天文・宇宙の話題 2020年を振り返る
世界で初めて小惑星内部の礫や砂の採取に成功したと思われる日本の探査機「はやぶさ2」の成果に日本中が沸いた2020年。振り返ってみるとCOVID-19感染症の蔓延で辛い一年間でしたが、一方、天文・宇宙の話題が豊富な一年でもありました。慌ただしい年の瀬ですが、主な天文・宇宙の話題を年越し前に思い出してみましょう。
ベテルギウスの原因不明の急減光 -超新星爆発との関係は?-
オリオン座の1等星ベテルギウスが、2019年秋より暗くなりはじめ、2020年2月10日頃に約1.6等と2等星レベルとなり、この100年間では最も暗い状態の一つとなりました。このため、当時は冬の大三角が容易にそれと同定できない状態になりましたが、その後次第に明るくなり、今年4月ごろには減光前の明るさに戻りました。
ベテルギウスは赤色超巨星と呼ばれるお年寄りの恒星の一つであり、いつ超新星爆発してもおかしくないと考えられており、しばし世間の話題に上りますが、研究者たちは、「ベテルギウスは今晩爆発してもおかしくないが、100万年後かもしれない」と言っています。ベテルギウスの質量は太陽の20倍程度と見積もられていますが、仮にベテルギウスを太陽の場所に置くなら、その直径は地球を飲み込むばかりか木星軌道の近くにまで達します。つまり極めて密度が低く巨大に膨れ上がった特殊な状態の恒星なのです。今回の想定外の減光は、その表面近くでの塵の大規模な放出などが原因として考えられていますが、結論は出ていません。ただ、超新星爆発はその恒星の中心で起こる劇的な変化のため、今回の巨大恒星の表面現象とは直接関係がないという考えが主流です。
ベテルギウスについて、より詳しくはインターネット天文学の項をご参照ください。
習志野隕石の落下 -多くの火球現象が目撃された一年に-
今年は「火球」の目撃情報の多い一年でした。火球とは、流星のなかでも極めて明るいもののことで、100 km以上離れた場所から見て、明るさがマイナス4等級より明るくなったものを火球と呼んでいます。火球は通常の流星よりも大きな流星(通常は数cmから数10 cm程度)が大気に突入したときに観測されるもので、爆発的な現象が見られたり地上で音が聞こえたりすることもあります。そして、稀ながら落下物質が隕石として採取されることもあります。
2020年7月2日午前2時32分には、関東上空で次の映像に示すように満月以上の明るさにまで達する明るい火球が観測されました。閃光から数分後には衝撃波によるものと思われる音も聞こえ、広範囲で撮影された画像や動画から、火球の経路や大気に侵入する前の軌道などが計算されました。
2020年7月2日に東京上空に流れた大火球 その映像と軌道 (提供:KAGAYA)
その後、火球の経路に沿った落下予想地点である千葉県の習志野市と船橋市にて次々と分裂した隕石が発見されました。習志野市のマンションの庭に落下した破片(習志野隕石1号)は、下の写真に示す70gと63gの主な破片の他、その後の調査で発見された小さな破片をあわせて計156gが回収されました。その後、7月22日になって、約1km離れた千葉県船橋市内のアパートで屋根瓦が割れているのが見つかり、瓦の破片と一緒に2つ目の隕石片が発見されました。これを習志野隕石2号と呼び、95gと73gの破片とその他小さな破片をあわせて計194gが回収されました。
これらの発見により、7月2日の大火球は、1つの隕石がバラバラになって多くの破片を降らせる隕石雨(隕石シャワー)であったことが確認されました。
国内で隕石が発見されたのは2018年の小牧隕石(約650g:愛知県小牧市)以来2年ぶりで、国内発見53番目の隕石となりましたが、観測から火球の経路が特定され、落下予想区域で隕石が回収されたのは国内初の出来事です。
はやぶさ2が届けた小惑星リュウグウからの砂や礫および気体成分とともに、本年は宇宙から資源が日本に多くもたらされた年となりました。
梅雨空のかなたにネオワイズ彗星
ひさびさの肉眼彗星の出現に世界中の天文ファンが沸き立った年でもありました。しかし、運悪く日本国内では、大彗星の出現が梅雨と重なり、必ずしも多くの方が観察出来たわけでは無いようです。
ネオワイズ彗星(C/2020 F3)は、3月27日(世界時)にNASAの地球近傍天体広域赤外線探査衛星「NEOWISE : Near-Earth Object Wide-field Infrared Survey Explorer)」により発見されました。発見当時は17等級とあまり話題になりませんでしたが、4月には急激に光度が上がり、7月3日(世界時)に約4,400万kmまで太陽に最接近する前後には1等級まで明るくなり、しだいに彗星本体からのガスや塵の放出量も増え、7月5日以降は、明け方の北東の低空で2本の尾を伸ばすその姿が世界各地で観測され話題となりました。7月15日前後からは、夕方の北西の空に日没後に姿を現し、梅雨空の合間から時折その姿が目撃されるようになりました。北半球にある日本においては、肉眼で誰でもが尾を楽しめる大彗星は実に23年ぶり、1997年のヘール・ボップ彗星(C/1995 O1)以来でした。6月末から7月中にかけて、インスタグラム等のSNSには、世界中で撮影された美しいネオワイズ彗星の尾がアップされ続けました。
