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WHO年次総会。日本で報道されていない新型コロナ感染拡大防止策

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
手洗いは重要(WaterAid/James Kiyimba)

大国の対立を取り上げた報道が目立つ

 新型コロナウイルス(以下新型コロナ)への対応を主たる議題とした、WHOの年次総会が、5月18日、19日、テレビ電話会議で開催された。

 テドロス事務局長が「WHO設立以降、最も大事な総会の1つ」と強調することではじまった今回の総会。

 国内メディアが主に取り上げているのは、感染拡大に成果を上げたとされる台湾のオブザーバー参加が中国の反対で認められなかったこと、米国の中国の初動対応への批判など、米中の緊張関係の高まり(「新たな冷戦」)が多い。新型コロナ対策よりも政治的な話題に重きが置かれている。

 米国のWHO批判も大きく報じられているが、総会でスピーチした各国首脳は一様に「WHOへの支持」「連帯と協力」をうったえ、「新型コロナへの国際対応を検証すること」を求める決議案を採択し閉幕した。WHOという場で国を超え、新型コロナに関する経験を共有することは重要だ。何しろ現時点では、新型コロナの正体も、対策として何が有効で、何が有効ではなかったのかもわかっていない。

 新型コロナの対策としては、韓国の文在寅大統領が「ワクチンと治療法は全世界に公平に配布されなければならない公共財。韓国はワクチンと治療法を確立するWHOの取り組みを支持する」、フランスのマクロン大統領が「医療へのアクセス、ワクチン接種、健康システムの強化」と発言したように、「ワクチン」に期待する声が多かった。

 今後ワクチンの開発が急ピッチで進むであろう。

水と衛生の整備こそ重要

 その一方であまり報じられていないのが、「水と衛生」の重要性である。

 これについてテドロス事務局長は「衛生設備の欠如は世界的な保健安全の重大な弱点」「持続性のある保健医療施設が必要」と発言している。

 その理由は以下のとおりだ。

 水と石けんによる手洗いは新型コロナへの対策として有効とされるが、それができない人は世界で30億人いる。しかし、多くの低中所得国で手洗いのための施設が家の中になく、また、手洗いの大切さや適切な手洗いの方法が広く知られていない。

 たとえば、水と石けんが使える設備をもたない人は、バングラデシュで65%、インドで40%。

 さらに後発開発途上国(開発途上国のなかでも特に開発が遅れている国)では人口の約4分の3が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備を使うことができない。リベリアで99%、エチオピアで92%、マラウイで91%、ザンビアで86%の人が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備施設をもたない。

 つまり、新型コロナへの対策として有効な「手洗いができる人」のほうがごくわずかなのである。

 そうした地域で感染者が出た場合、水汲みの頻度を上げざるを得ない。ただでさえ負担の大きい水汲みの負担が増すし、水汲み場に人が集まることによってクラスターになってしまうこともあるだろう。貧困層の人々は手洗いもままならず、新型コロナに怯えながらも、取り残されたままである。

 さらに後発開発途上国の保健医療施設では、その55%で基本的な水を利用できるような設備がない。日本で考えたら水の使えない病院が半分ということである。これは考えられないことだろう。

 すでにアフリカでは、すべての国で新型コロナの感染者数が増加している。7万件以上の感染例が報告され、2000人以上が命を落としている。前述のような水と衛生の設備がない地域では、今後、感染が拡大していくことが懸念される。WHOはアフリカで、1年間に19万人が命を落とすかもしれないと警戒を強めている。

 開発途上国への水と衛生を支援する国際NGOウォーターエイドは、人々がこまめに手洗いできるよう、市場、バス停など多くの人々が集まる場所に手洗い設備を設置している。下の写真のように衛生を考慮し足踏み式の施設もある。しかし、こうした施設はまだまだ不足している。

写真 WaterAid Malawi
写真 WaterAid Malawi

 また、人が集まると感染のリスクがあるため設置が遅れたり、石けんと水を使った手洗いについての教育活動がこれまでのようなかたちでできないなど、新たな問題とたたかいながらの支援が続く。

 ウォーターエイドは、昨年のWHO総会でも水と衛生の改善を提言したが、各国のリーダーの水と衛生への関心が低く、状況は改善していなかった。そこに新型コロナである。世界中で新型コロナが収束しなければ、第2波、第3波があると考えられ、これは私たちの問題でもある。

 いまこそ世界のリーダーは水と衛生の大切さをいまいちど認識すべきだろう。それが最終的には地球レベルでの感染収束につながり、自国を守ることにつながる。さらには今後の気候危機による渇水や洪水、新たなウイルスの対策にもなる。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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