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「ネットで誹謗中傷」を繰り返す「ダークトライアド」な人たちを考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 匿名のSNSなど、ネット上で誹謗中傷を繰り返す人々が後を絶たない。根も葉もないウワサを真に受けて拡散したり、他者を冒涜するような罵詈雑言を浴びせ続ける人々。最新の研究では、これらの言動とダークトライアド(Dark Triad)という心理学的な性格との関係が注目されつつある。

ダークトライアドな人とは

 他者や組織などに対し、ネット上で誹謗中傷や罵詈雑言を続けるユーザーが増えている。これはインターネットの負の部分であり、埼玉県川口市の外国人差別や兵庫県知事選などでも問題視されている社会課題だ。

 こうした言動をしやすい人の性格的な特徴として、ダークトライアドという心理学的な概念がある。

 ダークトライアドはカナダの研究者が提唱した概念で、社会に対して嫌悪感と憎悪を抱き、反社会的な性格を形成する3つの要素、サイコパシー(精神病質)、マキャベリズム、過大な自己愛(誇大ナルシシズム)を持つ人のことだ。また、最近ではこれにサディズムを加えた4つ、ダークテトラッドという概念を提唱する研究者も出てきている(※1)。

 サイコパシー(精神病質)は、自己中心性、反省の欠如、冷淡さ、共感の欠如、人間関係を長く保てない、反社会的で無秩序な言動といった特徴を持つ性格だ(※2)。

 マキャベリズムは、成功を収めるためには他者を操ることを重要視し、自分の利益だけを考えて利己的な行動をしがちな人の性格に反映される。また、過大な自己愛は、他者から注目を集めたいという強い欲求、極端な虚栄心、自己中心制、搾取性などが特徴だ(※3)。

 サディズムは、サイコパシー、マキャベリズム、過大な自己愛と相互に関係し、共感の欠如による他者や動物などへの過度な加虐性、根拠のない攻撃性などの性向を持つ。そしてサディズムは、3つのダークトライアドと無関係にこれらの性格を持つ人の反社会性行動を予測すると考えられている(※4)。

 一方、ダークトライアドの性格が弱く、誠実さ、協調性、他者への共感といった性格が強い人は、こうした言動への抑止効果を持つようだ。

ダークトライアドの人がネット上でおよぼす影響

 もちろん、これらの特徴は大なり小なり、多くの人が持っているとの指摘もある(※5)。誰しも虚栄心があり、自己中心的であったり、攻撃的な要素を性格に持っているが、これらが性格分析でいずれも極端に強い場合、ダークトライアド(ダークテトラッド)な性格である危険性が高い。

 こうした人は、性格的に社会的に阻害されて居場所を失い(村八分、Ostracism)、社会へ不満を抱きがちだ。

 そして、インターネットが発達すると、SNS依存症などに陥ってネット上に流れてくる情報に影響され、匿名で他者や組織などへ誹謗中傷や罵詈雑言を繰り返すようになる。(※6)。

 新型コロナのパンデミックで自宅に引きこもりがちになり、他者との社会的な関係が希薄になった人も多い。情報をネット上から得ることが増え、既存のマスメディアに対する不信感も醸成され、中には陰謀論に影響される人もいる。

 ネット上に拡散される真偽不明の情報を信じ込み、それをSNSなどでさらに拡散する役割を担うようになる人も少なくなく、他者の視線がない匿名の情報流布ではそれがより加速される(第三者効果の減少)。

 ダークトライアドは、あくまでそれぞれの性格の指標だ。しかし、こうした性格がネット上の陰謀論と相互作用し、誤った情報を拡散することにつながれば社会に悪影響をおよぼしかねない(※7)。

 ただ、ダークトライアドとネット上の攻撃性の関係については諸説あり、サイコパシー(精神病質)や過度な自己愛が攻撃性を予測するという研究もある(※8)。なぜなら、マキャベリズムは特にプライベートな場面では、むしろ外面がいいという意味で人間関係に良好に作用するためだが、ダークトライアドが陰謀論の影響を緩和するという研究もある(※9)。

 もちろん、中には意図的かつ確信的、偽悪的に嘘の情報を流すような人も少なくない。こうした人は、特にマキャベリズムの性格が強いと考えられている(※10)。

疎外感に陥らせない施策の必要性

 ヒトの性格は複雑で単純な指標で評価はできない。ダークトライアドという性格でも、例えば過度な自己愛は自己肯定感につながり、それは陰謀論に陥ることを防ぐ効果がある一方、むしろ逆に陰謀論的なメンタリティを持ちがちという研究もある(※11)。

