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米中の指導者が今こそ読むべき“あの人”の「平和を守る」という私信

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
オンラインで会談するバイデン米大統領と習近平中国国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 米中対立が激化する現状は、かつての米ソ冷戦時代とどれだけ類似しているのか。当時、米ソ両国は強い緊張関係にありながらも、相手側の意図を正確に把握してきた側面もあり、有識者は、今の米中両指導者が学ぶべき点が多いと指摘する。

◇非公式な議論を活用

 米ソ冷戦時代の教訓について詳細に論じているのが、米外交誌フォーリン・アフェアーズ(2021年11月29日付)に掲載された「冷戦の歴史は米中の災難を防げるか? 過去の正しい教訓を学ぶ」。冷戦史研究の第一人者、オッド・アルネ・ウェスタッド(Odd Arne Westad)米エール大教授と、中国・人民大国際関係学院の李晨(Li Chen)准教授が執筆した。

 冒頭に記されているのが1961年2月、米大統領に就任したばかりのジョン・F・ケネディ氏(1917~63)が、当時のソ連指導者、ニキータ・フルシチョフ共産党第1書記(1894~1971)にあてた私信だ。

「われわれは、互いに正直に、同意できない問題があることを認識すべきだと思う。これらの問題のすべてについて共通の見解を持っているわけではなく、今後も持つことはないだろう。しかし、その問題への対処の仕方、特に意見の相違をどのように処理するかは非常に重要であると信じている」

「相違がどんなに大きくても、誤解や不必要な乖離を排除するのに役立つ対話の仕組みとして、ごく非公式に議論するための外交チャンネルを可能な限り活用すべきだと考えている」

 ケネディ氏は当時、両国関係を嘆きつつも、少しでも協力できそうなことを見いだすことができれば、それ自体が、平和で、秩序ある世界への貢献になると主張している。

 論文は「米中対立が激化する今、両指導者は同じように対処すべきだ」と訴える。今年11月に開かれたオンラインによる首脳会談で、双方はいったん、それは認めているようだ。バイデン米大統領は「両国間の競争が衝突に発展しないよう、共通認識に基づくガードレールを設ける必要がある」、習近平(Xi Jinping)中国国家主席も「両国は意思疎通と協力を強め、互いの国内での事項を上手に処理するだけでなく、国際的責任も引き受けるべきだ」と語っているためだ。

◇思い込みへの戒め

 米ソ冷戦が激化した要因として、論文は、相手の意図や能力、国際情勢に対する戦略的な誤解などを挙げる。米ソは、相手の攻撃的な意図を過度に印象づける一方で、国内における不一致を強調し、大規模な軍備増強を正当化していった。

 また論文は「両者はしばしば、相手の動機を誤って解釈した」とも指摘し、「戦略的な誤解は、特に危機の際に顕著であった」と分析している。

 たとえば、朝鮮戦争(1950~53)勃発を米国は「ソ連の世界的な攻勢の前兆」と考えた。中国は、米軍が台湾海峡に海軍を派遣しつつ、朝鮮半島の38度線を北上したことをとらえて「朝鮮半島への介入が自国の生存のために不可欠」と判断した。ベトナムでもアフガニスタンでも、相手国からの搾取を恐れて、コストのかかる軍事介入を繰り返した。

 こうした誤解を和らげるのに欠かせないのが、個人外交である、と論文は訴える。

 冷戦時代、米ソの両指導者は頻繁に、外交手段や個人的な接触を通じて、相手側の戦略的なたくらみを阻止しつつも、「あなたがたを大国として尊敬している」と伝えてきた。

 冷戦期の米中関係は、1972年2月に当時のニクソン大統領が中国を訪問したことが突破口となった。ニクソン氏やキッシンジャー大統領補佐官(当時)は、自国の国益のために行動する反共主義者でありながらも、中国では尊敬の対象になっていた。2人は世界観の違いはあっても、毛沢東(Mao Zedong)主席や周恩来(Zhou Enlai)首相(いずれも当時)と同様に、相手を尊重しながらも、自身の主義・主張を貫くという点をたびたび強調した。

 論文は「このような相互尊重が、敵対から正常化への移行を促した」と改めて強調している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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