JR北、特急割引切符廃止と指定席化で深刻な客離れ えきねっとへの誘導、試みるも顧客ニーズの本質掴めず
JR北海道のダイヤ改正から1カ月余りが経過した。このダイヤ改正で、JR北海道は特急列車の全席指定席化を推進したほか、往復割引切符の発売を廃止。割引切符については、インターネットのえきねっとでの販売に一本化された。しかし、えきねっとは乗客にとっては使い勝手がいいシステムとは言えない。割引運賃で特急列車に乗車するためにはこれまでとは異なり前日までの予約が必要となったうえ、列車に乗車する際には改めて窓口や指定券売機等での紙の切符の発行が必要となった。
こうしたことから札幌から中距離を結ぶ特急列車での客離れが深刻化している。例えば、札幌―東室蘭間ではダイヤ改正前が往復割引切符の特急自由席利用で往復5,230円だったのに対して、ダイヤ改正以降は窓口購入の場合は往復9,380円へと一気に2倍近くに値上げ。札幌から東室蘭方面は特急北斗号に加えて特急すずらん号も全席指定席となったことから、当日の急な出張などでの乗車ではこれまでの2倍近くとなる正規運賃を払う以外に方法がなくなり深刻な客離れを引き起こしている。SNS上には、車内に乗客が誰もいない空気輸送状態の特急すずらん号の車内画像等が相次いで投稿されている。
なお、北海道中央バスと道南バスが共同運行する高速むろらん号であれば、札幌から室蘭市内までは片道2,500円。往復では4,580円となっている。なお、所要時間については札幌―東室蘭間では特急すずらん号が1時間28分に対して高速むろらん号は2時間28分と1時間も長く時間がかかるのにも関わらず、高速バスとの2倍の価格差は利用客にとっては到底受け入れられないものとなっているようだ。地元紙が報じたところによると、3月のダイヤ改正以降、高速バスの利用者が伸びているといい、JRの客離れが裏付けられている。
JR北海道が目論んでいたえきねっとへの誘導が上手くいかなかったのは、えきねっとに顧客を誘導してコストの削減を達成したいという自社の願望だけが先走り、顧客ニーズの本質やバスやマイカーといった潜在的な競合相手の存在を見落としていたことだ。さらに、えきねっとの使い勝手の悪さも顧客をJR北海道から遠ざけている要因となっている。
えきねっとは、高速バスや飛行機の予約システムとは異なりネット上で予約を完結できないことが最大の問題だ。列車に乗るためには駅窓口や指定券売機などでの紙の切符の発行が必要となる。顧客にとっては、割引運賃で列車に乗ろうとすると、これまでの窓口や券売機購入で完結出来ていたものに、さらにネット予約という手間が加わった形だ。これでは、いくら特急すずらん号が所要時間の点で高速バスよりも1時間早いとはいえ、総合的なサービス面ではJR北海道の完敗である。また、ガソリン代との価格差を考えてマイカーに流れた乗客も一定数はいることが予測される。
JR北海道は、国土交通省からの監督命令を受け更なる経営改革を押し進めるとしている。しかし、本来、札幌近隣のドル箱路線であっても顧客ニーズの本質を正しく理解できず客離れを招くような組織体が、北海道の鉄道経営を担うことが本当に適切なのか、抜本的な制度改革を考える時期に差し掛かっているのではないだろうか。北海道の鉄道インフラを民間に開放し、マーケティング能力に長けた事業者に北海道の鉄道運行を担わせるということも一つの策である。
高速むろらん号の実情は【北海道】乗り物大好きチャンネルさんでも詳しく紹介されています。
(了)