ブラック企業大賞「市民投票賞」に財務省?そもそもブラック企業とは…?
今年も「ブラック企業大賞」の結果が発表された。
今年は三菱電機が大賞、「有給ちゃんと取らせろ賞」としてジャパンビバレッジなどが受賞している。
「ブラック企業」という言葉の強さもあって各ニュースメディアがこぞって取り上げているが、どのメディアも盲目的に発表内容を取り上げてしまっているように感じられる。そこで今回は少し別の観点から考察してみたいと思う。
【企画は今年で7年目】
この企画は今年で7回目となり、審査員の所属はNPOや弁護士、ジャーナリストなど様々だが、概ね「労働問題」に関わるステークホルダーが多いという特徴がある。
それについては良い事でも悪い事でもないが、そういった観点から審査が行われているというのは留意しておくべき点だろう。
昨年もこの大賞については紹介したが、定量的なデータに基づいた評価を行う企画ではないため、基本的には何かしら「悪い意味で話題になった企業」がノミネートされている。
逆に言えば、どんなにブラック企業であったとしても話題に上ることがなければ取り上げられる事はない。あくまでも「氷山の一角の事例」として参考にするのが良いだろう。
「更に酷い環境の企業もあるのだから、大手ばかりではなくもっと色んな企業をしっかり分析して欲しい」という声も聞こえてくる。
【官庁である財務省がノミネートされた理由とは?】
だが、今年の結果で興味深かったのは「市民投票賞」に財務省が選ばれた事だ。
興味深い点としては3つあり、
・民間企業ではない省庁が「ブラック企業大賞」にノミネートされていること
・受賞理由となった事案は「従業員」に対するハラスメントではなく、外部のテレビ局記者に対するハラスメントが原因であったこと
・「ウェブ投票」や「会場投票」などの一般人(と思われる)層からの票が集まったこと
という部分である。
参考までに、財務省の受賞理由は下記のように掲載されている。(長いので一部のみ抜粋する)
【財務省は「ブラック企業」の定義に当てはまるのか?】
そもそも、ブラック企業とは何か?
これについて万人に共通する見解・定義は存在しないが、
実行委員会が定義する「ブラック企業」とは、以下の2点だという。
財務省の受賞理由は、従業員(この場合公務員)が何かグレーゾーンの条件での労働を強いられていたという理由ではなく、[1]には該当しない。事務次官が倫理的に問題のある行動を取ったという事例であり、当事者である事務次官も誰かにそれを強いられたわけではないだろう。
「従業員」に対するハラスメントではないため[2]にも該当しない。ハラスメントの対象となったのは組織外部の人間だった。
もちろん外部のステークホルダーに対してのハラスメントが常態化している組織であれば「ブラック企業」と呼ばれても仕方がないかもしれないが、事務次官など権力のある立場の人間によるハラスメントが常態化しているかどうか、同委員会のウェブサイトに掲載されている情報から判断する事は難しい。
いずれにしても委員会の定義に該当しない時点で、財務省はイレギュラーなノミネート事例であると言えるだろう。
そしてそのイレギュラーな事案がウェブ投票および会場投票によって選ばれたというのは非常に興味深い。
【解消すべき労働環境には注目しないのか?という疑問】
しかし心配になってしまうのは、「その受賞理由(セクハラ問題)で良かったのだろうか?」という事だ。
今回の財務省の受賞に対して、
「財務省は職員の労働時間も長く、ブラック企業と言ってしまっても問題ない」という意見もあった。
しかしそれは今回のノミネート理由には記載されておらず、また財務省に限った話でもない。
実際のところ、「民間企業の基準で比較するとブラック企業並の労働条件なのでは」と思われるような働き方をしている公務員も多いだろう。
「霞が関国家公務員労働組合共闘会議」の公務員に対する調査によると、「過労死の危険を感じた事がある」という公務員は約3割前後で推移している。
国家公務員は法定外労働時間を労使間で協定する権利がないため無制限に時間外労働を強いられ、休日出勤も多い。業務量の多さや国会対応のため、残業も多い。
「働き方」という観点で解決すべき問題を抱えていることは凡そ間違いではない。
しかし少なくとも今回のブラック企業大賞では事務次官によるセクハラ問題にばかり注目が行ってしまい、そこで働く公務員の労働環境にはあまり注目がされていない。
まずは「スポットライトを当てただけでも成功」という考え方もあるかもしれないが、
話題性のあるセクハラ問題だけに焦点が当たってしまった感があるのは非常に残念に感じてしまった。
「セクハラ問題の方が優先だ」と考えられたのかもしれないが、「ブラック企業」という観点から中央官庁の事を考えるのであれば、もっと解決すべき問題もあるのではないだろうか。
今後は是非そういった点でも議論が進むような展開を期待したい。