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今年も越年台風なし 20世紀後半には10年に1個くらいあった越年台風が24年間0個

饒村曜気象予報士
気象庁作成の専門家向けのアジア太平洋天気図の一部(平成13年1月1日9時)

台風番号

 台風には昭和28年(1953年)以降、台風番号がつけられています。そして、昭和26年(1951年)と昭和27年(1952年)は、台風の発表基準が同じであることから、遡って台風番号がつけられています。

 これが、台風に関する各種統計が昭和26年(1951年)から作られている理由の一つになっています。

 台風番号は、年毎に台風が発生するたびに1号、2号、3号…と発生順につけられた番号です。一旦、台風に番号がつくと、その番号はその台風がどのような形態になっても同じ番号が使われます。

 台風が「熱帯低気圧」に衰弱し、その後再発達して台風となった場合は、最初に付けられた台風番号が再び使われます。

 極端な話、年末に台風40号が“熱帯低気圧”に衰弱し、年が変わってから再発達して台風となった場合があったときも、この台風はその年の台風1号ではなく、前の年の台風40号です。

越年台風

 今から23年前、平成13年(2001年)1月1日9時の地上天気図には、フィリピンの東に台風23号があって北東に進んでいます(タイトル画像)。

 この台風は平成13年(2001年)の台風ではなく、平成12年(2000年)の台風が越年したものです。

 新年早々の台風ですが、21世紀最初の台風である台風1号ではなく、20世紀最後の台風23号で、越年した台風です。

 平成12年12月30日9時にフィリピンの東海上で発生したもので、2000年で23番目の発生から台風23号と名付けられ、年が変わっても同じ番号で呼ばれているからです。

 20世紀最後の台風である台風23号は、発生が12月30日9時と、最も遅い発生日時の台風です。

 そして、北東に進んで、フィリピンの東で熱帯低気圧になりました(図1)。

図1 平成12年(2000年)の台風23号(越年台風の経路)
図1 平成12年(2000年)の台風23号(越年台風の経路)

 台風の統計が作られている昭和26年(1951年)以降、越年した台風は5個あり、このうち平成は、前述の平成12年(2000年)台風23号の1個で、令和はなく、残りは昭和の4個です(図2、図3)。

図2 昭和の越年台風の経路(昭和27年(1952年)台風27号、昭和34年(1959年)台風23号、昭和52年(1977年)台風21号)
図2 昭和の越年台風の経路(昭和27年(1952年)台風27号、昭和34年(1959年)台風23号、昭和52年(1977年)台風21号)

図3 昭和の越年台風の経路(昭和61年(1986年)台風29号)
図3 昭和の越年台風の経路(昭和61年(1986年)台風29号)

 つまり、20世紀後半には10年に1個くらいあった越年台風は、21世紀になってからはありません。

 ちなみに、越年台風5個のうち、3個はフィリピン南部に上陸しています。

 令和6年(2024年)の正月は、新型コロナウイルスの行動制限が解除された最初の正月であり、フィリピンへ越年ツアーででかけている観光客も多いと思いますが、台風はありがたくないというか、迷惑をかける越年客です。

令和5年(2023年)の台風

 令和5年(2023年)の台風の発生数は、平年の25.1個より少ない17個で、1951年の統計開始以降で3番目の少なさでした(表1)。

表1 台風の年間発生数が少ないランキング(昭和26年(1951年)~令和5年(2023年))
表1 台風の年間発生数が少ないランキング(昭和26年(1951年)~令和5年(2023年))

 台風の年間発生数が一番少なかったのは、平成22年(2010年)の14個で、ランキング上位には、最近のものが多く入っています。

 近年、年間台風発生数は、台風発生が多い年と少ない年の差が大きくなる傾向にあるようです。

 令和5年(2023年)の台風発生数が少なかったのは、9月以降に台風発生数が少なかったことが影響しています。9月以降は、平年であれば11.6個発生するところが、5個の発生と、記録的な少なさでした(表2)。

表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値(接近は2か月にまたがる場合があり、各月の接近数の合計と年間の接近数とは必ずしも一致しない)
表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値(接近は2か月にまたがる場合があり、各月の接近数の合計と年間の接近数とは必ずしも一致しない)

 これは、南シナ海からフィリピン付近まで広がる気圧の谷であるモンスーントラフが、平年より弱く、この付近の対流活動が不活発なことが要因の一つと考えられています。

 また、平年であれば台風が3.0個上陸します。

 令和5年(2023年)の台風上陸は台風7号のみでしたが、接近した台風6号と13号でも大きな被害が発生しました。

 7月末から8月にかけて沖縄・九州に接近した台風6号は、複雑な進路をとり、長い期間影響を受けた沖縄・奄美地方や、台風接近前から雨が降り続いた九州南部や四国地方を中心として大雨となりました。

 台風7号は8月15日5時前に和歌山県潮岬付近に上陸しましたが、台風の通過や台風周辺の暖かくて湿った空気の流入で近畿・中国地方を中心に記録的な大雨となり、鳥取県では大雨特別警報が発表となりました。

図4 台風7号の進路予報と海面水温(8月13日21時)
図4 台風7号の進路予報と海面水温(8月13日21時)

 9月上旬に沖縄近海から西日本の南海上を進んだ台風13号は、南からの暖湿空気を台風の東側で北上させたため、台風の中心から離れた場所で雨雲が発達し、関東地方から東北地方の太平洋側で大雨となりました。

正確だった令和5年(2023年)台風の進路予報

 気象庁では、毎年台風予報について検証を行っており、その結果を12月末に速報値として、翌年2月頃に確定値として公表しています。

 このうち、台風予報の進路予報の検証(速報値)は、図5のようになっています(図5)。

図5 台風進路予報誤差の経年変化
図5 台風進路予報誤差の経年変化

 台風進路予報の精度はその年の台風の特徴に起因する年々の変動がありますが、長期的にみれば向上しています。

 予報円表示が始まった昭和57年(1982年)当時、24時間先(1日先)までしか予報していませんでしたが、その24時間先の予報でも、平均誤差は200キロ以上ありました。

 令和5年(2023年)の1日先の平均誤差は3分の1以下の61キロです。

 また、3日先の平均誤差は164キロと、昭和57年(1982年)当時の1日先の予報より、はるかに小さい誤差です。

 ただ、1日先から3日先までの予報精度は、これまでで最も高い結果となりましたが、4日先と5日先では、5年くらい前の平均誤差に戻っています。

 とはいえ、4日先、5日先の台風進路予報を開始した平成21年(2009年)に比べれば、大きな進歩で、いずれ改善されてゆくと思われます。

タイトル画像の出典:気象庁資料に筆者加筆。

図1、図5、表2の出典:気象庁ホームページ。

図2、図3の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。

図4の出典:ウェザーマップ提供。

表1の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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