 ネット上の情報の規制については、表現の自由との兼ね合い大きい。安易で恣意的な規制には抑制的であるべきで、ダークトライアドのような極端な性格を持つ人が集まった集団やその勢力の伸張などには注意しつつ、そうした人が疎外感を抱きにくい社会環境にしていくことが重要だ。

 行政には、信頼できる情報発信に努め、広報活動を強化することが求められる。明らかなデマや流言飛語、誹謗中傷、罵詈雑言には、法的な措置を含めた毅然とした対応を迅速に取ることも考慮すべきだろう。

 一方、ユーザーの側としては、教育により小さい頃から正しいメディア・リテラシーや常に情報については懐疑的に思考する習慣を身につけ、自分なりに判断できる力を強くしていくことが重要だ。

 具体的には、ネットには耳障りが良く自分に都合のいい情報しか届かないレコメンドシステムやフィルターバブルなどの機能があることを熟知し、自分なりに信頼できる情報源を利用し、情報を多角的に得て一時の感情に左右されないよう注意することなどが必要となる。

※1-1:Delroy L. Paulhus, Kevin M. Wiilliams, "The Dark Triad of personality: Narcissism, Machiavellianism, and psychopathy" Journal of Research in Personality, Vol.36, Issue6, 556-563, December, 2002

※1-2:Bruno Bonfa-Araujo, et al., "Considering sadism in the shadow of the Dark Triad Traits: A meta-analytic review of the Dark Tetrad" Personality and Individual Differences, Vol.197, 111767, October, 2022

※1-3:Rachel Grieve, "Socially aversive dark traits and the drive for social connectedness" Personality and Individual Differences, Vol.202, 111962, February, 2023

※2:Andrea L. Glenn, et al., "Values, Goals, and Motivations Associated with Psychopathy" Guilford Press Periodicals, Vol.36, No.2, February, 2017

※3:Sharon Jakobwitz, Vincent Egan, "The dark triad and normal personaligy traits" Personality and Individual Differences, Vol.40, Issue2, 331-339, January, 2006

※4-1:Dennis E. Reidy, et al., "Unprovoked Aggression: Effects of Psychopathic Traits and Sadism" Journal of Personality, Vol.79, Issue1, 75-100, February, 2011

※4-2:Janko Mededovic, Boban Petrovic, "The Dark Tetrad" Journal of Individual Differences, Vol.36, Issue4, November, 2015

※5:Bradley A. White, "Who cares when nobody is watching? Psychopathic traits and empathy in prosocial behaviors" Personality and Individual Differences, Vol.56, 116-121, 20, September, 2013

※6-1:Anna Kurek, et al., "''I did it for the LUIZ': How the dark personality predicts online disinhibition and aggressive online behavior in adolescence" Computers in Human Behavior, Vol.98, 31-40, 24, March, 2019

※6-2:Mehmet Emin Turan, et al., "The mediating role of the dark personalty triad in the relationship between ostracism and social media addiction in adlescencts" Education and Information Technologies, Vol.29, 3885-3901, 29, June, 2023

※6-3:Weilin Xu, et al., "A meta-analysis of the relationship between personality traits and cyberbullying" Aggression and Violent Behavior, Vol.79, 101992, 6, September, 2024

※7:Marco Giancola, et al., "Dark Triad and COVID-19 vaccine hesitancy: the role of conspiracy beliefs and risk perception" Current Psychology, Vol.43, 16808-16820, 31, March, 2023

※8:Yongzhi Jiang, et al., "Dark Triad and relational aggression: the mediating role of relative deprivation and hosile attribution bias" Frontiers in Psychology, Vol.15, 29, November, 2024

※9:Ashraf Sadat Ahadzaheh, et al., "Social media skepticism and bilief in conspiracy theories about COVID-19: the moderatiing role of the dark triad" Current Psychology, Vol.42, 8874-8886, 10, August, 2021

※10:Kaisheng Lai, et al., "How dark triad influences rumors spreading on social media? Mediating role of declining third-person effect" Current Psychology, Vol.43, 7007-7013, 29, June, 2023

※11:David De Coninck, et al., "Dark Triad personality traits and realistic and symbolic COVID-19 threat: The role of conspiracy mentality" Scandinavian Journal of Psychology, Vol.65, Issue2, 331-338, April, 2024

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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