すばる望遠鏡ドームのすぐ横に昇るネオワイズ彗星 2020年7月7日 (ハワイ時間) の明け方に撮影。(撮影:田中壱/クレジット:国立天文台)
木星と土星が397年ぶりの大接近
12月20日付の投稿でお知らせしたように、木星と土星が今年12月21日の日の入り後に、南西の低空でわずか0.1度まで大接近しました。幸いに全国の多くの地域で晴天に恵まれ、多くの方々がその様子を楽しんだようです。
地球が太陽の周りを1年かけて公転するように、木星は約12年、土星は約30年で公転しています。木星は天球上での太陽の通り道である黄道上を12年で一周することから歳星とも呼ばれ、黄道12星座(星占いに登場する12星座のこと)を、ほぼ1年に1星座ずつ訪ねていくような動きをします。一方、木星よりも外側で太陽の周りを公転している土星は、地球からみても天球上での動きは遅く、だいたい2年半程度は同じ星座に留まることになります(注:ただし、実際の星座のサイズはまちまちなので、あくまでも12星座の幅を同じと仮定してのお話)。2つの惑星の公転周期の違いから、約20年毎に木星と土星が仲良く同じ星座内に見えることになります。つまり、20年毎にニアミスを起こします。この周期を会合周期と呼びます。しかし、両惑星とも全く同じ面上を公転している訳ではないので、今回の会合のように、ぴったりと寄り添って見えることは極めて珍しい天文現象と言えることでしょう。
今回同様に0.1度以内に接近したのは、1623年7月17日のことで397年前のことです。ただし、この時は太陽に近い位置での会合であったため、観察は難しかったようです。国内の記録をさかのぼると、鎌倉時代の歴史書「吾妻鏡」に1226年3月5日に同様の大接近があったことが記録されているそうです。それは794年前の会合です。
次回の大接近は2080年3月15日となります。
このほかの話題から
はやぶさ2、偉業達成
今年最大の天文・宇宙の話題と言えば、もちろん、はやぶさ2の小惑星リュウグウからの帰還と、サンプルリターン大成功のニュースです。本件についての詳細は、Yahoo!ニュースでも数多くの報道がなされていますのでそちらをご参照ください。
世界で初めて小惑星内部の礫や砂の採取に成功したと思われる日本の探査機「はやぶさ2」。岩石を格納したカプセルが、日本時間の2020年12月6日午前2時28分すぎ、地球に帰還しました。そして「はやぶさ2」本体は、次の小惑星の探査に向けて再び地球を離れています。
初代「はやぶさ」が帰還したのが、10年前の2010年6月13日ですので、はやぶさ2の2014年12月3日の打ち上げは準備期間が短く、とても準備が大変だったはずです。準備期間も含め、探査機の開発・運用の世代交代に成功し、チーム一丸となって取り組んだ成果と言えましょう。
初号機はやぶさがイトカワというS型小惑星を探査したのに対し、より一般的なC型小惑星を調べたいという科学的な目的からC型小惑星リュウグウを目指しました。初号機は主な目的が、イオンエンジンのテストや自律式遠隔航法の試験機というミッションであったのに対し、はやぶさ2は次の3つの目標を掲げたミッションです。
1.我々はどこから来たのか?(太陽系の起源、地球の起源、地球の海の起源、生命の起源)
2.宇宙探査の工学技術の開発
3.人類の夢(フロンティア)
今年は新型コロナウイルスの感染拡大など明るい話題が少ない中で夢や希望を与えてくれる貴重な存在ともなりました。はやぶさ2の旅はまだまだ続くきます。次の目的地は、「1998KY26」という小惑星です。直径が30m程度、自転がとても速い今まで訪ねたことが無いタイプの小惑星です。2031年7月に到着、ランデブーをして探査する予定とのことです。
2年続けて、ノーベル物理学は天文・宇宙の研究成果へ
2020年ノーベル物理学賞は、ブラックホール研究の進展に貢献した欧米の研究者3氏に送られました。ブラックホールの理論研究に貢献した英国・オックスフォード大学のペンローズ、天の川銀河中心の超巨大ブラックホールの観測研究に貢献したドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所のゲンツェル、および米国・カリフォルニア大学のゲッズです。ゲッズ氏の主要な業績である、天の川銀河中心にある超巨大ブラックホールの重力の影響を示した論文には、国立天文台のすばる望遠鏡が取得したデータも使用されています。
昨年2019年のノーベル物理学は、宇宙論のピーブルス(米国)、1995年に太陽系外惑星を発見したスイスのマイヨールとケローが受賞しています。天文学研究が2年続けて受賞することは珍しく、近年は天文学研究の進展が著しい証拠とも言えましょう。