クリスマスに「要注意の病気」とは
クリスマスを含む年末年始の長期休暇が近づいている。この時期に気をつけたい突発的な病気や生活習慣について考える。
クリスマスには死亡率が高くなる
フランスの研究グループが、WHO(世界保健機関)の医薬品安全監視データベースを用い、クリスマスを盛大に祝う米国、フランス、ドイツ、イタリア、英国の5カ国の有害事象について分析したところ、クリスマス期間中の報告数が他の期間と比べ、有意に多かった(※1)。特に、薬物依存、感染症、皮膚疾患に関する医薬品の有害事象が目立ったといい、同研究グループはこの現象をクリスマス・シンドロームと名付けている。
クリスマス休暇から新年にかけての休暇中に、心臓病や呼吸器疾患、代謝異常、自然死などによる死亡率が高くなることが知られている(※2)。
この時期には、感情的なストレスが増え、ライフスタイルが変化し、服薬コンプライアンスなどが乱れるなどする。また、休暇中に治療を受けることを避け、病状が悪化することもあるが、この時期に医療機関のスタッフが少なくなり、チーム医療やシステムが断片化してしまうことも影響しているのではないかと考えられている(※3)。
餅の誤嚥に要注意
欧米ではクリスマス期間中の高カロリーで脂質過多の食事が健康へ悪影響をおよぼしているという研究があるが(※4)、日本でも年末年始には忘年回やクリスマスなどの会食の機会が増え、生活のリズムが乱れがちになる。例えば、正月に餅の誤嚥事故が増えることは有名で、餅の誤嚥による高齢者の窒息事故は正月三が日に特に多くなる。
もちろん、人間が口から物を食べたり飲んだりする以上、基本的に誤嚥のリスクは誰にでも必ずある。筆者には正月2日に誤嚥により36歳で亡くなった友人がいるが、高齢者にだけ起こる事故ではない。
誤嚥では予防することが重要となる。物を飲み込む(嚥下)する際、本来なら食道から消化器官へ送られるが、それが誤って気道へ入ってしまうことを誤嚥という。そのため、頭の位置や角度、姿勢などによって気道が閉鎖できず、これが誤嚥につながることが知られている(※5)。
高齢者の誤嚥予防には、食事する際の姿勢を起こす、起きてから覚醒する前に飲んだり食べたりしない、餅などくっつきやすい食べ物やパサパサして飲み込みにくい食べ物に注意する、などがある。また、笑ったりカラオケをするなどして、普段から嚥下機能を衰えさせないようにすることも大切だ(※6)。
社会経済的弱者へのケアを
そもそも気温が下がってくると死亡率が上がる。体温が下がると免疫機能も低下し(※7)、風邪、インフルエンザ、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎、喘息などの感染症を引き起こす細菌やウイルスは、体温より低い温度でより多く繁殖し(※8)、寒い時期に呼吸器感染症が増えることにも関係する(※9)。
もちろん、ヒトと社会は複雑であり、何か単独の原因が理由で病気になったり入院するわけではない(※10)。また、多くの患者は、単一の病気だけでなく複数の病気を持っているものだ(※11)。
一方、クリスマスから年末年始にかけての時期は、官公庁も休暇に入り、特に社会経済的な弱者に対するケアが少なくなる(※12)。貧困や低所得は健康格差につながるが、この時期にこうした人たちへ医療リソースを途絶えさせない施策が求められている。
※1:Alex Hlavaty, et al., "The Christmas adverse event syndrome: An analysis of the WHO pharmacovigilance database" Therapies, Vol.79, Issue6, 675-679, November-December, 2024
※2-1:David P. Phillips, et al., "Cardiac Mortality Is Higher Around Christmas and New Year's Than at Any Other Time" Circulation, Vol.110, No.25, 13, December, 2004
※2-2:David P. Phillips, et al., "Christmas and New Year as risk factors fro death" Social Science & Medicine, Vol.71, Issue8, 1463-1471, October, 2010
※2-3:Moman A Mohammad, et al., "Christmas, national holidays, sport events, and time factors as triggers of acute myocardial infarction: SWEDEHEART observational study 1998-2013" the bmj, Vol.363, 12, December, 2018
※3-1:Lauren Lapointe-Shaw, et al., "Death and redmissons after hospital discharge during the December holiday period: cohort study" the bmj, Vol.363, 10, December, 2018
※3-2:Cheng Xu, et al., "Radiotherapy interruption due to holidays adversely affects the survival of patients with nasopharyngeal carcinoma: a joint analysis based on large-scale retrospective data and clinical trials" Radiation Oncology, Vol.17, article number 36, 19, February, 2022
※4-1:Thomas C. Erren, et al., "Christmas and New Year "Dietary Titbits" and Perspectives from Chronobiology" nutrients, Vol.14(15), 3177, 2, August, 2022
※4-2:Irina Mihaela Abdulan, et al., "Winter Holidays and Their Impact on Eating Behavior - A Systematic Review" nutrients, Vol.15(19), 4201, 28, September, 2023
※5-1:O. Ekberg, "Posture of the Head and Pharyngeal Swallowing" Acta Radiologica, Vol.27, Issue6, November, 1986
※5-2:大前由起雄ら、「誤嚥防止に対する姿勢指導の有効性」、日本耳鼻咽喉科学会会報、100巻、220-226、1997
※6:辻村肇ら、「嚥下体操・カラオケ・笑いがもつ嚥下時間間隔の評価(第1報)─介護老人保健施設入所者を対象に」、作業療法ジャーナル、47巻、13号、1496-1501、2013
※7:Ellen F. Foxman, et al., "temperature-dependent innate defense against the common cold virus limits viral replication at warm temperature in mouse airway cells" PNAS, Vol.112, No.3, 5, January, 2015
※8-1:Mikolaos G. Papadopoulos, et al., "Rhinoviruses replicate effectively at lower airway temperatures" JOURNAL OF MEDICAL VIROLOGY, Vol.58, Issue1, 100-104, May, 1999
※8-2:Tiina M. Makinen, et al., "Cold temperature and low humidity are associated with increased occurrence of respiratory tract infections" Respiratory Medicine, Vol.103, Issue3, 456-462, March, 2009
※9:Miyu Moriyama, et al., "Seasonality of Respiratory Viral Infections" Annual Review of Virology, Vol.7, 83-101, 20, April, 2020
※10:Tim Wilson, et al., "Complexity and clinical care" the bmj, Vol.323, 22, September, 2001
※11:Aditya Samitinjay, et al., "Understanding clinical complexity in organ and organizational systems: Challenges local and global" Journal of Evaluation in Clinical Practice, Vol.30, Issue2, 316-329, March, 2024
※12:Marco Vincenzo Lenti, et al., "Clinical complexity and hospital admissions in the December holiday period" PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0234112, 11, June, 2020