必要だ。

 もちろん、どんなツールも使い方次第で天使にも悪魔にもなる。世界各国のジャーナリストは、TikTokを含むソーシャルメディアを使い、一般ユーザーが作るものより魅力的で質の高い、誠実で信頼性に優れたコンテンツを提供しているのも事実だ(※18)。

 以上をまとめると、TikTokは影響力のある魅力的なサービスだが、エコーチャンバー効果が強く中毒性もあり、ステルス・マーケティングや政治での利用による影響が懸念され、各国政府は使用の規制に動いている。2024年にいくつかの選挙で日本でもTikTokを含むソーシャルメディアの影響が問題視され、2025年には議論が本格化しそうだ。

※1:Arif Perdana, S. Vijayakumar Bharathi, "Bytedance's global rise: An exemplar of strategic adaptability and digital innovation in a global context" Journal of Information Technology Teaching Cases, doi.org/10.1177/20438869231211598, 30, October, 2023

※2:Monika Stankova, "The Comparative Analysis of Social Media Platforms to Identify a Competitive Advantage of TikTok" International Journal of Arts and Commerce, Vol.9, No.5, May, 2020

※3:Jana Feldkamp, "The Rise of TikTok: The Evolution of a Social Media Platform During COVID-19" Digital Responses to Covid-19, 73-85, 11, March, 2021

※4:Namin Shin, "Online learner's 'flow' experience: an empirical study" British Journal of Educational Technology, Vol.37, Issue5, 705-720, 16, June, 2006

※5:Yao Qin, et al., "The addiction behavior of short-form video app TikTok: The information quality and system quality perspective" Frontiers in Psychology, Vol.13, doi.org/10.3389/fpsyg.2022.932805, 6, September, 2022

※6-1:Aparajita Bhandari, et al., "Why’s Everyone on TikTok Now? The Algorithmized Self and the Future of Self-Making on Social Media" Social Media + Society, doi.org/10.1177/20563051221086241, 22, March, 2022

※6-2:Angela Y. Lee, et al., "The Algorithmic Crystal: Conceptualizing the Self through Algorithmic Personalization on TikTok" Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction, Vol.6, Article No:543, 1-22, 11, November, 2022

※7:William Pendergrass, "Artificial intelligence and its potential harm through the use of generative adversarial network image filters on TikTok" Issue in Information Systems, Vol.24, Issue1, 113-127, 2023

※8-1:Ioannis Rizomyliotis, et al., "TikTok short video marketing and Gen Z's purchase intention: evidence from the cosmetics industry in Singapore" Journal of Asia Business Studies, Vol.18, Issue4, 23, July, 2024

※8-2:Congying Liu, et al., "The impact of TikTok short video factors on tourists’ behavioral intention among Generation Z and Millennials: The role of flow experience" PLOS ONE, 5, doi.org/10.1371/journal.pone.0315140, December, 2024

※9:Amir Zaib Abbasi, et al., "TikTok app usage behavior: the role of hedonic consumption experiences" Data Technologies and Applications, Vol.57, Issue3, 14, June, 2023

※10-1:Laura Cervi, et al., "TikTok and Political Communication: The Latest Frontier of Politainment? A Case Study" Media and Communication, Vol.11, No.2, 16, May, 2023

※10-2:Kalkidan Classen, et al., "Right-wing populist communication of the party AfD on TikTok: To what extend does the AfD use TikTok as part of its communication to win over young voters?" Social Science Open Access Repository, 100-122, 2024

※10-3:Nader Hotait, Rami Ali, "Exploring (Anti-)Radicalism on TikTok: German Islamic Content Creators between Advocacy and Activism" religions, Vol.15(10), 1172, 26, September, 2024

※11:Andreas Widholm, et al., "A Right-Wing Wave on TikTok? Ideological Orientations, Platform Features, and User Engagement During the Early 2022 Election Campaign in Sweden" Social Media + Society, doi.org/10.1177/20563051241269266, 12, August, 2024

※12:Oswelled Ureke, et al., "Politics at Play: TikTok and Digital Persuasion in Zimbabwe's 2023 General Elections" Africa Spectrum, Vol.59, Issue2, 2, May, 2024

※13:Hans-Georg Betz, "The Two Faces of Radical Right-Wing Populism in Western Europe" The Review of Politics, Vol.55, Issue4, 663-686, 5, August, 1993

※14:W Lance Bennett, et al., "The disinformation order: Disruptive communication and the decline of democratic institutions" European Journal of Communication, Vol.33, Issue2, 2, April, 2018

※15-1:Daniele Albertazzi, Donatella Bonansinga, "Beyond anger: the populist radical right o TikTok" Journal of Contemporary European Studies, Vol.32, Issue3, 673-689, 29, January, 2023

※15-2:Juan Manuel Gonzalez-Aguilar, et al., "Populist Right Parties on TikTok: Spectacularization, Personalizagion, and Hate Speech" Media and Communication, Vol.11, No.2, 16, May,, 2023

※15-3:Hendrik Meyer, et al., "Beyond Anti-Elitism and Out-Group Attacks: How Concerns Shape the AfD's Populist Representation on German TikTok During the 2024 European Elections" OSF PREPRINTS, doi.org/10.31219/osf.io/yk3u4, 6, November, 2024

※16:Donghee Shin, et al., "How Algorithms Promote Self-Radicalization: Audit of TikTok’s Algorithm Using a Reverse Engineering Method" Social Science Computer Review, Vol.42, Issue4, 30, July, 2024

※17:Marcus Bosch, Tom Divon, "The sound of disinformation: TikTok, computational propaganda, and the invasion of Ukraine" New Media & Society, Vol.26, Issue9, 30, August, 2024

※18-1:Agnes Gulyas, "Hybridity and Social Media Adoption by Journalists" Digital Journalism, Vol.5, Issue7, 884-902, 28, September, 2016

※18-2:Matthias Degen, et al., "The Tortured Journalists Department? Challenges and Characteristics of Quality Journalism on TikTok in Germany" emerging Media, Vol.2, Issue4, 8, December, 2024

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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