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新型コロナウイルス 国内感染者の発症時期を分析 1月からの"見えない流行"顕在化

楊井人文弁護士
国内で感染が報告される事例も増えている(写真:アフロ)

日本国内で、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者が次々に判明しており、報道を見ると、ここ最近になって急に感染が広がったようにみえる。だが、公表されている情報に基づき分析したところ、中国渡航歴がなく国内で感染したとみられる感染者のうち10人が1月には感染し、発症していたことがわかった。専門家も「日本国内で既に広がっていた『見えない流行』が顕在化したと考えるべきだ」と指摘している。

【注:本稿は2月16日時点のデータに基づくものです。詳細版と最新データはINFACTに掲載する予定です】

INFACTが厚生労働省や東京都など自治体の発表資料を元に集計したところ、2月16日時点までに確認できた感染者は57人(クルーズ船感染を除く)。この中には、武漢等から来日した中国人やチャーター便で帰国した人、武漢等への渡航歴がある人なども含まれている。直近では中国渡航歴がなく、国内で感染したと思われる人のうち、発熱等の発症をして陽性診断されたのは25人。この人たちの発症した時期を、公表された資料から調べたところ、結果は次の通りとなった。

<国内感染者25人の発症時期別人数>

  • 1月23日までに発症:4人(うち1人が2月13日に死去)
  • 1月24日〜31日に発症:5人
  • 2月1日〜8日に発症:11人
  • 2月9日〜16日に発症:3人
  • 発症した時期が不明:2人

※1月23日=中国が武漢の都市封鎖を開始し、武漢と日本の間のフライトが止まった日

※2月1日=日本が湖北省出身者らの入国拒否を実施した日

(2月16日現在、INFACT調べ)

この中には2月にハワイ旅行中に発症し、(ハワイでは感染例が報告されていないため)1月28日の離日前に感染した可能性が高い人がいる。その人を含めると、1月31日までに国内で感染していたと疑われる例は、少なくとも10人はいると考えられる。発症日順に並べると、以下の通りとなる。

<1月中に国内で感染したと疑われるケース>

  • 40代女性バスガイド(大阪) 1月20日発症、1月29日陽性確定
  • 20代女性バスガイド(千葉) 1月20日発症、1月31日陽性確定
  • 70代男性(東京) 1月20日発症、2月13日陽性確定
  • 80代女性(神奈川) 1月22日発症、2月13日陽性確定(死去)
  • 60代男性バス運転手(奈良) 1月24日発症、1月28日陽性確定
  • 20代男性(京都) 1月24日発症、2月4日陽性確定
  • 70代男性タクシー運転手(東京) 1月29日発症、2月13日陽性確定
  • 50代男性医師(和歌山) 1月31日発症、2月10日陽性確定
  • 50代男性(北海道) 1月31日発症、2月14日陽性確定
  • 60代男性(愛知) 2月3日発症、2月14日陽性確定(※)

※ハワイ渡航中に発症しているため、離日した1月28日以前の感染と疑われるケース

潜伏期間は1〜12.5日(多くは5〜6日)とされている(厚生労働省Q&A)。発症日から逆算すれば、感染時期はある程度推測できると考えられる。

これを見ると、2月に感染が判明した人のうち7人が、1月中〜下旬に感染、発症したケースであったことがわかる。発症から陽性確定までにかなりのタイムラグがあり(背景に、検査体制などの問題も考えられる)、「感染者判明」の発表・報道がなされても、それが直近の感染事例とは限らないということを示している。最近、都内で多くの無症状感染者も見つかったが、1月18日の新年会で中国人と接触する機会があったとみられている。

世界保健機関(WHO)で重症急性呼吸器症候群(SARS)の対策に当たった東北大大学院医学系研究科の押谷仁教授も、河北新報の取材に「感染性は強く、日本国内で既に広がっていた『見えない流行』が顕在化したと考えるべきだ。感染者が重症化したSARSと違って軽症の場合が多く、感染した人が検査の対象とならずに見逃された可能性が高い。見えにくい感染症であり、人類が経験したことのない事態だ」とコメントしている(2月15日付記事)。

中国が武漢市を封鎖を始めたのが1月23日だった。しかし、すでに中国から多くの観光客らが来日しており、湖北省出身者らの入国を禁止したのが2月1日から。1月の早い段階から感染は広がっていた可能性は否定できなくなりつつある。これまで見えていなかった感染事例のうち、発症、重症化した事案が、ここにきて次々と表に出てきたということだ。今後もさらに感染報告が増える可能性はある。

ただ、今のところ重症化・死亡に至るケースはそれほど多いわけでなく(確認されている国内での感染者25人のうち、死亡は1人、重症化は数人とみられる)、症状があっても回復した人も少なくない(最初に国内初感染と報道された武漢の観光客を乗せたバス運転手も退院している)。社会全体で感染拡大と重症化のリスクを減らす対策を講じつつ、「見えにくい感染症」をできるだけ可視化して、冷静に推移をみきわめていく必要があるだろう。

また、国内外で不確かな情報も多数出回っている。パニックを誘発しかねず、感染拡大リスクを広げるという指摘もある。感染リスクとともに、真偽不明・偽情報が氾濫する「インフォデミック」というもう一つの現象・脅威にどう立ち向かうか。国内外のファクトチェック状況を一覧できるFIJの特設サイトも参考にしつつ、情報発信、シェアのあり方について考えていただければと思う。

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弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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